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16.田中真凛は兄が好き!

 田中真凛、中学一年の13歳です。

 趣味はお兄ちゃんで、好きな人ももちろんお兄ちゃんです。幼い頃、初めてこの家にやって来た時、不安だった私をお兄ちゃんは優しく迎えてくれました。兄弟がおらず一人だった私は、すぐにお兄ちゃんのことが好きになっちゃいました。


 ちょっとオタクっぽいところもあるお兄ちゃんですが、ちゃんとすればかなりのイケメンで、それが私の隠れた自慢であり、だから最近友達がお兄ちゃんのことを『カッコいい!』と言ってくれるのはすごく嬉しいです。

 だからお兄ちゃんが事故に遭って病院に運ばれたと知った時は、私はこの世の終わりを感じたほどでした。幸い翌日には目を覚ましてくれたのですが、驚くべきことに記憶を無くしてしまっていて、こんなに可愛い妹のことすら覚えていませんでした。この日からお兄ちゃんは別人のようになりました。急に身だしなみを整えてさらにカッコよくなり、態度もまるで大人のようになったんです。


 でも思うんです。

 事故があって変わってしまったお兄ちゃんだけど、やっぱり私のことを大切に思ってくれており、どこか私への愛すら感じます。不思議と接し方も『一人の女性』として扱ってくれるようになりました。だからそんなお兄ちゃんを見るたび私はドキドキしちゃうし、お兄ちゃんは大好きだけど、なんだかそれ以上の気持ちを抱いてしまいます。

 これは何でしょうか。私はお兄ちゃんの妹。本来、それ以上は望んではいけない存在です。でも幸か不幸か、私は義理の妹。お兄ちゃんとは血の繋がりはありません。戸籍上の兄弟。本来は他人なんです。これはつまり……、と言った妄想を知らず知らず抱いてしまいます。




「ねえ、これお兄ちゃんにそっくりなだけど……」


 だから私は驚きました。

 あの日見た週刊誌。美人天才科学者『藤堂ライカ』と一緒にカフェにいた高校生。ぼかしが入っているんだけど、まるでお兄ちゃんそっくり!!


「え? 違うよ。違うって」


 お兄ちゃんは否定しました。でもビシビシと反応しているんです、お兄ちゃんセンサーが。お兄ちゃんが外で誰と会っているのは私は知りません。いつかお兄ちゃんが遠くに行ってしまう気がして悲しくもなるのですが、でも家にいる時は『私だけのお兄ちゃん』でいてくれます。


 そう、私はお兄ちゃんがいれば幸せなんです。

 だからお兄ちゃんが帰ってこなかったあの日は、私にとって地獄のような日となりました。


「ねえ、お母さん。お兄ちゃん、どこ行ったの?」


 その日の夕食。私はいつもなら家でラノベを読んでいるお兄ちゃんがいないことに気付き、お母さんに聞いたんです。


「ああ、玄人ならさっき電話があって友達の家に泊まるんですって」


 私の体に電気ショックが走りました。



 ――女と一緒だ


 そう告げるんです。女の勘でしょうか。お兄ちゃんがどこか綺麗な女の人と仲良くしている。綺麗な夜景でも見ながら楽しく会話している。そんな妄想が頭の中をぐるぐる回り始めます。すぐに電話やメッセージを送ったんだけど、無反応。翌朝になって『ごめんね』って返って来ただけ。朝帰りしたお兄ちゃんを問い詰めたけど、のらりくらりかわされはっきりしません。

 お兄ちゃんはカッコいいんです。居るだけで女の人が寄って来てしまうんです。ようやく世界がそれに気付いたんです。私だけが知っていたお兄ちゃんの秘密を。



「じゃあ、行ってくるな。真凛」


「いってらっしゃい、お兄ちゃん」


 でも一晩寝ると、やっぱりお兄ちゃんの魅力に溶かされてしまいます。お兄ちゃんと一緒。お兄ちゃんと同じ時間を共有できる。それだけで私は満たされます。



 だから正直、学校に行くのも面倒に感じてしまいます。特に最近は、


「ねえ、真凛。学校終わったらカラオケ行こ!」

「立花君たちも誘っちゃおっか??」

「いいね、誘おう! 誘おう!」


 クラスの友達がよく遊びに誘います。友達と遊ぶのは好きです。カラオケも大好きで結構行きます。でも友達がクラスで気のある男子を誘うんです。それなりにカッコいい立花君。私はまるで興味がないんだけど、よく彼が話しかけてきます。



「なあ、田中はどんな歌うたうの?」

「あ、俺もそれ好き!」


 どうでもいいです。興味も関心もない。お兄ちゃんが好きなアニソンを連続で歌ったけど、無理して盛り上げようとするところなんかウザいだけです。でもこれはまだいいんです。無視しておけば済む話なので。一番困るのは部活の時なんです。




「田中、サッカー部のやつがお前に話があるって」


 部の先輩から呼ばれて向かったサッカー部。不安だった私の前に、その金色の短い髪のサッカー部の男が現れて言いました。


「お前、この間俺にガン飛ばしただろ? 舐めてんのか!?」


 意味が分かりません。全く身に覚えがありません。体の大きなサッカー部の先輩たちに囲まれて私は生きた心地がしませんでした。周りの人たちが言います。


「ふざけてんな。どう責任取るんだよ!」

「一年のくせに生意気なんだよ」


 私は頭が真っ白になりました。必死に弁解しましたが、彼らは全く聞き耳持たず。泣きそうになる私に、その金髪の先輩が言いました。



「じゃあ、これから俺に付き合えよ。お前の誠意を見せろよ」


 私は放課後に、望まぬままこの先輩と二人だけで街へと連れて行かれました。ゲーセンにカラオケ、ファミレスなど。終始、高圧的な態度だし、体も何度も触られました。怖かった。帰りたかった。お兄ちゃんに助けて欲しかった。でも、知らない男と一緒にいる姿を見られたくない。私は黙って耐えました。今日我慢すれば済む話。私は歯を食いしばって我慢しました。だけど別れ際、彼はこう言いました。



「まだ誠意が足りねえな。俺の怒りは収まらない。明日も付き合え」


 彼の名前は竜ヶりゅうがさきあきら。有名な竜ヶ崎総合病院の次男で、金で仲間を集め、悪い人たちとも繋がりのある悪評高い先輩でした。私は不運にもその彼に目をつけられてしまったようです。

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