表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/20

【探偵#8】恋は盲目だが、人を傷つけていいわけじゃない

私の名前は桜田梨乃、勉強が少しできるくらいの頭が取り柄の冴えない高校二年生。


花のJKなんてものは私に一つもない。


現在は昼休み、私は図書委員の当番としてクラスから4階にある図書室に向かっていた。


(先生がまた読みたい本増やしてくれるって話してたな…)


今回の新作は異界生物の白虎が巨大なロボットと戦う話。


この怪獣映画のような内容でとある賞で金賞をとっていたはず…


作者の家の近くに白虎が生息していて風や雷を操ってるところをよく見ていたからアイデアが浮かんだとか。


正直この当番も面倒な時はあるけど好きな本を好きなだけ読めるなんて人生で一番幸せ。


私が3階の教室を出て昼休みで栄える廊下を歩き始めた時、目の前からとんでもない威圧感を感じる。


「おい…行こうぜ…」


「そういえば教室に忘れ物したんだった!」


周りの生徒が危険を感じたのか蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


(う…今見ても怖い…)


「行こうぜ…」


「チィ…」


ガタイのいい鬼人族や亜人族の生徒、そしてエルフの王族の生徒さえもその場から去っていく…


とんでもないオーラを纏う赤青メッシュで紅い二本の角を生やす男。


「練斗君…すごいオーラだね…また事件?」


私は目の前の化け物に勇気をもって話しかける、手汗まみれの拳でスカートを握りながら。


「そうなんだよ桜田さん。用心棒の使い勝手が悪いんだようちの探偵と所長はさ」


私と話した途端、波が引いていくように威圧感が消える。


煉城練斗、風の噂によるとかつて最強と呼ばれた対異界兵器。


通り名は煉液。


この瀬礼市と瀬礼文学園で活動する金花探偵事務所の用心棒、スライムとドラゴンの力を持つ強力な異界人。


よく事件が起きたり学園が不穏になるとパトロールをしているという。


(まぁこの学園じゃ生徒がこういう活動をするしかないよね)


実際この学園に通う生徒は異界のエリートや日本を今後背負う選ばれた人材ばかり。


高校教師程度がエルフ族の未来の王や政界の重鎮の子供を制御できるわけもなく、生徒の権力が先生を超えている。


そんな学園が混乱しないのは金花探偵事務所の活躍だとよく噂されている。


「今回はどんな依頼?」


私は今回の依頼内容を聞いてみることにした、厄介事の中心にいる人が目の前にいたら聞いてみたくなるものだ。


「今回はとあるストーカーみたいな感じの依頼、だからその依頼人の護衛を兼ねていつもより威圧しながらパトロールしてたんだ」


ストーカー…せっかく勇気を出して聞いてみたけど案外普通の依頼、異界が~とか爆破が~なんていう非日常を期待していた…がっかり…


「桜田さん…依頼内容聞いてちょっと普通でがっかりしたでしょ、顔に出てる」


「…え!」


練斗君のツッコミで急に恥ずかしくなる…顔が熱い…


「そ…そんなことないから!」


「そんなことあるやつのセリフなのよそれ」


練斗君のツッコミを聞きながら階段へと向かう…後で席に戻ったら挽回しよう…


こんな風に金花探偵事務所がパトロールすることで事前に事件やいざこざをなくしているのだろう…普通に尊敬するよ…


_________



私の名前は金花メリー、この金花探偵事務所の所長、つまり私がリーダーで社長!


現在は…


「メリー、あなたは真面目に何かをするという能力はないの?」


クールな探偵に叱られながら依頼をこなしています…


私達が受けた依頼は偽の噂と嫌がらせ、あとはストーカーのような被害、現状手掛かりは依頼者二人の机やロッカーが濡れていたという情報のみ。


「さっきまで最近ネットで買った物について熱く語ってた風香ちゃんにだけは言われたくない、私が不真面目だった時ってある?いつも真剣だよ!」


「あなたと出会ってから一度も見たことがないわ」


「ひどい!」


冷徹にもほどがある…後で練斗を犠牲にして私の株を上げよう…


私達は今、ボールが跳ねシューズがキュッキュっとした音を奏でる放課後の体育館で情報を集めている、依頼者の二人は運動部。


被害に特に被害がひどい三珠さんはバレー部、何か手掛かりがここにあるはず…


「瀬礼文学園の体育館、豪華だし巨大でテーマパークみたいね」


風香ちゃんはいつも体育館に来ると同じ話をする、普通の学校の体育館より5倍くらいデカいだけ、あのシャンデリアだってどこの家庭にもついてるでしょ。


風香ちゃんはいつも私がお金持ちでズレてるみたいな反応をする、そんなに豪華かな?


「ロッカー、さっき見てきたけど確かに濡れてたね、水というよりネバネバしてた」


「異界人の仕業で確定だとは思うけど、なんでそんな証拠を残すのかな?」


体育館の壁に寄りかかり。顎に手を当てる探偵の風貌はとても絵になる。


風香ちゃんと体育館の端で思考を巡らせていた時だった。


「おい、冷やかしなら帰って勉強でもしとけよ」


一人の立派な角を生やした鬼人族が私達に敵意を向けてくる、服装的にバスケ部かな?


「気を悪くしたなら謝るわ、でも私達も用事があってね」


風香ちゃんが鬼人族の大男相手にも怯まずに会話してる…すごい度胸…


「人間なんて頭使う事しかできないくせに威張るなよ、今見たく端を歩いて生きるんだな」


鬼人族がいきなり喧嘩を吹っかけてきた時だった。


「ごめんなさーい!!」


私達に緊張が走る中、空気を読まずに誰かが突っ込んでくる。


「康太郎君!喧嘩はダメ!!!」


次の瞬間!


