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【探偵#25】意外な人物

私の名前は金花メリー。

瀬礼市で一番かわいい(自称)探偵事務所の所長にして、今日も心が大忙しの女子高生だ。


「はぁぁぁぁ……疲れたぁ……」


私はソファーにだら~んと沈み込みながら、テーブルに突っ伏した。


「メリー様、姿勢ガ悪イと腰を痛メマス」


「ゴーレム、その優しさが今は心に刺さるからやめて……」


ゴーレムがお盆を持って、いつもの一定ペースで歩いてくる。


テーブルにコトン、と湯呑みが三つ。そこからふわっと立ち昇る湯気とお茶の匂い。ああ、最高。


「練斗。風香様。温度は70度、カフェイン量は通常ノ約60%デス。疲労回復ニ最適ナ設定ニしておりマス」


「サンキュー、ゴーレム。マジで助かる」


練斗が湯呑みを受け取り、ひと口。


風香ちゃんも、ふぅっと息を吐きながらお茶に口をつけた。


私は顔だけ上げて湯呑みを両手で持つ。


「はぁぁ……生き返る……」


「まだ死んでないでしょ」


風香ちゃんのツッコミも、今日はちょっとだけ優しめだ。


事務所の窓の外は、すっかり夕方の色。

瀬礼文学園での活動者会議から帰ってきて、私達はソファーに座って軽く反省会…という名のぐったりタイムをしていた。


「にしてもさぁ……」


私は湯呑みの縁を指でくるくるなぞりながら言う。


「ミゼって子、やばくなかった?あの異界人二人、瞬殺だよ?瞬殺」


「瞬殺って言葉、メリーが言うとちょっと怖いわ」


「だって本当に一瞬だったんだもん。私、まだ『わっ』って声出す準備してただけなのに、もう全部終わってたよ?」


あれは衝撃だった。


異界派っぽい二人の乱入もそうだけど、それを何事もなかったみたいに片づけた白武のメイドさん。ミゼ・レムナント。


「……あいつ、ただの護衛ってレベルじゃねぇな」


練斗が湯呑みをテーブルに置き、腕を組む。


「戦闘の“始まりの合図”すらなかったものね。あのスピードで、あの制圧の仕方……殺さず無力化。訓練されてる」


風香ちゃんの声が、いつものクール解析モードになっている。


「メイドでしょ?あれ。メイドさんが護衛って、ちょっと私も欲しいって思っちゃったよ」


「メリー様、護衛機能ヲ希望サレル場合、ワタシが適任デス」


「あ、ごめんゴーレムいたわ」


うちにはメイドじゃなくてゴーレムがいた。最強の保護者いたわ。


「それにしても」


風香ちゃんが湯呑みを持ったまま、じっとお茶の表面を見つめる。


「白武信也。やっぱり、一筋縄じゃいかないわね」


「だよな。今日のあれ、完全に“見せつけ”だったしな」


練斗がニヤッと笑うが、その目は笑ってない。


「自分は異界人に狙われるほど重要人物で、それを守れる戦力も持ってる。生徒会長候補としても、人間派のリーダーとしても、“頼りがいがある”って印象づけたかったのね」


風香ちゃんの分析は、いつも通り容赦ない。


「そしてついでに、“異界人は危険だ”って空気も作れた。異界派は来ていないけど、あのタイミングで乱入……どこまで計算なのかしら」


「え、それって……もしかして、あの襲撃自体も……」


私が言いかけた瞬間、風香ちゃんと目が合う。


「その可能性はゼロじゃないわ。けど、証拠はまだない。今のところはね」


そう言って、風香ちゃんは小さく息を吐いた。


「ただ一つだけはっきりしてる、白武信也は、“私達も、平等派も、異界派もまとめてぶっ潰す気でいる”ってこと」


「上等だろ」


練斗が即答。


「こっちもそう簡単に潰されに来てるわけじゃねーしな。瀬礼文学園とこの街を荒らす気なら、まとめてぶっ倒すだけだ」


うん。こういう時の練斗は本当に頼もしい。


というか、ちょっと物騒。


「問題はーー」


風香ちゃんが続ける。


「平等派ね。私達と組んだことが、彼らの首を絞める可能性もある。情報戦では完全に白武のほうが先手を打っているわ」


「でも、助けを求められて、そのまま放っておくのは違うでしょ?」


