【探偵#18】龍虎相打つ
俺の名前は煉城練斗、後ろで倒れている探偵を守る用心棒。
金花探偵事務所を狙い、瀬礼神社祭りで白武財閥の白虎が風香を狙う。
だが、運よくギリギリで俺が間に合った。
「風香の顔のお陰で依頼がもらえることもあるんだぞ、どう責任取ってくれんだ?」
俺も白虎もすでに血まみれ、俺に至っては雷のダメージが深く残る。
「昔からその強さ、敵ながらあっぱれだが、そのダメージでは私の攻撃は防げない」
こいつ…どうやら俺の本気を知らないようだ。
「この程度の雷で俺が沈むか、マッサージ程度だよ」
とは言ったはいいものの俺のダメージ重い、いつまでもつか…
そして、白虎の攻撃とともに第二ラウンドの鐘が鳴る!
「ここで死んでくれ」
白虎が放つは神速の風と雷の刃、もはや速すぎて視認できない。
だが、どれだけ速くても狙いがわかれば対処は可能。
「飛んでくる箇所がわかればなんの意味もない」
俺は体の正中線に煉獄刀を合わせ前に出る。
「どうせ爆破すんだろ?もうわかってんだよ」
煉獄刀によって弾かれた刃にスライムに膜を覆う、爆発は封じたぜ。
奴の狙いは俺の作業を増やすこと、俺が晒した隙を奴は見逃さない。
「近接で煉液を超えなければ、倒したとは言えない」
もうすでにとんでもないスピードで俺の懐に入っている。
「さらばだ、用心棒よ」
「俺がこの程度でサヨナラするかよ」
次の瞬間、この森に再び刃の竜巻が荒れ狂う。
「気合で俺を上回った奴なんてこの世に存在しねーんだよ」
「私はすでに貴様を上回っている!」
奴の刃は速い、俺の防御が間に合わないほどに。
「どうした煉液、もう疲れたか!!」
俺の体が薄く削られていく…マジで速い。
ここまでのスピードは俺でも完全に回避するのは不可能だ。
スピードは奴に軍配が上がるがな…パワーならこっちが上なんだよ。
「薄く削るだけ、何の意味もないな!」
俺はありったけの力を込め煉獄刀をフルスイング!
「この程度、想定内だ!」
白虎は得意のスピードで回避、回避性能まで高いのかよこいつ。
(空気が、爆ぜた…このパワーを直接もらえばタダでは済まないな)
白虎の顔には焦りが滲む。
「まだ俺は終わらないぜ」
俺の足と腕に力を籠める、スライムの伸縮性と龍のパワーを合わせれば!
「俺もその連撃、できるぜ!!」
次の瞬間、とんでもない爆発力で俺の刃が白虎を襲う!
「これが全力か!!」
奴が刃を抑えに行くその隙を俺は見逃さない!
「ここでロケットパンチだよ」
必殺の拳が、奴の高速の刃を超える!
「がぁあああああ」
弾丸の如く飛ばされた拳は奴の顔面を盛大に打ち抜く。
手に伝わる感触が、奴の頬骨を砕いたことを俺に知らせてくれる。
この攻撃を食らっても…奴の目は死んでいない。
「これで倒れれば島の皆に顔向けできない、私はもう止まらないのだよ」
島…そういえばこいつの信念の原点は悪質な異界災害、異界人を目の敵にするのもよくわかる。
白虎、ここまで強い奴は久々だ。やっぱり組織出身の奴は一味違う。
「あの最強の煉液と全力で戦うのだ、この程度は想定内」
心の強さが完全に体を支えている、マジで厄介だ。
だがな、こいつがどんな思想を持っていようが関係ない。
「お前の信念は大体わかってる、でもどれだけ頑張っても金花探偵事務所を止めるなんて無理なんだよ」
「無理、私はこの人生を全て無理と言われたことを実現してきた人生だ、止まることなどできない」
そうかよ、まぁだからこうやって戦い合ってるんだがな!!
俺は全力の踏み込みで奴との距離を再びゼロにする。
「まぁ言葉かわしても意味ないよな」
「来るがいい!煉液!」
奴は再び雷の刃を投擲、同じ技を俺に向けるとは舐められたものだ。
「もうやめろよ、それ」
刃を向かい打つように俺はスライムの弾を放つ、お互いの距離の中心でぶつかり合い破裂。
「”白虎”よ、私に最後の力をくれ!」
再び、奴と俺の間には剣戟の応酬、もはや竜巻以上だ。
「もうお前の攻撃はわかっちまったよ」
奴の攻撃はスピードに振っている、その程度のパワーで俺がやれるかよ。
剣戟の間に隠れた俺の蹴りが奴の腹を狙う!
