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【探偵#35】悪魔の契約

俺の名前は煉城練斗。


瀬礼市で一番トラブルを拾いやすい探偵事務所、《金花探偵事務所》の用心棒だ。


今日の俺は珍しく、事務所のソファでぐでっと伸びていた。


相棒の煉獄刀は壁に立てかけ、事務所のソファーでおとなしく寝ている。


理由は単純、この間の生徒総会で全力出しすぎた。


瀬礼文学園、生徒総会。


俺たちは平等派に肩入れし、人間派のトップ・白武信也をステージから引きずり下ろした。


結果、人間派は“リーダー不在”という最悪の形で選挙戦から転げ落ちた。


……が。


「人間派」って看板を壊したぐらいで、この学園の人間至上主義は死なない。


白武が抜けた穴を埋めようと、第二、第三の“新しい人間派”が水面下で動き始めている、ってのが現状だ。


(まぁ、そのうちまた殴りに行くことになるんだろうな)


そんなことをぼんやり考えていた時だった。


ガチャリ、と事務所のドアノブが勢いよく回る音。

続いて、聞き慣れた二人分の足音。


「ただいま戻ったわ、ゴーレム、お茶二つお願い」


「所長の分も三つ、だよ。あと甘いお菓子」


落ち着いた声と、能天気な声。


探偵の星都風香と、所長の金花メリーが、春の嵐みたいに一気に事務所の空気を変える。


「おう、おかえり。で、依頼は?」


ソファから体を起こした瞬間、俺は気づく。


二人だけじゃない。後ろに、制服姿の少女が一人、遠慮がちに立っていた。


瀬礼文学園の制服じゃない。


ブレザーのデザインもスカートの色も、見慣れない。


「紹介するね、今回の依頼人。沙月市の松ヶ丘高校に通う二年生」


「……えっと、さ、沙月の……松ヶ丘高校の、月島です。 あ、あの……悪魔のことで、お話を聞いてほしくて……」


小さく頭を下げる女子高生。


かすかに震える声、ぎゅっと握られた指先。


普通の“いじめ”とか“ストーカー”とは、少し違う匂いがした。


「悪魔ねぇ……」


俺が思わず眉をひそめると、風香が手元のタブレットをスッとこちらに向けてくる。


「瀬礼市の隣の街、沙月市。住宅街メインのベッドタウン。異界事件も小規模で、異界人の数も瀬礼市ほどじゃない。まだ“人間の方が多数派”っていう、昔ながらの街よ」


画面に映し出された地図には、瀬礼市の横に広がる、穏やかな住宅の海。


そのど真ん中に、古い商店街と、“松ヶ丘高校”のマークが光っていた。


「で、その平和な街で、最近“悪魔の契約”の噂が流れてるんだってさ」


メリーがソファの前にどさっと座り込みながら、クッキーをかじる。


「悪魔と契約した高校生が、願い事を叶える代わりに事件を起こしてるって噂。商店街のお客さんも減ってきてて、このままだと、街全体の評判がガタ落ちだって」


「ただの怪談じゃないのか?」


俺がそう言うと、月島って子が、小さく首を振った。


「……本当に、いるんです。“悪魔と契約した”って言ってた子が、次の日から、別人みたいになって……それに、最近、黒服の人たちも、商店街の近くでよく見かけて……」


黒服。


その単語で、風香と俺は目を合わせる。


「対異界組織……“フィールド”の残党か、あるいは後継組織かもね。悪魔が絡むなら、動く可能性は高い」


瀬礼市の隣、沙月市。


人間がまだ多数派で、商店街の空気も“昔の日本”のまま残っている街。


そこに、“悪魔との契約”と“対異界組織”が顔を出し始めている。


「このままだと、悪魔は“害獣”、沙月市は“危険地帯”ってラベルを貼られる。一番困るのは、そこで真面目に生きてる人間と異界人よ」


風香の目は、いつものように冷静で、少しだけ熱い。


「……で、用心棒。行く?」


「決まってんだろ」


俺は壁に立てかけていた煉獄刀を引き抜き、肩に担ぐ。


瀬礼市の隣の平和な街、沙月市。


悪魔との契約を巡る噂。


それを狙って動き出す対異界組織。


そしてそこに首を突っ込む、場違いな探偵事務所。


「これが、俺達《金花探偵事務所》を、とんでもない“悪魔騒ぎ”に巻き込んでいくことになるなんてよ」


その時の俺は、まだ、欠片もわかってなかったんだ。

またやります、金花探偵事務所。

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