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14.ラブコメあるある!?

 古の大魔導士アリザが創造したとされる護衛術。それは後世の魔導士たちにとっていわば必須科目のようなものとなっていた。


「くそっ!! ……え!?」


 ドオオン!!!


 チンピラ達が何度殴り掛かろうとしても私はそれをかわし、その勢いを利用して相手を地面に叩きつける。そう、『アリザ流体術』とは敵の力を利用した()()()()柔術である。



「痛てえ……」


 あっと言う間に三人を叩きのめした私。『田中玄人』は日ごろ鍛えていなかったのか、腕や足が痛い。


「お、覚えてやがれ!!」


 チンピラ達はあまりにもベタな捨て台詞を吐き、その場から逃げるように去って行った。低俗な人間と言うのはどの世界でも同じだと私が苦笑する。



「せ、先輩……」


「万里子」


 恥ずかしい限りだ。戦闘民族『火族』の前で幼稚な体術を披露してしまった。掟がありその力を見せられなかった万里子。私もきちんと魔法が使えれば、いつか彼女と並んで魔と戦ってみたいものだ。



「先輩、すごいです……、びっくりしました! 私と同じオタク系だと思っていたのに……、あっ、ごめんなさい!!」


 万里子が口を押さえ頭を下げる。オタク族だと気を遣ってくれたのか? さり気ない配慮。感服だ。


「間違いじゃないよ。私はオタクだよ」


「先輩……」


 万里子が安心したような顔となる。私は彼女と一緒に船着き場へと向かった。






 海の沖にある小島には、民間の会社が定期船を運航していた。片道三十分ほど。私と万里子は早速チケットを買い、船に乗り込んだ。


「先輩、海が綺麗ですね!!」


「ああ、そうだね」


 出航してすぐに海は深い青色へと色を変えた。久しぶりに見る海。魔王討伐の時は何週間も乗船していたことを思い出す。万里子が時計を見ながら言う。


「帰りの船は17時なので、それまでには帰らなきゃいけませんね」


「うむ」


 時刻はお昼過ぎ。移動やチンピラ、船を待っている間にもうこんな時間になってしまっていた。私と万里子は短い船の旅を満喫し、小島を降りたところでお昼を食べて、さっそくシーグラスを探しに海岸を歩きだした。




「う~ん、なかなか無いですね……」


 海岸を歩いていた万里子が言う。日帰りだがそれなりに観光客も訪れる小島。夏になれば海水浴もできるらしい。思ったより成果が上がらない万里子に私が言う。


「ゆっくり歩いて探そう。まだ時間はあるからね」


「はい!」


 万里子は決して学校では見せない弾けるような笑みを私に見せる。



(来て良かったな。万里子との距離が縮まった気がする)


 これが正直な感想。彼女を知るためにもとても有意義な時間を過ごせていることを嬉しく思った。





 夕方。日も傾きかけて来ると、さすがに私も疲れを感じるようになった。万里子は相変わらず一生懸命にシーグラスを探している。あれから数時間、私達は用意した小袋が一杯なり十分な成果を上げることができた。


「万里子、そろそろ帰ろうか?」


 あまり遅くなると帰りの船に間に合わない。万里子が腕時計を見てから私に言う。


「まだ16時半です! もうちょっといいですか??」


「ああ、いいよ」


 本当に楽しそうだ。真剣に宝探しをしている。



(そう言えば『マリ』とも薬草採りに出かけたな)


 治癒効果がある薬草。まだ駆け出しの頃、私は付き合い始めたばかりのマリを誘って薬草採りに出かけた。一般的な薬草もなかなか見つからないのだが、ハイポーションに加工できる高級薬草もごく稀に見つかる。マリは宝探しをするように夢中になって薬草を探した。


『あったよ、クロード! これそうでしょ!!』


 弾けるような笑顔。私はどんどんマリに惹かれていった。



「先輩!! 見てください、ピンクでハート形ですよ!!!」


 万里子が興奮した声で私の所へ駆けてくる。希少なピンク。しかもハートっぽい形をしている。これは素人の私でも分かる珍しいシーグラス。


「おお、すごいね! 可愛いじゃん」


「ですよね!! 本当に可愛い」


 万里子が笑う。弾けるような笑顔。私は一瞬彼女の笑顔が『マリ』と重なる。



(万里子が、そうなのか……?)


