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【探偵#15】狙われた探偵

私の名前は星都風香。


「金花印のリンゴ飴はいりますかー美味しいですよー」


夏の瀬礼神社祭りの屋台、紫陽花の浴衣に身を包みながら声を張り上げる探偵だ。


「風香ちゃん、なんやかんや乗り気だね!いいね!」


私の後ろでリンゴ飴を棚に並べているのは我が探偵事務所の所長、金花メリー。


私と同じく浴衣姿で向日葵の黄色い浴衣。


あどけなさと可愛さを両立させた思春期の美しさが現れている。


「メリー、海川さんがいま外れてるからって調子に乗らないで」


冷やかされたような気がしたのでちょっときつめの言い返した。


ちなみに海川さんは、このアップというお菓子屋さんの従業員、若者にも人気のあるスイーツ店、お祭りで屋台を出すタイミングで海川さん以外食中毒になってしまったらしい…


「大丈夫、うみっちに一番信頼されてるのは私だから!!」


このメリーの根拠のない自信はさておいて、人手不足だったこのお店を助けるために金花探偵事務所が協力している。


「一応、海川さんは大学生で年上なんだから、失礼のないようにしてね」


メリーとじゃれていた時、少し慌てた様子で海川さんが戻ってきた、海川さんの長い髪が揺れ、女性特有の甘い香りが私の鼻を通り抜ける。


「星都さん!金花さん!飲み物買ってきました!」


両手に握られているのは夏の青さに染められたラムネのソーダ。


「海川さん、大丈夫ですよ、問題は何も起きてません」


「うみっち!飲み物ありがとう!一緒に飲もう!」


海川さんはこの唯一の従業員、しかも店長とその他の店員は全滅、私達に手伝ってもらってるからこそ、このイベントに対しての責任感は強い。


「いえいえ、美人二人がいてくれるおかげでお店は絶好調ですよ」


海川さんは嬉しそうに微笑んでいる、まぁ実際に売り上げは伸びている、私の顔がいいのかな。


そんな話をしながら海川さんも戻り、三人で屋台を回していた時だった、


「リンゴ飴、一つください」


この祭りが始まって何回も聞いたセリフ、だがどこか声に聞き覚えがあった。


「はい、金花印のリンゴを使用していてとてもおいしぃ…って」


私の前に現れたのは…


「星都さん…こんにちわ」


控え目に挨拶をしてきたのは、同じクラスの文学少女の桜田梨乃。


白いノースリーブワンピースが彼女の儚さをより際立てている。


「桜田さん、来てたのね」


私の声を聞いて気付いたメリーも元気よく屋台の影から現れる。


「え!梨乃ちゃん!!」


クラスメイト、いつも会っているはずなのにどうして祭り出会うと不思議とテンションが上がるのだろうか。


「二人がここにいるって聞いて来てみたんだ」


私達が祭りにいることは話していない、その言葉に引っかかったが疑問はすぐに晴れる。


「さっきたくさんの段ボールを運ぶ煉城くんと出会って話したんだ、そしたら二人がここにいるって聞いて」


練斗は絶賛肉体労働中、屋台で出たゴミや仕入れた荷物をひたすら運ぶという地味だが重要な任務、ゴーレムが現在メンテナンスで留守の間は用心棒は貴重な労働力だ。


「そうなの!いっぱい買っていって!」


金花印のリンゴ飴、金花財閥が栽培いているリンゴはブランド物、これをほとんどタダで仕入れたのは金花財閥の娘の力、これを狙ってうちに連絡したんじゃないかと一瞬疑ってしまったよ。


