【探偵#22】面倒な事
俺の名前は煉城練斗。
「煉城君、はい、休んでいた間のノート」
隣の席のクラスメートからノートを見せてもらっている、金花探偵事務所の用心棒だ。
「ありがとう、桜田さん、マジで助かるよ」
視線の先にいるのは、現在救世主の文学少女、桜田梨乃。
「にしても煉城君が入院なんて、相当な怪我だったの?」
そう、俺は数日間、学校を休んでいた。
瀬礼神社祭りで風香を狙う白虎と俺は、正面から激突。
何とか俺が勝利したが、奴も俺も重症、まぁ最初から殺す気はなかったしな。
そんなこんなで数日の欠席の代償が現在この時間にやってきてる…
現在は二時間目が終わった休み時間、全力での欠席だった授業のノートを写している…
というか、今日はきっと全ての休み時間がこれで消えてしまうだろう。
瀬礼文学園の授業は誇張抜きで進むスピードが速すぎる、たった一日休んだだけで何もわからないなってザラ。
「しかも次の物理は小テストだろ…まじで休むんじゃなかった!」
「大丈夫、そんな難しくないよ、煉城君だって別に勉強できないわけじゃないじゃん」
この先に待ち受けるテストがエネルギーを奪っていく…
そんな時だった、突然桜田さんがクラスの外を指さした。
「そいえば、なんだか今日廊下で噂話を聞いたんだけど、金花探偵事務所が正式に平等派についたって、本当なの?」
物理の化学記号を移していたペンが止まる。
なんだ…そりゃ…
「桜田さん、その噂、誰が話していた??」
もう両手は彼女の肩に乗っていた、眼鏡が驚いたかのように跳ねる。
「えっと…詳しくは分んないけど…隣のクラスの人だったかな?どうしたの?」
これは…と思ったと同時にクラスに見慣れた二人の少女が俺の元によって来る。
「練斗、ノートは写した?っていうか、もう噂は聞いた??」
「二人も知ったのか」
どこか慌てた様子で、メリーと風香が机までやってくる。
「やばいよ、練斗、ヤバいんだよ!」
「あの人魚、どうやらやり手のようね」
「えっと…どうしたの?」
俺達三人があたふたとしてる様子に、桜田さんの方が慌て始める。
「確かに私達は昨日、依頼を受けると話した、だけど、あくまでもこの演説会のみ…けど流れている情報は、私達が完全に平等派になったということ」
風香の分析を聞いてみると、言われてみればそうだ。
俺達は今まで生徒会選挙は中立で静観の姿勢を貫いてきた。
今回の依頼も利害関係が一致しただけの関係に近い。
だが…この複雑な状況、見方によれば俺達が完全に平等派についたと見られてもおかしくない。
「昨日の段階で違和感は感じていた、確かに一度協力すれば、私達が平等派についたと思われるなんてのは理解していた…けど」
情報が流れるのが速い…しかも平等派に有利な情報。
「なるほど、最初からこれが狙いだったのか」
移し終わったノートを閉じながら、状況を咀嚼する。
昨日訪れた依頼人、海王瑠香。
平等派のリーダーであり、生徒会長の座を狙う選挙候補者。
人間派、異界派との差を埋めるべく、人間派の白武信也と敵対関係の俺達を仲間に引きずり込んだ。
俺達はあくまで静観のスタンス、だが、平等派にうまく乗せられてしまったようだ。
「この状況になるのは予想していた、どれだけ外野に何かを言われても私達のやり方を変えるつもりはない」
「私も風香ちゃんと同じ、でも協力するのも事実だよ」
そう、俺達は俺達で好きにこの街と学園を守らせてもらう、例えどんな派閥が邪魔しようとも関係ない。
「そういえば、金花探偵事務所も出席するんだよね、放課後の会議、私も出るよ」
「桜田さんは図書委員だったよな、でも委員長だっけ?」
俺の問いに首を横に振る。
「いや、それが…委員長や役職付きの人達が出席できないって…それで…」
可愛そうに…まぁ気持ちわわからなくもない。
「私達図書委員も毎度参加してるけど、別に参加してもしなくても変わらないもん、別に皆本好きの人以外はただの勉強スペースだと思ってるだけ」
桜田さんは間違っていない。
生徒会、体育局、数々の強豪の部活動、そして、お小遣いという名の何千万という潤沢な資金で趣味の範疇を超えている、同好会とサークル。
そこに三大派閥や、俺達のようにわけのわからない奴らまで…まともな感性を持つ人間が参加すれば精神を病みそうになる。
「でも今回でないと次は夏休み前でしょ、一応出とかないと…コネという名の魔法の力で希少な本も手に入るかもだし」
こういわれてみると、委員会だけを集めた会議、部活、同好会を集めた会議を行えばいいのではと思ってしまうが、まぁこれもお金持ち達の感性なのか?
「とにかく、平等派の事を考えるのは、この会議を乗り越えてからにしましょう、噂はもう止められないし、協力するのは事実、好きにさせましょう」
風香に纏わりつくように、急にメリーが抱き着く。
「おっけ!!じゃ放課後まで英気を養おう!!」
次の瞬間、メリーに音速の蹴りが突き刺さったのは言うまでもない…
こんな青春のど真ん中に来るような日常の間に、俺達を狙う影を大きくなり始めていたんだ。
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その頃、白武と専属メイド兼護衛のミゼは瀬礼文学園の茶道部の部室にいた。
「ミゼ、正式に瀬礼文学園復学、おめでとう」
「再び信也様と同じ道を歩める、幸せです」
白武信也は茶道部の現部長、二人は話しながらお茶を点ていた。
茶道部は瀬礼文学園の部活の歴史の中でもかなり古めの部活動。
異界と人間が手を取り合い始めた現代、特にこの学園では珍しく、異界人は入部できないという暗黙のルールがあるほど、厳格な部活動。
「さっそくだけど今回の発表、ミゼにも頑張ってもらうから」
茶筅で練り混ぜる動きに澱みは一切ない。
「はい、信也様の為なら死ぬ覚悟はもうできています」
「さっき入った情報だとね、平等派が金花探偵事務所を味方につけたそうなんだよね、彼らもまだ諦めていないってことなんだ」
俺らの情報も当然、耳に入っている。
「ミゼ、異界派ももちろん邪魔だけど、まずは金花探偵事務所と平等派を狙うよ」
だが、ミゼは意外にも首を傾げる。
「信也様、なぜ平等派と探偵なのですか?異界派のほうが平等派よりも我々の信念から遠く離れているかと」
この学園はまだ人間優位な学園、異界派の狙いは異界人にとっての学園を作ること。
そのためにこの学園に入学させた異界の貴族も多いだとか、この学園の実績はどの世界でも通じる、異界人が地球を狙うなら当然の選択。
「ミゼのいう通り、厄介なのは異界派、しかも金花探偵事務所とも敵対関係にある、三つ巴の現状…」
でもね、と白武が茶碗をゆっくりと置く。
「異界人と人間が手を取り合うなんて、厄介だろ?それに、僕の目的は星都風香を超える事、どんな事、どんな手段でもね」
白武の言葉に反応するように、ミゼのオーラが増していく。
「信也様の夢は私の夢、早速ですが、金花探偵事務所にはこの舞台から降りてもらいましょう」
そして、このミゼ・レムナントが俺達を追い込んでいく…