 何の確証もない。ただの直感。でもそれほど今の彼女は私の心を惹きつけた。万里子が言う。



「これで大丈夫です。さあ、帰りましょうか」


「ああ、そうだね」


 日もあれから更に傾き、もたもたしていると本当に船に乗り遅れてしまう。私は歩こうとして鞄からスマホを取り出し、時刻を確認する。



「え?」


 私の足が止まる。万里子がそれに気づき声をかける。



「先輩? どうしました??」


「今、何時……?」


 私の問いに万里子が腕時計を見て答える。


「今は、ええっと……、16時半。……あれ?」


 先ほどから時間が進んでいない。私のスマホの画面には17時をとっくに過ぎてしまっている。万里子がその事態に気付き声を上げる。



「え!? うそ、やだ!! この時計、止まってる……」


 腕時計の秒針が動いていない。朝からずっと幸せの中にいた万里子は、そんな小さなことに気付くことができなかった。


「どうしよう……」


 島からの定期船は他にもうない。つまり帰られなくなったということを意味する。



「念のために確認してみようか」


「は、はい……、ごめんなさい……」


 彼女の顔から笑顔が消える。


「しっかり時間を確認しなかったのは私の責任でもある。謝ることないよ」


「ごめんなさい……」


 もう今の彼女にそんな言葉はあまり意味がないようだ。私達は船着き場に行きそこに居た係員に聞いてみたが、やはり明日まで船は出ないらしい。唖然とする万里子。私が言う。



「仕方ない。今夜はこの島に泊まろう。万里子、ご両親への連絡はできる?」


「え? あ、はい。大丈夫です……」


 万里子はやや驚いた顔をしてからスマホを取り出し、家へと電話を掛ける。友人と話が盛り上がり泊っていくのだと伝えていた。私も同様に家の両親へ電話。『馬鹿騒ぎしないでね』と言われただけで済んだ。ひとまずこれで安心だ。




「さて……」


 私は下を向き、泣きそうな顔になっている万里子を見つめる。彼女の責任ではない。そうは思うのだが、真面目な性格ゆえ考え込んでしまうのだろう。


「気にしなくていいから。大丈夫だよ」


「はい……」


 小さく消え入りそうな返事。とは言え、とりあえず泊るところを探さなくてはならない。幸い宿泊施設は幾つか目につくが、さて料金は幾らぐらいかかるのだろうか。



(うーん……)


 私は数千円しか入っていない自分の財布を思い出す。なぜ高校生はこんなにお金がないのだろうか。仕事をしていないので当然だが、いくつものクエストをこなしお金には不自由しなかった前世を思い出してしまう。


「万里子、どこかに泊まる必要があるけど、幾ら持っている?」


 俯いていた万里子が顔を上げ小声で手持ちの金額を伝える。



(足りない……)


 二人合わせても一万に満たない。所詮高校生。この程度であろう。それよりも別の問題がある。


「あのさ、できるだけ部屋は分けるから……」


「はい……」


 若い男女が一緒に泊まる。私はその可能性を考え、慎重に言葉を選ぶ。万里子が急に頭を下げ再度謝る。



「本当にごめんなさい、先輩。私のせいで……、!!」


 私は無意識に万里子を抱きしめていた。自分だけのせいではないのに、健気に謝る彼女が愛おしかった。


「せ、先輩……!?」


「謝らなくてもいいよ。私も悪い。だからいいんだ。それより島の夜を()()()()



(え!?)


 万里子は腕に抱かれながら思った。



(た、楽しむって、どういうことなんですか!?)


 万里子の頭の中に様々な妄想が広がる。憧れていたイケメン先輩に抱きしめられ、一緒の夜を過ごす。もうそれは彼女の処理能力を遥かに超えていた。



(せっかく泊まることになったんだからな。夜の散歩とか楽しそうだ)


 私はそんな彼女の気持ちに気付くことなく、ただただ元気になって貰いたいと願った。





「悪いけど、未成年同士は泊められ何だよね~」

「ここの条例でさ。高校生だけでは宿泊できないんだよ。ごめんね」


 私はこの世界の規則に戸惑った。

 体は大人であるが、年齢的に万里子と二人で泊まることは不可能らしい。お金は後払いで何とかなるだろうと思っていたが、それよりも宿泊自体が難しいようだ。



「困ったな……」


 思わず本音が口に出る。野宿は前世では何度も経験したが、万里子にそんなことできるのだろうか。既に太陽は沈みかけ、空はオレンジ色に染まっている。まもなく夜が訪れる。定期船が終わり人影の少なくなった海辺の街道を二人静かに歩く。


「先輩」


 それまで俯き歩いていた万里子が顔を上げ、私に言う。


「私、どこでも大丈夫ですから!」


「万里子……」


 健気だ。本当に愛おしいほど健気な女の子。私が何かそれに返そうとした時、真っ赤なスポーツカーが私達の傍に止まり、窓を開け、運転していた黒髪の女性が声をかけた。



「先生!! 何かお困りですか??」


「え? ライカ……」


 私は口を開けたまま動けなくなった。

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