「わかった、一緒にきてる友達の分も買っていくね」


夏、どうしてただクラスメイトと話しているだけでこんなにも楽しいのか、こんな瞬間をまとめて人は青春と呼ぶのか。


そんなこんなで夏の屋台を楽しんでいたところだった。


「てか、風香ちゃん、そろそろ休憩したら?うみっちも戻ったし私はまだ大丈夫だから!」


現在は夕方の16時、昼休憩からもだいぶ時間が空いてるし、なによりこれから夜にかけて花火がお目当てのお客さんも増える、今のうちに休んでおいたほうがいいだろう。


「ありがとう、海川さん、少し休憩してきます」


「そうだね、今のうちに休憩したほうがいいよ、控えのプレハブまではちょっと遠いけど休んできてね」


海川さんはいつも笑顔で話してくれる、私達の控室のプレハブは森の中にある会場から少し離れた空き地。


「すいません、では休憩に行ってきます。メリー、しっかり働いてね」


「私はいつだって真面目だから!!」


私が目を離せばすぐに調子に乗ってしまうので釘を刺しておいた、所長の責任感はいったいどこに置いてきてしまったのか。


だけど、こんな楽しい瞬間は長く続かない、私の人生はいつも、誰に邪魔されてしまうんだ。


__________



その時、とある人物が私達を監視していた。


祭り会場の外れの中に業者にある関係者のプレハブ小屋。そこに紛れているのは電子モニターが設置されている人気のない謎のプレハブ。


「私はこの信念を貫くため、今日涙する人間を減らすために、やり遂げなければならない」


そこにいたのは、白武財閥に使える戦闘者、白虎。


奴は会場に潜入し、モニターを凝視していた。


「信也様からの依頼、騒ぎにはしない、静かに終わらせる」


白虎は騒ぎを起こさずに静かに作戦を実行しようとしていた、そして最近、動きが活発じゃなかったこともあり、私達の警戒は緩んでいた。


「白虎様、報告です、煉液が離れ、これから探偵が動きます」


白虎の携帯から報告の通信が入る、この依頼は狙われていた。


「わかった、続けて所長を監視しろ、探偵は私がやる」


「了解しました、何かあれば連絡してください」


連絡が終わり、白虎が静かに立ち上がる、握られた拳にはどれくらいの思いが込められているのだろうか。


「才ある少女よ、我が信念の為だ、犠牲になれ…もう異界で涙する人々を私は見てられないのだ」


決意を固めた男が動き出す。その信念は一体どんな思いから来るのだろうか。


_________



「もう夕方か…涼しくなってきたな」


私は屋台を離れて森を抜けたプレハブ小屋を目指していた、森の獣道を浴衣で通るのはなかなかに酷だ。


この道は海川さんに教えてもらったプレハブ小屋までの最短ルート、道も舗装されていないし、人気もない。だけど馬鹿正直に舗装された道を歩けば着くまでに片道10分はかかる。


