【探偵#19】戦いの代償
私の名前は金花メリー、金花探偵事務所の所長。
「練斗…風香ちゃんも遅い、どこ行ったの?」
休憩から戻ってこない風香ちゃんと練斗を心配した私と海川さんはお店を休憩時間として、森の中を探していた。
「星都さん!煉城さん!どこですか!」
海川さんの声が森に響き渡る。
練斗は風香ちゃんと一緒に休憩しに行くと連絡が入っていた。
なのに時間になっても戻らないし、二人とも休憩所のプレハブ小屋にもいなかった。
もう日も暮れて森は暗闇、だけど瀬礼神社は祭りの真っただ中。
明るい光と街の人々の活気で境内は満ちている。
「金花さん、もしかしたら裏の獣道かもしれません」
海川さんの言葉で思い出した、自分達の屋台から休憩所までは距離があり、さらには森を超えなければならない。
特に風香ちゃんと私は浴衣、近道を教えてもらっていた。
そこしかもう思い当たらない…生い茂る森の草木を押しのけて獣道に向かう。
「あの風香ちゃんが連絡無しなんてありえないし、時間通りに来ないのもありえないよ!」
でも練斗が側にいる…きっと大丈夫!
地面に落ちている枝を豪快に踏み抜きながら私と海川さんは森を抜けた。
「金花さん、もしかしてあれは!」
海川さんが指をさしたその方向に、暗闇の中で誰かをおんぶして歩く人影。
「まさか…」
私は暗い森の闇を切り裂くように人影に向かって走り出す。
おじいちゃんに買ってもらった大事な浴衣はもう土まみれになってしまった。
暗さに目が慣れ、さらに距離が近づいた私の目はその人影を捉える。
「練斗…!」
声をかけたと同時に、暗闇から現れたのは金花探偵事務所の用心棒、練斗。
「メリーすまん、心配かけた」
練斗はいつも通りのテンションに見えたが、夜目に慣れた私は練斗の今の状態を知ってしまう。
「練斗!大怪我してるじゃん!!ヤバいよ!!」
今までも事件で戦闘したことは何度もあったけど、過去一番でボロボロ。
腕や肩の裂傷や胸に複数の傷跡、スライムで止血しているが間違いなく重症だ。
「こんくらいかすり傷だよ、それよりも風香だ」
練斗がおんぶしていたのは…探していた探偵の風香ちゃん。
練斗の背中でぐったりとしている…意識はない!
「風香ちゃんもヤバい!今すぐ病院!もう連絡するよ!」
金花財閥の力で今すぐ強引に最高の病院を抑える…うちの主力をこんなことでは失わせない。
「メリー、風香は気を失っているだけで怪我とかはない、俺も止血と気合で何とかなるぜ」
私を見ながらもにこやかに笑って見せるが、明らかにいつもの動きじゃない。
しかもその大怪我で風香ちゃんをおんぶしてるなんて、気合の総量が違いすぎるよ…
「煉城さん、今は金花さんの言う通りです、お店は私達に任せてすぐ病院に行ってください」
「まぁそうだな、とにかく風香を連れて行こう」
私達の説得で練斗は何とか納得してくれたようだ、まったくうちの用心棒は無理ばかりする。
「メリー、襲ってきたのは白武に使える暗殺者、白虎だ、最近は大人しかったのにまた性懲りもなく襲ってきやがった、でも撃退したからもう大丈夫だ」
白武財閥、私達をまた襲ってきた。目的は一体何?ただ瀬礼文学園で私達が邪魔なだけなの?
でも…この楽しい祭りを邪魔するなんて…絶対に許さない!
______
私の名前は白虎、白武財閥の戦闘者だ。
生死の狭間を彷徨いながら病室で天を仰いでいる。
私は雇い主の白武信也様の野望の為、障害となる瀬礼市の探偵、星都風香を狙った。
だが…現場には用心棒であり、因縁のある煉城練斗が立ちはだかる。
戦いは壮絶、私の胸には数えきれないほどの切り傷が刻まれた。
相手はかつての最強、命があるだけ儲けもの…か?
