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【探偵#29】火花散らす刃

私の名前は星都風香。


瀬礼文学園きってのトラブルメーカー兼、金花探偵事務所の探偵だ。


「なんだこの煙幕は!!」


「白武さんがいないぞ!!」


悲鳴と怒号が飛び交う体育館のど真ん中で、私はただ一人、冷静に立っていた。


「星都さん、本当に……本当に大丈夫なんですか?」


隣で制服のスカートをぎゅっと握りしめているのは、平等派のリーダー、海王瑠香。


淡い水色の髪が、煙に揺らめくライトにきらりと光った。


「安心して。もう仕掛けちゃった以上、上手くいかせるしかないでしょ」


私が笑ってみせると、瑠香の強張った肩から、少しだけ力が抜けた。


とはいえ、今回ばかりは、さすがに“攻めすぎ”だと自覚している。


今日は瀬礼文学園、生徒総会当日。


三大派閥、人間派・異界派・平等派が、それぞれ十五分の持ち時間で生徒会長選挙に向けた公約発表を行う、大舞台。


そして、活動者会議で白武信也が宣言した“賭け”が、すでに全校に広まっている。


『最も賛同を得られなかった派閥は、この選挙から降りる』


ただの思いつきなら無視もできた。


でも会長・御影帝一の前で、公の場で言ってしまった以上、それは“ルール”として独り歩きする。


だから、私達はそこを逆手に取った。


(平等派が正攻法で勝てるとは、最初から思ってない)


支持者の数も、資金も、歴史も、人間派と異界派には遠く及ばない。


プレゼンの内容だけでひっくり返せるほど、この学園の政治は甘くない。


だったら、話は簡単だ。


「そもそも人間派の発表を成立させなければいい」


ステージに立つべき主役、白武信也を物理的に会場から“退場”させる。


至極シンプルで、致命的な妨害工作。


白武がいない。イコール、人間派は公約を示せない。

発表の評価を競う勝負なら、その時点で“落第”だ。


(……まぁ、向こうもそこまで馬鹿じゃないけどね)


今回の賭けは、「発表で競う」とは一言も言っていない。


あえて条件をぼかしていたのは、白武なりの逃げ道――保険のつもりかもしれない。


それに、人間派というブランドをここで解体したところで、「平等派が白武を誘拐した」という噂を上手く料理されれば、第二、第三の“人間派”が生まれる可能性だってある。


(生徒会も、おそらく本音では人間派の勝利を望んでいる……)


御影帝一は、あくまで“公式には中立”。


でも、今の生徒会が人間派色に染まりきっているのは、瀬礼文学園に通う誰もが知っている事実だ。


私が頭の中で最悪のケースから順に並べ替えている間も、体育館はカオスそのものだった。


「白武さん!!どこですか!!」


「ミゼさんもいないぞ!!」


煙に咳き込みながらステージを上がったり降りたりする人間派の生徒達。


教師と生徒会役員は、ぎりぎり“静観”を保っている。


この学園において、生徒会選挙は“何でもあり”。それが昔から続く、暗黙の了解。


(本当にどうしようもなく、性格悪いわよね、この学校)


そんな中、一人だけ、騒ぎを完全に無視してステージから降りてくる影があった。


「平等派……このまま人間派との激突で勝手に潰れると思っていたが」


低い声が、煙の向こうから響く。


「なかなか“愉快な仲間”を引き連れてきたようだな、海王瑠香。そして――金花探偵事務所」


風もないのにマントを靡かせながら、悠然と歩いてくる巨躯。


その姿は、この混沌とした体育館の中でもひときわ異質だった。


「ジルガ・デバン……ね」


異界有数の魔族の名家、王族の血を引く、異界派の“切り札”の一人。


「金花探偵事務所、やはり貴様らは面白い」


彼は満面の笑みを浮かべ、まるで友人に声を掛けるような気軽さで言った。


「さぁ、なんのことかしら?」


とぼけてみせても、私の声は彼の耳に届いていない。

あるいは、最初から聞く気すらないのだろう。


「これからの順番は――まず我々異界派、次に人間派、最後に平等派、だったな」


ジルガはわざとらしく指を一本一本折りながら続ける。


「その“順番”の間、貴様らが“奴”から逃げ切れるかどうか……実に、見ものだ!」


腹の底から響くような豪快な笑い。


余裕、慢心、それとも戦いそのものを心から楽しむ“魔族”特有の気質か。


私はその笑いを横目に、小型ゴーレムから送られてくる映像に視線を落とした。


(さて――こっちの戦場の方は、どうなってるかしら)


