13.宝物、見つけた!
「あ、あの、こちらです……」
カラッと晴れた土曜の朝。私と万里子は駅を出て、二人並んで近くの海へと歩き出した。海岸が近い駅。何となく空気に潮の香りが感じられる。
「万里子はよく来るの? ここ」
「い、いえ。あまり。私、出不精なので……」
俯き頬を赤くして答える彼女はこの世のものとは思えないほど尊く、可愛らしいものであった。顔はさほど『マリ』とは似ていないが、一緒にいるだけで純粋に男として守りたくなってしまうような魅力を持っている。
「じゃあ、今日は私の為に来てくれたんだ」
「え? あっ、はい……」
万里子は耳まで赤くしてそれに小声で答える。私はそれを彼女が元気がないのかと思い、今日のことについて尋ねる。
「この辺りでよく採れるんだ。シーグラス」
「あ、はい! あまり人が行かない場所で……」
「人が行かない場所? ビーチとかじゃないんだ」
「はい。ビーチだと人が多くてもうほとんどないんです。それより地元の人も行かないような小さな海辺で……、あ、あそこです!!」
万里子は駅から少し歩いた県道沿いから伸びる細いあぜ道を指さす。防風林だろうか。木々が茂る中へとその細い道は続いている。私は先を歩く万里子の後ろに続きその未舗装の細い道を歩く。少しは元気になってくれた。私はそれだけで嬉しかった。
「ここです! 先輩」
木々の中を歩いた先にあったのは、何の変哲もないただの狭い海岸。砂浜ではあるが泳ぐことはできず、石や流木、ゴミなどが流れ着いて来ている。万里子が目を輝かせて私に言う。
「ここらに落ちているんです! さあ、探しましょう。先輩!」
「あ、ああ」
嬉しそうで良かった。彼女が笑顔になると私の心も温かくなる。私は万里子と同じように腰を下ろし、たくさんある小石の中からシーグラスを探し始める。
「あ、あった! これです、先輩!!」
そう言って万里子が手にしたのは白いシーグラス。小さいが、光沢のある綺麗なものだ。私はそれを頷いて見て、あることに気付き尋ねる。
「まだレジン液を塗っていないのに光沢があるんだね。特別なのかな?」
「いいえ、先輩。ちょっと濡れているからそう見えるんです。乾けばくすんじゃいますよ」
「あ、なるほど」
確かに浜に落ちている石はみな濡れている。それで光沢があるように見えるのだ。私も彼女に倣い、じっくりと石を見つめる。
「これかな?」
私は茶色の欠片を手にして万里子に尋ねる。
「わあ、そうです! それです。上手です、先輩!」
「ありがとう」
私はそう微笑む万里子の笑顔に一瞬見とれる。
「先輩? どうしました……?」
じっと自分の顔を見つめる私に万里子がやや不安げな表情になって尋ねる。私が言う。
「今日一番嬉しいものを見つけた。万里子の笑顔」
(え!?)
驚いたのだろうか、嬉しかったのだろうか。万里子は私の言葉を聞き、全身の肌を真っ赤に染め下を向き答える。
「は、恥ずかしいです……、でも嬉しぃ……」
最後は何と言ったか聞こえないほどの小さな声。でも嫌な感じではなさそうだ。思ったことを素直に伝える。前世では忙しく、あまり時間が取れなかった『マリ』への埋め合わせをしているのかもしれない。
「さ、頑張りましょ。先輩っ!!」
「ああ」
それから私と万里子は二人で思う存分シーグラスを探した。
「思ったよりは少なかったですね……」
浜辺でシーグラスを探すこと一時間。万里子が用意してくれた小さなプラスチックケースは一杯になっていた。それでも彼女は少ないと言う。十分な気もするのだが満足していないらしい。
「場所を変えてみる?」
時刻はまだ午前中。時間は十分にある。
「……いいんですか?」
「いいとも」
万里子が望むなら私はとことん付き合うつもりだ。彼女は少し沖にある小さな小島を指さし、私に言う。
「あそこの小島、行ってみたいです……」
「ほお……」
それほど大きくはない島。少しだが建物なども見える。
「あそこで採れるのか?」
「分からないですけど、何となく……」
私はそう答える万里子を可愛く思い笑顔で言う。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
