【探偵#24】相容れない思想…ミゼの力
私の名前は星都風香、金花探偵事務所の探偵。
現在は瀬礼文学園の活動者会議に参加している。
私達の発表が近づく中、白武財閥、白武信也の番になっていた。
白武は茶道部の現部長、茶道部は敷居が高く、異界人はおろか、品位を損なうという理由で入部を拒否されるという噂を耳にする、それもあってか部員が全て人間派、茶道部は事実上、人間派の活動拠点となっている。
そして白武の横にいる謎の女子生徒、雰囲気が西洋チックな感じ、今まで見たことない、一体誰なんだろう?
そんなことを考えている間に、白武がすでに立ち上がっていた。
「では、茶道部の活動報告ですが、最近卒業生からの贈呈品で茶碗や茶菓子が増えました、”茶道部”としての発表は以上です」
茶道部として、ここまではあくまでこの会議に出席した以上やらなければならない報告。
だけど、白武は人間派、今回私達が参加したのは白武の動きを掴むため。
「数日後開かれる、生徒総会、生徒会長候補者として、一つ提案があります」
今日開きっぱなしの目が再び開かれる。
「それはなんだ、言ってみろ」
生徒会長、御影帝一の圧もさらに増していく。
だけど、その圧を受けながらもそんなの関係無しに、白武は笑いながら手を上げた。
「会長、今度開かれる生徒総会、そこで立候補者同士の公約や今後の学園の事について全生徒達にプレゼンを行う、毎年恒例の大切なイベント、ですが…」
この感じ…何か面倒な予感がする。
その次、白武の放った言葉は、私達にとってはあまり嬉しくない提案だった。
「この面倒な三つ巴の戦いを収めるべく、三つの派閥の中で最も生徒から賛成を頂けなかった派閥は選挙から降りる…これでどうでしょう」
これは相当まずい提案、私達を直接狙ってきている。
白武が一瞬私の顔を覗いた気がした。
「その目的は?選挙は2学期が本番だ」
会長は納得がいかないような口調。
私の前にいる黄色い所長はぽかんとしているが、これは間違いなく私達を狙ってきた策に違いない。
まず、生徒会選挙は、生徒会長1名、副会長2名、会計、書記、広報がそれぞれ一名となっているが、毎年、三つの派閥から代表が一人立候補している。
現生徒会も全て人間派の人間が役員となっている、それぐらい人間派の勢力は強い。
異界派はこの学園にいる異界人が多く参加し、勢力も毎年人間派を脅かすほどまでに成長している。
だけど…私達が協力している平等派は違う。
誕生したのも数年前、人間派や異界派と違いまだ小規模、特に人間派からは異界派よりも嫌悪されている、異界人と人間が手を組み、選挙に立候補するなんてありえないという。
つまり、これはまだ小規模でまともにぶつかれば負ける平等派を選挙という舞台から退場させるという狙い。
「そうですね、確かに本番は2学期、いや本番なんて概念はこの選挙においてなく、常に戦いは起きていると考えていますが」
今度は確実に、私に笑みを向けてきた。
「まぁ、現生徒会は後輩の選挙選には不干渉、それが規則だ、私からは何も言えない、ただ”立候補者同士”でどんな話し合いをするかは任せる」
会長の言葉、そして白武がこの活動者の前でわざわざ発言したい意味、全て繋がった。
「これが狙いかよ…クソが」
隣の用心棒も同じ結論を導き出したのか、怒りが滲みだしている。
「会長の意向は確認しました、これで以上です」
白武は下を見つめながら美しく優雅に着席する、どうやら私は彼を少し舐めていたのかもしれない。
平等派についたと情報が流れた今、私達の立ち位置はどれだけ反論しようとも変わらない。
しかもこの活動者の長が集まる会議で、会長からこの言質を取ることが彼の目的。
こうすれば私達と平等派は勝負を受けざる負えない。
「まぁ御影帝一も人間派、白武を勝たせたいんだろ」
「なにが生徒会は選挙に不干渉よ、生徒会の前に出てプレゼンする癖に」
私達が文句を言っている間に、茶道部の発表が終わり、野球部になっていた。
「今回の夏の予選、例年通り、決勝まで失点せず勝ち上がりました、今年も甲子園に出場します」
野球部、流石名門といわれるだけのことはある。
「異界人も人間も関係なく、メンバー全て力を合わせて優勝を目指します」
援助や部活動に置いての協力要請を一通り話し終えると、以上です、と言いながら帽子を取って一礼、これが高校球児なのね。
そして…
「続きまして、金花探偵事務所の所長、金花メリーさん、お願いします」
メリーが今日一番の笑顔で元気よく立ち上がる。
「はい!」
会議の発言は特に何もなければいつもメリーに任せている、発表もメリーがしたいようにすればいい…と伝えてある。
「今回の報告です、いきなりですが、依頼数は前学期よりも約1.7倍に増加しています!」
メリーが誇らしげに胸を張ると、会場にざわつきが広がった。