___________


同じ頃。

人気のない校舎の階段で、二人の戦闘者が向かい合っていた。


「……貴様に触れられたと思うと、吐き気がする」


紫の髪を揺らし、無表情のまま怒りだけをにじませるメイド、ミゼ・レムナント。


白武陣営の“切り札”にして、専属メイド兼護衛。


その瞳は、目の前の男を明確な“敵”として捉えている。


「なに、ちょっと借りてくだけだろ。心配すんなって」


対するのは、赤い角の用心棒、煉城練斗、手にはいつもの煉獄刀。


刃の根元には、うっすらと赤い炎のような気配が揺らめいている。


さっき、煙幕に紛れて白武をキャリーケースにぶち込み、体育館から連れ出した二人。


メリーは先に階段を駆け上がって、準備しておいた“隠し教室”へ向かっている。


その背中を追いかけるようにして、ミゼはいつの間にか本校舎へ。


さっきまで体育館にいたはずなのに、気づけば階段の一段下、そんなレベルの接近だ。


「信也様。今すぐ、反乱者を殺して、救出に向かいます」


冷え切った声。そこに迷いも躊躇も一切ない。


金花探偵事務所の方針は「殺しは無し」、それは練斗だって百も承知のはずだ。


(こいつ、動きに澱みが一つもねぇ……)


珍しく、練斗の顔に影が差す。


(“無力化”なんて甘いこと言ってると、逆に殺されかねない)


次の瞬間、ミゼの腕が、音もなく振り抜かれた。


「そこを退け、気持ち悪い“混ざり者”」


放たれたナイフは、一瞬で視界から掻き消える。


意識から外した時には、もう目と鼻の先だ。


「流石、暗殺者ってか!!」


練斗が煉獄刀を一閃、刃がナイフを弾き飛ばす。


「眠れるほど遅い」


ナイフへの対処で生まれた、ほんの一瞬の隙。


そこに、ミゼはすでに踏み込んでいた。


「まぁ、こうなるよな」


階段の上へ向かう通路を背に、練斗が前に飛び出す。


後ろにはメリーがいる、この階段を一歩たりとも上らせるわけにはいかない。


「読める。その動き」


「従者としての使命を果たすだけです」


階段前の踊り場の狭い廊下に、閃光のような斬撃が飛び交う。


「メイド服、動きにくそうだな!!」


「スライム、図に乗るな」


刃と刃が火花を散らし、壁に刻まれる傷が増えていく。


正面からの斬り合いで、圧をかけるのは練斗だ。


真正面で彼に勝とうなんて、無謀にもほどがある。


(速い……やはり真正面からねじ伏せるのは無理か)


ミゼの頬や腕から、細い血煙が上がる。


「バラバラになっても、接着剤で元に戻してやるよ」


(こいつまともに喰らわねーな、芯をズラしやがる)


それでもなお、ミゼは致命傷を避け続けていた。


刃を逸らし、かすらせて、深く通らせない。


「もう、容赦はしない、……いや、最初からしていないですが」


小さく呟いたときには、もう彼女の右手には拳銃が握られていた。


(至近距離の早撃ち!)


「器用な奴だなぁあ!!」


練斗が体を大きく捻る。


耳元を弾丸が掠め、脇腹の肉を浅く抉った。


「そこを退け」


再び銀の閃光。さっきよりも明らかに速い投擲。


ナイフと銃弾、その両方を織り交ぜた、ミゼの本気の攻め。


二度目の真正面からの斬り合いが始まる。


「白武財閥に楯突くなんて頭の悪い事を」


「金花探偵事務所に、“敗北”って言葉はねぇんだよ」


階段に金属音が木霊する。


手数だけでいえば、やはり練斗が上。その分、ミゼのほうがじわじわと削られていく。


「顔は傷つけないでくださいね、信也様が悲しみますから」


「あぁ?じゃあ悲しみを通り越すくらい、ボコボコにしてやるわ」


ここから、練斗の斬撃に“打突”が混ざり始める。


剣と拳、スライムの伸縮性をフルに使った、マシンガンのような乱打。


(まずい……この連撃は――)


この嵐を真正面から受け止めきれる戦闘者なんて、地球にも異界にもそうそういない。


「もらったぜ、嬢ちゃん」


「ガハァッ!」


斬撃の合間を縫って突き刺さる拳が、ミゼの腹を豪快に撃ち抜いた。


「……これを、待っていた」


だが、そこで予想外が起きる。


ミゼはその打撃の勢いを、あえて“利用”した。

吹き飛ぶ角度を、自分で決めるように――階段側へと身体を投げ出す。


(やられた――!)