私達は小島への船が出ている船着き場へと向かった。
「うわー、先輩。赤とかオレンジとか、わっ! ピンクもある!!」
船着場へ歩きながら、万里子が先ほど拾った私のシーグラスを見て驚きの声を上げる。
「珍しいのか?」
「はい、珍しいです!! 赤とかオレンジとか黄色、紫、ピンクなんて超希少ですよ!!」
「そうか、それは良かった。良かったらあげるよ」
「え? いいんですか!? こんな貴重なもの」
「ああ、貰って欲しい」
「ありがとうございます!!」
万里子は遠慮せず、嬉しそうに私からシーグラスを受け取る。シーグラスも悪くないが、私はもう十分に別のものを貰っている。万里子との楽しい時間を。
「おいおい、お前ら。目障りなんだよ!!」
まるで恋人のように寄り添い微笑みながら歩く私と万里子。突然その太い声が背後から掛けられた。振り返る私。そこにはガラの悪そうな高校生らしき男が三人立ち、こちらを睨んでいた。私が尋ねる。
「目障り? 私達があなたに迷惑をかけたのかな?」
私の言葉を聞き、一瞬で真ん中の男の表情が変わる。
「あぁ!? ふざけんなよ!! イチャイチャしやがって、この優男が!!」
「せ、先輩……」
茶髪に目つきの悪い人相。私はどの世界にもこのようなチンピラのような人間がいるのだとうんざりした。私は怖がる万里子の腰にそっと手を回し、チンピラ共に言う。
「私達は忙しいのだ。構わないでくれるかな?」
チンピラが発狂するように叫ぶ。
「てめえ!! ふざけやがって、この俺が誰だか知っているのか!!」
私が首を振って答える。
「知らないし、興味もない」
両側にいたチンピラが前に出て言う。
「おいおい、マジで死にたいようだな。この方はこの浜辺町を仕切るボス。泣く子も黙る『浜辺町の狂犬』と呼ばれるお方なんだぜ!!!」
(はあ……)
私は深くため息をついた。あまりにもダサい二つ名。哀れにすら思えてくる。万里子が不安な声で言う。
「せ、先輩……」
「何も心配ない」
私は万里子にそう微笑み返してから、チンピラ達に言う。
「よく聞け、愚か者ども!!!」
「!!」
突然の私の大声に一瞬驚くチンピラ。私は更に声を大きくして叫ぶ。
「お前たちの前に立つ人物が誰だか知っているのか!! 幾重もの激戦を超え、多くの邪悪と戦い、目に映るものすべてをなぎ倒してきた強者……」
(せ、先輩。カッコいい!!)
万里子は強そうなチンピラ相手に一切怯むことなくそう叫ぶ私を見つめる。呆気にとられるチンピラたち。私は右手を前に突き出し、大声で叫ぶ。
「ここにいるのは煉獄の炎を操り、邪を打倒してきた猛者!! さあ、やっていいぞ!! 万里子っ!!」
(えっ!? 私っ!!??)
万里子が口を開けて私を見つめる。一瞬の静寂。唖然とする彼女を見つめながら私が考える。
(ど、どうした、万里子? 火族であるお前の煉獄の炎なら、こんな奴ら赤子の手をひねる様なもの……)
そこまで考えた私は気付いた。
(ま、まさか、何かしらの掟があるのか!? 軽々しく人に見せてはいけないその力。極秘裏に魔と戦う種族なら十分あり得ること……)
私は考えた。そして自分の浅はかな思いを心から恥じた。チンピラが言う。
「おい、てめえ。なに女にやらせようとしてんだよ!! ダッセぇな!!!」
「マジで!! おい、やっちまうぞ!!」
チンピラ達が一斉に私に向かって殴りかかる。私は微動だにせず、万里子に心の中で謝罪した。
(すまない、万里子。私が間違っていた……)
「せ、先輩っ!!!」
万里子の声が響く。チンピラが腕を上げ私に飛びかかる。
「ぎゃはははっ!! くたばれ、この色男!!!」
(えっ?)
チンピラは一瞬体が軽くなる感覚を覚え、頭が混乱した。
ドオオオン!!
「痛てええ!!!!」
気が付くと天地が逆さまになり、全身に強烈な痛みが走る。
(『アリザ流体術』。この程度のチンピラ、私の相手ではない)
それは騎士や戦士と違って非力な魔導士の為に創造された護身術。勇者パーティの大魔導士『クロード・マジシャス』はもちろん習得済み。私が言う。
「さあ、続きをしようか。狂犬君」
チンピラ達の顔色が真っ青になった。