そんなことよりもメリー、私がいなくてもちゃんと真面目にしているだろうか、心配だ。


そういえば、練斗も疲れているだろうから休憩させよう、そんなことを思いながらスマホを取り出す。


練斗、今どこ?私今休憩するから練斗もそろそろ休憩しよ。


こんな文を送信したら、すぐ既読が付き返信がきた。


風香、ちょうど屋台に荷物置いてまたゴミ捨てに行ってたとこ、いまそっちむかうー


体力バカの練斗といえ今日の早朝から働いてるので疲れているのだろう…ねぎらいのジュースを買おうかな、なんて考えていた時だった。


「止まれ、星都風香」


私の後ろで圧力のある声が響く、猛獣のような気配。


「誰…?っと思ったら白武の飼育している子猫が何か用?」


振り返り、声をかけた人物と向かい合う…若干軽口を飛ばしたことを後悔しながら。


そこにいた獣のような殺気を纏う人物。


「星都風香、貴様の事は良く知っている、ここまで傑出した才の持ち主は今後現れないだろう」


かつて練斗と同じ対異界組織にいた戦闘者、白虎。


「敵対してる人物に話すことなの?私は今忙しいんだけど」


私の優秀な頭脳は、いやこの状況に置かれたら馬鹿でも何が狙いかわかるだろう、はっきり言って油断していた。


「そうだな、だが貴様をしばらく再起不能にしなければならないのだ、許せ」


私を見る目は、容赦なんて甘い考えなどない、白虎の爪のように鋭い目つきだった。


「女の子を森の奥で狙うの?そんな卑怯な人間に金花探偵事務所は負けないけど」


どこかで監視されていた、しかも私が一人になるタイミングを狙って、ゴーレムがいなかったことが悔やまれる。


だけど、神はまだ私を見捨てていない。


練斗がこっちに来るまで多分あと2分、時間を稼ぐ、だけど相手は超が付く戦闘者。


「許せ、たとえ女を陰で狙ったとしても私には成すべきことがあるのだ」


白虎の放つ圧がさらに増す、自分が潰れてしまったと錯覚するほどに。


「白武財閥、私達は認めない、そんな成すべきことなんて…きっと碌な事じゃない」


雷と風の力をもつ強力な異界人、白虎を体に宿す、練斗と同じタイプの改造人間。


きっと私じゃ抵抗もできずに食い殺されてしまうだろう。


練斗から聞いた情報と自身の知識がこの後の最悪な答えをはじき出す。


「優秀な司令塔も、一人では何もできないのだよ」


私が思考を巡らせてる間に、白虎は地面を吹き飛ばすほどの踏み込みでもう眼前。


だけど、この天才を簡単に仕留めれると思わないで。


私は奴が踏み込む直前、とある一点を注視していた。そこは白虎のナイフ。


「狙いは…わかってる」


もはや人間の私では反応できない、でも、あえて私は前に出る!


「なに…!」


白虎は予想外で少し反応が遅れる、だけど、この程度でもたつくほど甘くない。


「そっちから来るとは、ありがたい、仕事が減る」


白虎のナイフが横に走る!だけど…奴のナイフは裏返ってる。


「くぅ…」


まぁこれだけしても、意味はほとんどない、一瞬で視界が暗くなり、近くの木まで吹き飛ばされる。


痛い、ここまで痛いのは人生で初めてなレベルだ、自然と目が熱を宿す。


「貴様、やはり厄介、私が殺さないことを見抜いたな」


まぁ再起不能にするって言ってたからね…


「…痛い…でも一瞬驚いた…でしょ」


首元の強烈な痛みが私の意識を奪おうとする中、口が何とか時間を稼ぐようにと動く。


「命までは取らないとはいえ、敵に突っ込み予想外をつくる度胸、優秀だ」


だが…と奴は急に語りだす。


「私には信念がある、人間は殺さない、たとえ時間稼ぎで策を弄されたとしても」


信念、なるほど、私は白武とはいえ私を殺すほうが、デメリットが多いと考えていたので想定外。


「嘘でしょ…金花探偵事務所と金花財閥を敵に回せないだけ、あと私が死ねば大事件になってもみ消すのも大変だから…」


私は木を手でつかみながら、気合で立ち上がる、まるでどこかの用心棒のように。


「峰打ちとは言え、意識を飛ばさないのは称賛に値する、だが…」


もう、私は抵抗する力もない…奴のナイフは振り下ろされていた。


「星都風香、生涯忘れぬ人間だった」


痛みや熱を感じるなんて無い、首元に衝撃が走った私は糸の切れた人形のように倒れる。


時間はできるだけ稼いだ…力のない人間にしてみれば、頑張ったほうかな…


「大義の為の犠牲となれ、数年の入院生活は支援しよう」


倒れる私に向け、奴の刃が落ちる…その瞬間。


空が、紅蓮に染まる。


空気が、強烈に熱を帯びる。


「てめぇ、何してんだよ」


聞きなれた声が私の耳に入った時、薄暗くなる視界が、声の主を捉える。


神は…私に味方したのね…


「やはり…来たか、練液!」


現れたのは、金花探偵事務所が誇る、最強の用心棒、煉城練斗。


「よくもうちの探偵を狙ってくれたな、もう今日で死ぬことは確定したぞこの野郎」


練斗の纏う煉獄が、強烈な怒りに答えるように燃え盛る。


「お喋りが過ぎたか…いや」


やつは白い、どこか中華風の戦闘服を手でおもむろに掴む。


「煉液、お前を倒さねば、星都風香や瀬礼市を狙えない」


練斗を見る白虎の目は、戦闘前の猛獣のよう…


「風香、速攻でこいつぶちのめしてやるから一緒にメリーと花火見るぞ」


こうして、白虎と練斗が向かい合う。


でも…この戦いは金花探偵事務所史上最も苛烈で、そして予想もできない最後を迎えてしまう…

次回…頂上決戦、白虎 対 練斗、壮絶…

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