「ここだろ?お前こそ鈍ったなあ!!」
「煉液、それは私にはもう通じない!」
ここで白虎のスピード、高速で体を曲げる。
(奴の攻撃は龍のパワーと間合いを無視した”伸びる攻撃”、つまり横に避ければ!)
白虎は俺の攻撃を被弾しながらも横の動きで捌き始める。
こいつ、俺の攻撃を搔い潜り始めやがった…
でもな、それでも俺は超えれないぞ。
「そうかい、で、これは避けれんのか?」
俺は煉獄刀を横に薙ぐ、縦の動きからの急激に変化させる。
「これも見えているぞ!!」
白虎はここで大ジャンプ!煉獄刀を避けてみせる。
「まぁこれが狙いなんだけどな、頑張って空中で避けろよ!」
「なるほどな!!」
奴の足から空に舞う為の風が出かけるが、それよりも速く俺の蹴りが奴の頭に炸裂する!!
「ぐはぁあああああ」
リーチなんて単語、俺の辞書には載ってないんだよ。
俺も奴の刃と電撃のダメージもあるが、白虎のほうが遥かに深いダメージを蓄積させている。
だが、白虎にはこれがある、奴は俺の攻撃を受けながらも強引に刃を振る!
「止まるわけにいかんのだ!!!」
「痛いな!!!」
再び俺の胸に赤が縦に染まっていく、また体が痺れ始めるがこの隙を突くのは俺もできるぜ!
「倍返しだよ、風香の痛みと恨みも籠ってる」
「煉液!まだだ!!」
俺の煉獄刀に闘気が宿る、次の刹那!
「ここまで俺を追い込んだのはお前が初めてだよ」
煉獄刀は奴の体を今まで以上に深く切り裂いた。
「がはぁああぁぁあ!」
得意のスピードももうない、限界はとっくに超えている。
(なんという、戦闘力と爆発力…これが私の超えるべき壁…)
どれだけ対異界組織で訓練されようと、異界の力を持っていようと、俺ら封印者は人間。
脆く弱い人間の体にはこれ以上の戦闘は耐えられない。
(この壁を超える事こそ…我が信念を貫くことだ)
でも…それでもこの男は倒れない、目には不屈の闘志が燃え続けている。
(この男に正攻法は通じない、ならば…)
白虎は再び風と雷を纏う刃を手から放つ!
「白虎、てめぇ!」
「食らうがいい!!」
刃のスピードは落ちていない、対応できない俺の腹に突き刺さる。
「痛いが、かすり傷だよ!」
ここでさらに俺の体は痺れ始めるが、もはや気合だ!
そしてボロボロの白虎が飛びあがりながら分厚いナイフを振り上げていた。
「煉液!我が大義の為、犠牲となれ!!」
全体重を刃に乗せた全力の一撃、白虎にとっては最後の攻撃だろう。
「ノロくなったな、もう終わりにしようぜ」
煉獄刀で受け流して隙を突いて終わり、もうお前に出来ることなんてないんだよ。
そう考えていた、その瞬間だった。
俺の体に再び異変が起きる。
「な…なに…」
全身が急に硬直する、力が入らない…
この感じ、奴の雷が俺の体に蓄積し続けた反動か!ヤバい!
奴が飛び上がり全体重をかけていたのは…この為か…
白虎が雄たけびを上げる!