「……増えてるんだ」
「ていうかそんなに依頼受けてたのか、あの事務所」
聞こえる声は肯定的なものもあれば、驚き交じりのものも。だけど、メリーは気にせず続ける。
「依頼の内容も幅広く、落とし物からストーカー対策、果ては異界犯罪の調査まで!私達、金花探偵事務所は、人間も異界人も、どんな人でも分け隔てなく助ける探偵事務所です!」
その言葉に、一瞬空気が変わった。
「分け隔てなく」というフレーズが、人間派の一部にとっては刺さるらしい。
「もちろん、依頼には調査対象として生徒も関わる場合がありますので、私達は校則の遵守、そして倫理的観点からも十分に配慮し、必要があれば学園に正式な報告を行っています!」
……よく覚えてるじゃない、メリー。あの書類の提出だって、9割私が作ってるのに。
「それと、最近では美術部さんの作品保護依頼も成功に終わりました!また、生徒の安全確保のため、夜間の巡回強化や、異界からの違法薬物流通の調査も独自に進めています!」
会場の空気が少しざわつく。
探偵事務所の動きが、それなりに本気だということが伝わりつつある。
「最後にっ!」
メリーが両手を胸の前で握って、少し恥ずかしそうに言った。
「えっと、平等派の支援という話が最近広まってるけど、それは間違いじゃないです!人間でも異界人でも、誰でも仲良くできるってことを、探偵活動を通じて証明したいだけなんです!」
……素直な子。政治の駆け引きとは違う、真っすぐな想いがそこにある。
でも、それがこの学園では時に武器にも、弱点にもなる。
「ですので!これからも!ぜひご依頼は!金花探偵事務所へどうぞっ!」
締めのセリフまで完璧に。
拍手が起きた。まばらだが、確かに響く拍手だった。
「――終わったね」
私がつぶやくと、後ろの練斗がぼそっと言った。
「いや、始まったな」
……確かに。
白武の罠にかけられたまま、反撃の舞台に立った。
次は私達が、動く番だ。
メリーの発表が終わり、彼女が席へ戻ろうとした瞬間だった。
「……っ、風香!メリー!頭下げろ!」
練斗が異変を察知して、とっさに声を上げる。
扉が、爆風と共に吹き飛んだ。
「うおっ!?」「な、なに――!」
会場中がざわつく中、土煙の中から現れたのは――
「白武信也……ここで終わってもらうぞ」
「この腐った学園に、異界の裁きを」
黒い外套に身を包んだ、異界派の過激分子と思しき二人の異界人。
一人は額に角を持つ“鬼人族”の男、もう一人は四つ目の“蜘蛛属”の女。
どちらも、異界人の中では攻撃性の高い種族。
「てめぇら、俺を舐めてんのか」
練斗が動こうとするよりも早く、標的にされた白武が席から立ち上がる。
「無駄だよ」
そうつぶやいた、その時だった。
「……失礼、敵意の排除は私の役目です」
パシッ――
瞬間、空気が凍った。
誰よりも早く動いたのは、白武の隣にいた女子。
フリル風のスカートを軽く揺らしながら、その手に握られていたのは――銀光を放つ短剣。
「白武のイソギンチャクが!お前から!!」
ガギィン!
鬼の男の放った一撃!
しかしミゼはナイフで軽く受け流し、そのまま一歩踏み込み、最速の一閃。
「眠れるほど遅いです」
「ぐっ――が、あ……ッ!」
男の胸元に一直線に刻まれた斬撃。
刹那、衝撃で壁まで吹き飛び、男は倒れ込んだ。
「お、おい! あんたっ……!」
蜘蛛属の女が糸を放とうと両腕を広げる――
けど、そこにはもう“誰もいなかった”。
「…………え?」
彼女の背後。
ミゼは、既にそこにいた。
「処理完了。ご安心ください、信也様」
ドンッ!
一撃。
女の意識が、床に叩きつけられると同時に飛んでいた。
「な、なにが……今の……」
会場が一瞬で静まり返る。
「嘘だろ、今の動き……」
「速すぎる、見えなかった……」
「彼女、ただの付き添いじゃ……」
戦闘終了まで、約5秒。
異界人二名が、音もなく沈められた。
ミゼ・レムナント。
白武信也に忠誠を誓う“白の影”。
かつて某国の王宮で護衛を務めたと言われる元・異界傭兵であり、現在は白武財閥の秘蔵戦力。
「ご迷惑をおかけしました、皆様」
スカートの裾を整えながら、ミゼが優雅に一礼する。
「やってくれたな、完全に公開処刑じゃねぇか……」
後ろで練斗が歯噛みしている。
「……つまり、これが白武信也の“切り札”ってわけね」
私は冷静を装いながら、再び分析を開始していた。
彼女は単なるボディーガードではない。見せつけたのだ。
異界派を一蹴できる力を。
生徒会選挙を前に、「どちらにつくべきか」を、活動者全員に問いかけるように。
「白武…」
私の胸に、嫌な感覚が広がっていく。
これは宣戦布告。
力による支配というメッセージ。
けど…私を見くびらないで。
これで完全に私の心に灯が灯った。
白武…勝つのは私達、金花探偵事務所だよ。
次回…風香の秘策?




