【探偵#21】人魚族の頼み事
私の名前は星都風香。
「金花探偵事務所の皆さん、今回の依頼、受けていただけるでしょうか」
金花探偵事務所の応接間で依頼人の事情を聞く、探偵。
「海王さん、また詳しく事情を詳しくお聞きしてもいいですか?」
「はい…お願いします」
私達三人がいるソファーの反対にどこか儚げに座るのが今回の依頼者。
名は海王瑠香、異界出身の人魚族。人魚族の正装なのか、貝殻や輝く鱗のついた白のワンピースに、水色の長い髪。
髪留めに貝殻のようなものが付いていて、本当に人魚族なんだと感心している自分がいた。
私、人生で人魚族見るの何気に初めてかもしれない。
そして私達と同じ瀬礼文学園に通うエリート。
「単刀直入に申し上げます、金花探偵事務所に生徒会選挙の協力をお願いしたく参りました」
貝殻の髪飾りが自分の視界から消えるまで頭を下げる。
なんとなく予想はついていたけど、やっぱりこの案件か。
「おいおい、そりゃずいぶん思い切ったお願いだな、今のままじゃ勝てないからか?」
その話を聞いた練斗がソファーから飛び上がりそうな勢いで前に顔を突きだす。
「煉城さんのおっしゃる通り、ここ数日で、私達を取り巻く状況は急速に変わっていってます」
彼女の両手はぎゅっとスカートを握っていた。
「ご存じ、私達平等派は、異界派と人間派に比べ、規模はまだまだです、ここは最近の世論の流れ的に平等派の勢いも増していました」
平等派は異界派でもない、人間派でもない、平等な学園を作ろうと近年誕生した派閥、人間は勿論、異界出身の異界人も多く在籍しているらしい。
だが、やはり学園の二大派閥には遠く及ばない勢力。
ですが…と言葉を零す人魚族の美女の顔は、儚さなどない、追い詰められた表情に変わっていた。
「数日前、あの白武財閥の御曹司、白武信也が生徒会選挙に会長として立候補すると、情報が流れました、白武財閥は特に過激な反異界的な思想を掲げている財閥…人間派の勢いはさらに増しています」
ここ最近、祭りの準備や入院で忙しかった間にも状況は目まぐるしく変わっていた。
白武信也が生徒会長を目指いしているという私の予測は的中。
「そして、今度行われる生徒総会で、人間派、異界派、平等派がそれぞれ代表をだして生徒と生徒会の前で応援演説兼プレゼンを行う、代々受け継がれてきたイベントがあります…」
そして再び彼女は頭を下げた…前よりも深く。
「金花探偵事務所の意向は理解しています、極力どの派閥にも深入りしないと…ですがこの集会を逃せば私達の勝ち目は無くなります…どうかご協力をお願いします!!」
彼女の思いは受け取った、どうやら本気らしい。
瀬礼文学園生徒会選挙、一学期応援演説。
ここでどれだけ生徒会と生徒を味方にするか、それによって今後に控える選挙選が有利になるかが決まる。
「私達のやり方も理解した上でのこの依頼、話は理解できたわ、つまり応援演説を成功させろってことね」
「はい…依頼内容的にはそうです…」
彼女は何か言いたげだが、大体わかる、今後もよければ協力してくれないかという事。
「話は大体わかった、でもよ、俺達の事を仲間する意見に反対は無かったのか?」
練斗の疑問、私も同じく思っていた。
金花探偵事務所はこの街で活動しているが、学園に正式に活動許可を得ているわけではない。
私達の影響力を無視できないが故に、活動者として認めてもらっただけ。
いまだに校舎の窓ガラスを依頼で破砕したり、犯人を限界までカチコチに固めたりなど野蛮なうわさも流れてしまっている…まぁ自業自得なのだが。
「そこは問題ないです、私達は貴方達の活動や信念を知っています、私達と一番理想が近いことも…私達となら分かり合えると思い、ここまでやってきました」
再び彼女は深く頭を下げた、この感じ、どうやら私達に依頼をするまでに相当な下調べを行ったようだ。
その時、しばらく黙っていたメリーが口を開く。
「困っているなら、助けたい、異界人も人間も関係ない、この街に住んでいるなら」
メリーの明るい返事に儚い顔が自然に上がる。
「ほ、本当ですか…」
もともと三人で話した時から協力する方向だったが、まだ状況が見えてこない。
人材とは適材適所、このメリーの優しさも時に必要だし、そこが彼女の魅力的な部分。
私の役割はシビアにいくこと。
「私達、金花探偵事務所はこの瀬礼文学園、そして瀬礼市の味方、そこに異界人も人間も関係ない。特に私達は生徒会選挙はよほどのことが無ければ静観するつもりだった」
それに…と私は彼女の狙いを言い当てに行く。
「どうやら平等派は私達の事相当調べたようね、そして、私達の行動理由も」
私は彼女を真っ直ぐな目で見つめる、それは魂の奥まで見えるように。
「生徒会選挙は静観の姿勢を見せる私達をどうにか味方にできないかと考えていた時、私達が最近白武信也とバチバチだって知ったんでしょ」
「素晴らしいですね、噂以上ですよ、星都さん」
先ほどまでの下からお願いしてきた儚い少女は、私の前にはいなかった。
「そうです、星都さんの言う通りです、どうやら全て見抜かれていたようですね」
これが素…目の奥に滾っているのは不屈の精神。
どうやら利用できるものは利用する、それが彼女のやり方のようだ。
まぁ私もわかってはいた。この状況で私達を強力させたいなら、必ず何かしらの情報を掴んでいたはず。
「まぁ風香、たとえ俺達を利用しようと関係ねーよ、白武は潰す、ただそれだけだ」
白武財閥の目的は”ゲート”を封鎖、または異界人をこの世界からなくすこと。
それを叶える布石として、生徒会長を目指していると見ている。
「白武財閥は俺達が止める、そしてあんたらも選挙において敵、利害は一致している」
用心棒の言う通り、利害は一致している。組むには十分。
メリーは組む気満々のようだし、練斗も気合なら銀河一。
「わかったわ、この依頼、お受けしますよ」
金花探偵事務所の特性、そして鮮度の高い情報、どうやら陰に優秀なブレインがいると見た、彼女一人だけで事務所に来たのもパフォーマンスの一つ…?
けど、依頼は依頼、受けたなら全力でやるのがモットーなの。
「では、次回、平等派のメンバーを連れてきます、そこで具体的な打ち合わせを行いましょう」
気づかぬ間に彼女は立ち上がっていた。
「それに…明日は瀬礼文学園の活動者会議、そこでなにかあれば私達にも伝えてください」
では、と言いながら彼女は風のようにドアの向こうに消えてしまった。
「風香ちゃん、今回の依頼、なんだか思った以上にややこしいかもね」
黄色いパーカーの天真爛漫さも、この状況では真面目に変わっている。
「二人とも、とりあえず私達は今回のイベントでそれぞれ三つの派閥が事件を起こさないように見張ること、そして、平等派に協力しながら白武信也を潰すこと、いいね」
「まかせろ、瀬礼文学園を荒らせばどうなるか、体で理解してもらうだけだ」
「まかせて、私達ならできるよ」
こうして、平等派との一時的な共同戦線が敷かれることになったが、日本一壮絶とまで言われる生徒会選挙は、ここからだったんだ。