「この時を待っていたぞ!煉液!いや、煉城練斗!!」
腹から声が出てやがる、やっぱ本当に分厚い戦闘者だ。
俺の構えているだけの力のない刀はすぐに弾かれる。
奴の執念が俺のパワーを上回りやがったんだ。
信念のこもった刃はもう止まらない。
全てをかけた分厚いマチェットナイフの斬撃。
「煉城練斗,同じ学び舎の友として貴様を超える!!」
信念が、俺を完璧に捉えてしまう。
「ぐぅううううう!!」
経験上、三本の指に入るほどの深手。
「やっ…ちまった…」
力の入らない俺の体は電池が切れたかのように。
「くそったれ…」
ここまでのダメージで天を仰ぐのは初めてかもしれない。
「私は不可能と言われたことを成し遂げるのが、人生の命題…たとえ分厚く高い壁があったとしても…貫くまで諦めない…わが信念の為に」
信念、俺には想像もできない積み上げた過去が俺を超えた。
このまま負けるのか…と思ったその時。
俺の脳内に効きたくない声が通る。
その声は傲慢の色に染まった威圧的な声。
(煉城よ、無様だな。俺の力を使わないのであれば、弱いスライム人間なだけだろう)
俺の意識が弱まれば、顔を出すのは封じられた力。
まずい…”起きやがったか”。
俺がこの世界で最も恐れる最大の力が。
そして、力の抜けた俺の体に駆け巡るのは、全てを燃やす破滅の闘志。
(我慢の限界だ、煉城が俺を使わず、挙句敗北するのなら…)
もうその時、俺の体の支配は奴に奪われていた。
ここで、俺が今まで一番抑えてきた邪悪で傲慢な力が世に放たれる。
「俺様が代わりに相手してやる、小僧と臆病な猫風情、思い上がるな」
力の入らないはずの体が、煉獄を纏い立ち上がる。
同時に止血していたスライムが俺の体から溶けるように消えていく。
「弱者のカスなど俺様に相応しくない」
俺の体からはどんどん血が流れて行ってしまう。
「なんだ…貴様は…一体…誰だ!!」
白虎の本能が強烈な危険信号を発する。
「雷も消え、立ち上がるだと…」
(煉液の体を巡っていた雷も煉獄で消されたか)
白虎の体は、まるで蛇に睨まれた蛙のように強烈な圧力で動けない。
「雰囲気が…まるで違う、まさか…貴様が!」
怯えた白虎の問いを嬉しそうに受け止めるこいつこそ…
「我は”煉獄龍”俺様にとって生物は全て餌、抵抗など無意味だ」
奴が言葉を発したその時、森全体の鳥や森で暮らす異界生物が慌ただしく逃げ始める。
「鳥が…何が起きているのだ…」
白虎はその異質さを前に硬直してしまう。
「くぅうう、貴様!!」
白虎は再び無数の風の刃を放つ、ここで底力を見せる。
それでも相手は飛来した国を1日で滅ぼす最強のドラゴン。
「避けるなど、弱者が選ぶ行為、俺様は何も変わらない」
なんと奴は無数の刃を食らいながらも前に飛び出す!
普通なら、大けがどころじゃないが、こいつに常識は通じない。
(体に纏う煉獄が、刃を防いでいるのか)
白虎は限界な体を精神力で動かす!
「煉獄龍!私は止まらない!!」
「精神力だけで、この俺様を超えることなど幻想だ」
そう言う煉獄龍の宿る俺の言葉には、こちらが上位であるという絶対的自信と全てを見下す傲慢さが垣間見える。
煉獄龍は笑いながら、無慈悲に刀を振り下ろす。
「この世には、どうにもならないこともあるのだよ、小僧」
奴の刃ごと、白虎を盛大に斬り落とす。
「あはああああああ!!」
もう白虎は限界だ、立っていることさえ不思議なくらい。
「私は…」
先ほどの俺のように、奴はバタン!と地に伏せる。
「人間に封じられた力では、この程度しか出ないのか、まぁいい」
煉獄龍の宿る俺の目はもう興味を失ったように白虎を見下している。
(私はここで終わるのか…異界人を追い出し、人間の為の地球を作ることはできないのか…)
白虎の顔には悔しさが滲むが、この男は終わらない。
(白虎、頼むこれが最後だ、あの怪物を倒す力を俺に貸してくれ、島の皆、私に力を分けてくれ)
倒れる奴の体から、少しずつ雷と風が溢れる。
(いいだろう、俺もいつかは煉獄龍と戦いたいと昔から思っていた、小僧、いや琥珀。力は貸すんじゃない、力を”合わせよう”)
「がぁあああああ」
その時、なんと白虎が立ち上がる!