ドスン!!!


なんと鬼人に向かって金属バットが振りぬかれる!


「痛てぇな!!」


「また喧嘩して!何回言ったらわかるの!!」


現れたのは短髪でジャージを身に纏う気の強い少女。


「ごめんなさい!この人ちょっと人間が嫌いで…今回は私がきつく言うので許してください!」


「大丈夫ですよ!私達も集中してる中邪魔しちゃって…」


思わず私がフォローを入れてしまう、よく見るとバットを担ぐ女の子も目立つ角が一本生えている。


「あなた方は…バスケ部?」


風香ちゃんがあっけにとられすぎて普通の質問をし始めた…


「そう!私がマネージャーで…こいつは昔からの知り合いで根は悪くないんです…ただ人間に昔ひどいことをされただけで…」


すいません…って風香ちゃんはその人間とは違うでしょ、と文句を一つくらい言ってやろうと思ったけどバットでフルスイングで殴ってくれた手前、とても言いずらくなってしまった。


「別に気にしてないわ、いこうメリー」


風香ちゃんはもう歩き出していた、怒ってる…わけではなさそうだ。


「私達も邪魔してごめんなさい!」


風香ちゃん歩きだして体育館を離れるまでマネージャーの女の子は男の頭をつかみ無理やり頭を下げ続けていた、なんだかこっちが喧嘩を起こし場を去ってるように見える気がしてソワソワする。


(鬼人族、人間が嫌いになる気持ちはわからなくはないよ…)


鬼人族は異界の生物の中で最も人間に近く、さらにこの日本と似たような文化が多いという、頭はあまりよくないが体は頑丈でパワーがあるためよく現場作業などで鬼人族をみかけることが多い。


「きっと、あの二人も親に連れられて異界にやってきたのね」


風香ちゃんは体育館を抜けた廊下の天井をどこか悲し気に見つめていた。


かつて人間は《ゲート》が異界と繋がった際、一度異界を攻めている。


結果は異界を統べる魔王軍に歯が立たずに撤退したという、だがその際に異界の拠点として文明が人間に近く、さらには労働力としては最高だった鬼人族の集落を多く占領していた。


この過去から鬼人族と人間の関係はお世辞にもいいとは言えないらしい。


(今では昔に比べて関係がよくなって鬼人族の出稼ぎを支援したりしてるっていう話を聞いたりもする)


風香ちゃんとちょっぴり思い話題で盛り上がっていた時だった、風香ちゃんが指を階段のほうに指す。


「じゃあ最後は三珠さんのクラスに行ってみましょう、何気に行ってなかったし」


「そうだね、さっきの事が印象に残りすぎて目的を忘れてた」


三珠さんのロッカーは見た、だから次は二人の教室にいって手掛かりを探してみよう。



__________




階段を上り少し汗をかきながらも3階の2学年フロアまで上がり、私がクラスってどこだっけ?なんて間抜けな質問をしたのが悪かったのだろう。


「メリー、依頼人の情報は頭に叩き込んでっていつも話してるし、忘れそうならメモしてって話してるよね?これだから箱入り娘は」


「箱入り娘なのは認めるけど私がバカなのはしょうがない!」


探偵様からの説教を受けながら、2年2組、二人のクラスの扉を勢いよく開ける。


「放課後の教室、つまり青春!」


私が勢いよくドアを開けた瞬間!


私と風香ちゃんの目に衝撃的なモノが映り込む。


制服を着ているというより体と密着させているが正しい青いスライムらしき生徒、しかも夢中で何かをしている。


手にはカッターとインクのペン、これって…


「犯人、みっけ…?でいいのかな風香ちゃん」


「いつになったらこの物語で私は推理できるのかしら」


私達がふざけ合ってたのがよくなかったのかな?すでにスライム系の生徒は無言で逃走を図っていた。


(まずい、排気口のなかに入られたら…)


顔もまともに見てない…てか顔なんてあるの?いやそれよりこれを逃したら何かしら言い逃れされてしまうかもしれない…なんて焦ったその瞬間!


「天才は準備からセンスを発揮する」


風香ちゃんはすでに何かをポケットから流れるように取り出し、まるで一流サッカー選手のように…


「ファイヤ〇ルネード!」


「まさかのシュート!?」


風香ちゃんの足から放たれたボールらしきものは一直線にスライムに当たる。


「ぐへぇ!」


そしてボールがスライムの体にめり込んだ瞬間、ボールが音を立てて破裂。


ボン!っと音と同時に白い粉末がスライムを包む。


「風香ちゃん…これはなに?」


「依頼内容を聞いた時からなんとなくスライム系かなと思って異界のネット通販で強力な対スライムボールを購入しといた」


「最近買い物したって言ってたのはそれかってまた勝手に購入したの?金花財閥の支援金も無限じゃないんだよ!!」


白い粉はおそらく異界科学で生み出された乾燥剤、スライム系の犯罪は異界人の中でも多いがその性質上捕まえることは難しいという。


(だからこそ、こんな商品が生まれるのか)


私が風香ちゃんにツッコミを入れてる間にすでにカチコチに固まる青い容疑者。


「さ、たっぷりお話、伺いましょうか」


「風香ちゃん、なんだか悪っぽい雰囲気も様になるね」


でも…この捕まえたスライムがこの事件をさらに歪めていってしまう…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