煉城練斗は組織の頃よりもさらに強くなっていた、かつての煉液のように全てを滅ぼす強さではない。
刃に乗っていたのは誰かの為に戦うという私とは違った信念だ。
その時だった、あわただしくも聞きなれた声がこの病室に響く。
「白虎様!!大丈夫ですか!!!」
慌てた様子で病室のドアを開けたのは…
「鬼山、すまん。連絡が遅くなって」
鬼山欄次郎、同じく白武財閥に雇われている私と同じ戦闘者。
私が煉城練斗に敗れ、暗き森で死にかけていたところ、全速力で鬼山が病院に運んでくれた。
「白虎様を森で見かけたときは本気で死んだと思っちゃいました…良かった」
「すぐに復活する、しばらく迷惑をかける」
鬼山とこの白武財閥が誇る医療施設がなければ、私はすでに三途の川を渡っていただろう。
鬼山には強がったが、正直今回のダメージは過去一だ。
煉城練斗は私と戦っている最初から手加減をしていた、戦闘してわかったのだ。殺す気などないと。
だが…途中から現れた奴に眠る異界の力、煉獄龍。
奴が振るう斬撃は強烈だった。
まるで自分以外全てが下だという傲慢さ、そして絶対的な自信。
奴の一刀、それは私を滅ぼす意思を纏う無慈悲な斬撃。
それが深い…話しているだけでも限界に近づいていく。
「白虎様。もう一人で無茶はしないでください、このままではまた…」
そんな私を見た鬼山の顔もどんどん明るさを失っていしまう。
鬼山は熱い男だ、こんな私に対しても心配してくれる…
もし関わり方が違えば、もっと異界人と人間は理解できる日が来るのかもしれない。
だが、現実はそんなに甘くないらしい。
「その様子だと、元気な感じだね」
病室のドアが再び開く、ねっとりと纏わりつくような声と同時に。
「信也様!!」
鬼山がどこか抜けたような声を出しながら慌てる。
そう…私は煉液に敗北し、この方の任務に失敗したのだ。
「信也様!!!!」
私は気づけばベットから飛び降り頭を下げていた。
死にかけの体が悲鳴を上げ始める…
切り裂かれた胸、蹴られた顔、撃ち抜かれた腹。
「この度は…申し訳ございませんでした…」
「白夜、いいよ、顔を上げて」
何…と思い、顔を上げると、白武信也の顔はどこか穏やかで、私をなだめる表情。
「しかし、信也様…私は…」
「まぁ白虎、落ち着いて、そんなボロボロなんだしさ」
失望される…と思った私にとっては予想外。
「君の信念と僕の夢は似ている、君を雇ったのは君の分厚いハートに惚れたから、こんなことで君を嫌いにならないよ」
なんだ…こんな感じになるのは初めてだ。
「まずは体をしっかり休めて、煉城練斗も重症だし、星都風香も削れた、十分だよ」
信也様が私の肩に手を置く、やさしさを感じる…こんな一面もあったのか?
「しかし…信也様」
そう、このミッションには時間はない、この夏を過ぎた秋にやってくる大イベント。
瀬礼文学園生徒会選挙、そこで信也様が会長になる。
それが信也様のお父様から課せられた課題であり、この私と信也様の計画には不可欠な要素。
「最初から金花探偵事務所をいきなり潰せるとは思っていないよ、それにまだいくら手段はある」
白武信也、私の雇い主、だが聞く噂はいいものではない。
親の七光りで女遊びが激しく、好みの女性であれば相手の都合など関係なく口説きに行くクズ中のクズ。
最初こそそう思っていたが、抱えている野心、そして仲間に熱い男だと一緒に行動して気づいたのだ。
普段の腑抜けた雰囲気も、私や野望を語るときは熱い男になる。
「あとさ、二人に報告があるんだ」
信也様が立ち上がり、鬼山と私にいつものように笑顔を向ける。
「出張から、”彼女”が帰ってきてね、丁度この病院に…」
信也様がそう言いかけたその瞬間。
「お待たせしました、信也様」
もう、私達三人に間に、”彼女”は現れていた。
西洋チックの日傘、揺れる紫のショートカット。
そして、この本格的なメイド服、白黒の定番の生地とフリルが靡く。
「おわぁ!!びっくりさせんな!!」
鬼山は驚きすぎて尻もちをついていた。
「お帰り、”ミゼ”来るの相変わらず速いね」
「只今戻りました、信也様の顔を思い浮かべていれば一瞬です」
急に現れた彼女こそ、白武財閥に正式に所属する使用人であり。
信也様の護衛兼専属メイドである、源氏名は”ミゼ・レムナント”。
両手でスカートの端をつかみながら深々とお辞儀をする、その動作に澱みは一切ない。
「ミゼ、異界での任務、ご苦労様。お母様との長旅は疲れた?」
「いえ、信也様の昔話と日常生活の話を交換し合っていたら一瞬でした」
こんな雰囲気だが、纏う空気は怪物、間違いなく私や鬼山よりもはるかに強い。
だが…同じ組織にいても彼女の情報はほとんど聞いたことがない。
信也様を狙った刺客が彼女によって全て葬られているから、と言われている。
「ミゼ、今度また、瀬礼文学園活動者の会合があるんだけど、準備できてる?」
彼女は作られた笑顔を崩さないまま、にこやかに答える。
「はい、これからは一秒だって信也様から離れません」
それに…と言いながら鬼山と私を蔑んだ視線を向ける。
「この男どもでは信也様の為になりませんし、瀬礼文学園に入学している私のほうが動きやすいでしょう」
だが、鬼山が反抗する。
「なんだと、俺達だって!!」
鬼山がミゼに向かっていく瞬間、信也様が間に入る。
「二人とも、まぁ落ち着いて、相変わらずミゼは男にだけ厳しいんだから」
二人はどこか不満そうな感じだが、無視しながらも信也様は病室のドアに手をかける。
「騒がしくしてごめんね、白虎、しっかり休んでね」
それにつられるようにミゼも病室を出ていく。
これからまた一波乱、起きそうだ。
病室を出て、信也様の後を歩くミゼの顔はどこか険しかった。
(あの白虎をあそこまで追い詰めるなんて、金花探偵事務所の煉城練斗、相当な相手ね…信也様がこれから動けば、間違いなくやり合う…)
だが、彼女が秘めるのは底なしの狂気。
(この会合、金花探偵事務所も絶対に出席する…ワクワクしてきた!)
そして、瀬礼文学園の活動者会議が再びこの争いに再び火をつけてしまう…