「ふん、おもしろい」
しかし、残された時間は短い。
気合だけで立ち上がっているだけ、産まれたての小鹿のように全身は震えている。
「ありがとう、”白虎”、そして、”みんな”…」
肉体はもう限界、正直意識を繋いでるだけ奇跡だ、そこから立ち上がるなんてありえない。
「子猫風情にしては中々な気合だ」
俺の煉獄龍はそれをみて嘲笑う、それは嘲笑ではなく、どこか無感情にも似た感情だ。
「煉獄龍、これが正真正銘最後だ…くるがいい」
白虎の力を無理矢理開放して限界を超えているだけの奴なんて、ほっとけば死ぬ。
「よかろう、最後の命の炎を燃やし、敗北という屈辱の業火に焼かれるといい」
だが、この煉獄龍はそれはしない。立ち向かってくる挑戦は全て受ける。
もう、ここまで来たらただの意地のぶつかり合いだ、煉獄龍が操る俺の体はすで強烈な踏み込みで奴の間合いに入り込む。
「私はたとえ、死んでも信念を貫く!!」
「その信念を胸に抱いて地獄に行け」
これぞまさに龍虎相打つ、互いに力を込めた刃と刃が重くぶつかり合う。
「まだまだだ!!」
白虎は死に物狂いでマチェットナイフをぶん回す、ここにきてスピードも戻っている!
「ここまでの速度、異界でも稀だ!」
煉獄龍が以外な反応を見せるほどに、でも全て無駄なんだ。
俺の煉獄龍が出てきてしまえば、例え魔王でも勝ち目なんかない。
「もうあきたぞ、野良猫よ」
この世の理をすべて無視する、豪快な煉獄龍の斬撃が、白虎をモロに捉えてしまう。
「あ…が…」
封印の力を少し解放したその場しのぎも、もう限界。
(すまない…みんな…)
気づけば、白虎は地面に大の字に倒れる、もう目に光もない。
これは、もう戦闘不能だ…
やつの白い戦闘服はもう赤く、そして原型のないほどにめちゃくちゃになっていた、この戦闘の壮絶さを物語るには十分か。
「島の悲しさ…悔しさを無駄にして…私は…」
意識を手放す寸前の奴は、何やらうわごとを言い始めた。
こいつは悲しい過去を背負ってる。
人間が目先の利益やエゴに走った共存の道の犠牲者の一人。
(ふん、興ざめだ…煉城、これで十分だろ?)
そして、面倒な煉獄龍から体の支配権を俺は取り戻す。
正直、今回は周りに誰もいなかったのは幸運だ、しかも相手も煉獄龍とやり合える猛者でよかった。
俺が意識を奴に奪われたのが街中で、かつ機嫌の悪い時だったら…
「やっと、俺が話せるようになったからお前に言いたいこと言っておく」
俺は煉獄刀を赤い魔法陣の鞘に納めながら白虎に問いを投げる。
「お前の考えは共感してる部分もある、たしかに異界人も人間もお互いを利用しようとする汚い奴らばっかだよ」
俺は奴の目をみて思いを伝える。
「でも、それでも俺はこの瀬礼市の金花探偵事務所のメンバーなんだよ、異界人とか人間とか関係ない、この街を愛してる依頼者は俺達が守る。俺達の行動理由はそれだけだ」
白虎は目のみで俺を捉えているが、言いたいことはまだあるようだ。
「ごふぁ…それでも…私は”フィールド”の戦闘者だ…信念は変わらない」
そう…俺も昔は罪のない異界人を正義だと思い、大量に手にかけていた。
「お前らがどんな理想を掲げようと関係ない、同じく人間も異界人も関係ない、瀬礼市で事件を起こせば俺達が阻止するだけだ」
俺は白虎を無視して少し離れた木の元の風香へと歩く。
もう気づけば日も落ちかけだ、花火が始めるな…
「まって…煉液…俺を…生かすのか…」
そう問われたとき、俺の心はざらざらとしたいやな感触が襲う、嫌なとこを突かれたな。
俺は振り向かず、風香を抱きかかえながら答える。
「探偵事務所の方針で殺しはダメなんだよ、極力警察に連れてくのが俺達のルールなんだよ…」
お姫様抱っこされる気を失った探偵の顔を見ながら、再び歩き出す。
「昔からの関係だ、殺そうとしてたわけじゃないし生かしてやる、また俺達を狙ったら俺が用心棒としてまた撃退するだけだ」
白虎は俺の背中を見ながら、唖然としていた。
だが、白虎の顔にはマイナスな物は何一つない。
「これが、戦闘者ではなく、用心棒として生まれ変わった煉液か…」
まぁこいつがどうなろうと知ったこっちゃねーけどな。
こうして、白武財閥から送られた暗殺者を撃退した金花探偵事務所。
そしてこれから、瀬礼文学園全てを巻き込む大戦争が勃発してしまう。