私は背筋を伸ばして、湯呑みをテーブルに置いた。


「異界人も人間も関係なく、この街と学園を守る。それが金花探偵事務所なんだから」


「……そうね。その方針は変えない。変えるつもりもないわ」


風香ちゃんの目が、少しだけ柔らかくなる。


「だからこそ、慎重に動く必要があるの。あの人魚、海王瑠香がどこまで読んでるか、ね」


名前を出した、そのタイミングだった。


コンコン、と事務所のドアがノックされる。


「お客様デス。監視カメラニ反応アリ。敵性反応ナシ。海王瑠香様ト推定サレマス」


「え、もう来たの!?」


私が慌てて立ち上がる。

早い、行動が早いよ、人魚さん!


「まだ会議から一時間も経ってないわよ……」


とぼやきながらも、風香ちゃんは立ち上がり、髪を軽く整えた。


練斗はというと――


「よっしゃ、第二ラウンドってとこだな」


と、ストレッチを始めている。戦う気か。


ゴーレムがドアの鍵を解除し、静かに扉が開く。


「失礼します、金花探偵事務所の皆様」


事務所に入ってきたのは、予想通り、海王瑠香。


海の光を閉じ込めたみたいな水色の髪がふわりと揺れている。


そして、彼女の後ろには三人の生徒。


「約束通り、平等派のメンバーを連れてきました。改めて、今日からよろしくお願いします」


瑠香さんの声は、昼間よりも少しだけ固い。

その緊張が、この状況の重さを物語っていた。


「ようこそ、金花探偵事務所へ!」


私はいつものテンションで笑顔を作る。

こんな時こそ、所長の出番だもん。


「改めまして、平等派代表、生徒会長候補の海王瑠香です。こちらは――」


瑠香さんが一歩横にずれ、後ろの三人を紹介する。


「選挙戦略と広報を担当している、人間の二年生、新道ラントくん」


黒縁メガネに真面目そうな顔立ちの男子生徒が、一礼する。


噂には聞いたことがある、生徒会長候補クラスの頭脳を持つって言われてる秀才くんだ。


「異界側との橋渡し役をしてくれている、獣人族(狼種)の一年生、灰堂リリィ。ちょっと怖く見えるけど、心は優しい子です」


銀の髪に狼耳がついた女の子が、少し照れながら会釈した。


目つきは鋭いけど、しっぽが小さく揺れてる。かわいい。


「そして――」


瑠香さんが最後の一人に視線を向けると、その子は前に一歩出てきた。


「図書委員で、情報収集と資料整理を手伝ってくれている、桜田梨乃さんです」


「え、桜田さん!?」


思わず声が裏返る。


「えっ、あ、えっと……さ、さっきぶりですね、所長さん……いえ、金花さん…?」


梨乃ちゃんは、昼間と同じ、ちょっとオドオドした雰囲気。


でも、その目の奥には、知ってる。ちゃんと芯がある。


「桜田さん、平等派だったの!?」


「え、えっと……強制的に、じゃなくて、自主的に、です……」


「彼女は“中立寄りの本好き”という立場から、他派閥との距離感も一番冷静に見てくれます。今回、あなた方と平等派の橋渡し役としても力を貸してもらうつもりです」


瑠香さんの説明に、私は思わず「おぉー」と声を上げてしまう。


人間、異界人、本好き。

このメンバー、なんだかバランスが良い。


「さて――」


瑠香さんが、一度だけ深呼吸をしてから、まっすぐ私達を見る。


「改めて、今日の会議で起きたこと。白武信也、人間派、生徒会――そして異界派の乱入。その全部を踏まえて……私達“平等派”と“金花探偵事務所”の共同戦線について、具体的なお話をさせてください」


その目に、もう儚さはない。

あるのは、揺るがない決意。


私は風香ちゃんと目を合わせ、練斗の方を見る。


「よし」


私は所長らしく、パンっと一度手を叩いた。


「それじゃ、瀬礼文学園、生徒会選挙大作戦、作戦会議を始めようか!」


「名前が軽いのよ、メリー」


「でも、悪くないわね」


風香ちゃんが、ほんの少しだけ笑った気がした。


こうして、私達と平等派の、本当の意味での“共同戦線”が始まった。

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