練斗が吹き飛ばした先は、メリーが昇っていった階段。


「小娘。今すぐ“冥土”に送る」


ミゼの左手には、すでに煙玉と炸裂弾が握られていた。


一挙手一投足に無駄がない。暗殺者として完璧すぎる動き。


だが、そんな相手と渡り合っているのは、それ以上に規格外な男だ。


「見え見えなんだよ。俺の前でそんな芸当が通じるか」


練斗が床を抉るように踏み込む。


地面を滑るように、凄まじいスピードで加速し、階段に向かって刀を振り抜いた。


一見すれば、明らかに“射程外”の距離。


「そんな遠くから斬っても…なに……!」


次の瞬間、練斗の前腕がありえない軌道でぐんと伸びた。


「なるべく女は傷つけたくねぇんだけどな」


伸びた腕の先から放たれた逆袈裟の一閃が、紅の弧を描く。


「ちぃッ!」


ミゼの左腕、煙玉と炸裂弾を握っていた腕が宙に舞った。


大胆で、予測不能な一刀。


……それでも、ミゼの目は死なない。


「問題ありません」


右手のナイフは、すでに拳銃へと持ち替わっていた。


「お前、本当に気合の入り方おかしいだろ!!」


照準は、空中で回転する自分の左腕、その手の中の炸裂弾。


ミゼの狙いに気づいた練斗が、全力でバックステップを取る。


次の瞬間!


パンッ!


弾丸が炸裂弾を撃ち抜き、爆発と濃い煙が狭い廊下に一気に広がった。


白い世界が、一瞬で灰色に変わる。


(これはやられた!)


視界を奪われた中、ミゼはまるで空を駆けるような軽さで階段を駆け上がる。


「盗人風情が……楽に死ねると思うな」


怒りに燃えたメイドを追うように、煙の中を“火の玉”が突き抜けた。


「この俺が、その程度の煙で見失うかよ」


煉獄の炎をまとった赤い影が、ミゼの背中を追撃する。


煙に閉ざされた階段の踊り場。


二階へと続く空間で、二人の戦闘者による常識外れの空中戦が始まった。


煉獄刀が赤い軌跡を描き、ミゼのナイフと銃弾がその中を縫う。


(認めざるを得ない……煉城練斗――“封印者”)


隻腕で受けるにはあまりに重い剣戟、それでもミゼは喰らいつく。


「毎度、新技を披露するのが、俺の流儀なんだよ」


連撃の合間に、練斗の膝が高く跳ね上がる。

狙いは頭、決めにきた一撃。


(狙いは――ここ!)


ミゼの身体が、急激に浮いた。

まるで足に見えない“翼”でも生えたかのような軌道。


「お前……いつから異界人になったんだよ!」


「甘い。やはりその程度」


飛び上がったことで、蹴りは足元を空振りする。


そしてミゼは、空中で身体を折り畳むように屈み。


練斗の蹴りの力を、真上への推進力に変えた。


二人の力が合わさり、ミゼの身体は3階の廊下へと射出される。


「メリー!!今すぐ隠れろ!!」


練斗の叫び声が校舎に響き渡る。


「……さぁ、断罪の時間です」


隻腕で構えた銃口の先には、キャリーケースを必死に引きずりながら廊下を走る、小さな後ろ姿。


「メリー!!避けろ!!!」


階段を蹴り上げるように飛び出した練斗が、再び叫ぶ。


「え、え!?練斗?」


メリーが振り向きかけた、その瞬間。


パンッ!


乾いた銃声が、嫌に大きく響いた。


「いったぁぁぁぁ!!」


右足を貫く痛みに、メリーはキャリーケースごと床に転がる。


「……外れましたか。ですが、これで終わりです」


ミゼの狙いは本来もっと上、急所だったのだろう。

練斗の叫びに反応したメリーが、一瞬だけ身体をずらしたことで、致命傷を免れた。


それでも、動きを止めるには十分。


ミゼが再び引き金に指をかける。


その時。


「お前、マジで何してんの?」


廊下の空気そのものを燃やすような殺気と共に、赤い影が割り込んできた。


煉獄刀が、横一文字に振り抜かれる。


「が――ッ!」


着弾した一撃は、ミゼの身体を容赦なく斬り裂いた。

制服が赤く染まり、床に血が飛び散る。


普通なら、その場で倒れて終わりだ。


誰だってそうなる。


「ごふっ……異界でも最強と名高い“煉液”、なるほど、噂ほどではないですね…」


ミゼは、斬られた本人とは思えないほど平然と立っていた。


「お前……本当に人間か?」


「“封印者”にだけは、言われたくありませんね」


練斗は、倒れ込んでいるメリーとキャリーケースの前に、壁のように立ち塞がる。


「もう撃たれた時点で、金花探偵事務所の“負け”は決まりました」


ミゼの視線が、わずかに細くなる。

廊下の先で足を押さえてうずくまるメリーと、その前に立つ練斗を見て、不敵に口角を上げた。


「何度も言わせんなよ。俺に“敗北”って概念は、最初から存在しねぇんだよ」


次の瞬間、この三階の廊下は

本当の意味で、“地獄”へと変わっていく。

ミゼの腕が…?練斗が夜に染まる?

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