【探偵#14】瀬礼神社祭りと白虎の決意
私の名前は星都風香。
「風香ちゃん、依頼ってことにして遊園地いかない?練斗は置いてデートしよ!」
「それよりも探偵の給料を上げて」
「おい、何勝手に俺の事置いていこうとしてんだよ!」
この愉快な仲間と一緒に金花探偵事務所を営む探偵だ。
今日は休日で依頼もなければ学校もないがメリーが集まってというので事務所に集まった。
まぁ集まってからだらだらと三人でソファーに座って寛いでいるだけだけど。
「なんで!そもそもこの事務所はうちがお金出してるし所長は私!!」
このアホの娘は金花メリー、黄色いパーカーにショートパンツとかわいらしい今どきのJK、一応異界の名家出身、異界人の覚一族の跡取り娘だ。
まぁそうは見えないけど…
「どうでもいいことに金を使わずに用心棒の給料を上げてくれ」
そう嘆くのは、我が事務所の戦闘力に直結している用心棒、煉城練斗。
左右に生えた赤い角、赤メッシュに混ざる青い髪、どちらも体に宿す異界人の影響を受けている。
「風香も何とか言ってくれ!!」
腕をぶんぶん振り回し抗議してている姿はとても滑稽だ、そのたびに赤いジャケットが靡く。
「メリー、そんなことより本題をを話して、わざわざ何もない日に呼んだのは何かあるんでしょ?」
私が本題へと切り込んでいく。
出会いの季節、春が終わり、青春の夏が来た、春はいろいろと事件が起きたせいで時の流れがとても速く感じた。
枕返し事件、美術部と忍びの一族、さらにはストーカー事件だと思ったら私達を狙う財閥が現れたりと厄介な事ばかり。
白武が私達の接触してから一ヶ月、警戒は強めているが動きはなく、依頼者である三珠さんと篠原くんは部活で活躍中だ。
「わかったよ、それじゃ本題へと行こうか」
メリーがおもむろにソファーから立ち上がる。
取り出したのは一枚の紙、いやチラシ…?
「今度行われる瀬礼市の一大イベントの瀬礼神社祭りに参加します!」
瀬礼神社祭り…!?
この地域で一番力を入れているイベントの一つ、瀬礼神社の広い敷地で屋台などが出るいわばよくある夏祭り、確か花火もあったような?
「金花探偵事務所が活動できているのも、この瀬礼市あってこそ、地域貢献のために参加します!!」
「神社の夏祭り、テンション上がるな」
メリーの発表により練斗はもう文字通りお祭り気分だ。
「それで、具体的な内容は?ていうかこのお手伝いはメリーのほうからお願いしたの?」
私達、金花探偵事務所が活動できるのもこの瀬礼あってこそ。そこは同意見、だが私たちは探偵、物によっては全く戦力にならない気がする…
私の質問を待ってきたかのような笑顔を見せるメリー、なんだろう、今までで一番不安だ。
「なんと!今回は礼神社祭りの運営というか、この地域の会長さんから連絡が来ました!屋台の人数が足りなくてぜひ、金花探偵事務所の皆さんどうですかと!」
「それで肝心の屋台は?」
練斗もソファーから立ち上がり、メリーに期待の眼差しを向けている。
「SNSでも人気のリンゴ飴屋さん、“アップ”の屋台なんだけど、店長さんと従業員さんは一人を除いて食中毒になったんだってさ、しかもその店員さんはまだ新米らしくて…」
今回の事情、話を聞いておおよそ理解できた、というか集団食中毒のほうが事件性あるのでは?
いつになったら探偵が推理する事件がやってくるのだろうか。
私が考え後をしていた時、もうすでに練斗とメリーは二人で飛ぶ跳ねながら楽しく祭りの事を考えていた。
「花火もいいが、男は黙って焼きそばとたこ焼きだろ!」
「リンゴ飴のリンゴは金花財閥が長い年月をかけて栽培したリンゴを提供しよう!おじいちゃんに話しておくね!」
この二人は相変わらずお調子者だ、まぁこの雰囲気が好きだから金花探偵事務所が好きなのかなぁ。
でも、もうすでに奴らは動いていたんだ。
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「白武様、お呼びでしょうか?」
俺の名前は、いや、コードネームは白虎。白武財閥に使える戦闘者だ。
この瀬礼市の中にある高級住宅街の豪邸、その中でも力ずよく黒が鈍く光る大理石の部屋に私は呼び出されていた。
「お、来てくれたね白虎、今日は特別な話が合って君を呼んだんだ」
そう話すのは日本の人間の世界ではトップクラスの財閥、白武財閥の御曹司、白武信也。
「君にお願いしたいことがあってさ、君には叶えたい夢があるんだよね?じゃあ頑張ってくれるよね?」
まるで王様のような椅子に腰かける白武信也は私を呼び出して早々、読めない態度と質問、会話のキャッチンボールは成立していない。
「はい、どんな依頼であろうと、私があなたの願いを断ることはありません」
いつも通りふざけた態度、だが慣れている、いつもの事だ。
「いいね、君みたいな一人いるととても頼もしいよ、君の理念と私の理念は一致してるからさ」
そう…私には信念がある、前の崩壊した組織では成しえなかった悲願。
それはこの地球と異界を繋ぐ7つの《ゲート》を全て封鎖すること。
「はい、白武様、こんな私を拾っていただいた感謝はまだ忘れていません」
私は膝をつきながら頭を下げる、ここまで活動できたのも同じ信念を持ち人間世界でも力があるこの人たちのお陰なのだ。
「そう、白武財閥やほかの皆も言ってるよ、ここは地球で生まれ育った生命が住むべき星だってね」
この地球と異界が《ゲート》と呼ばれる光の扉でつながり半世紀、その瞬間から世界は変わってしまった。
まるでファンタジーの世界からやってきたような生命が、半世紀という長い時間をかけても人間を混乱させている。
「白武様、私の信念は変わりません、異界人の力による外交、侵略行為、それを解決するためには《ゲート》を閉じ、地球の生命の平和を実現して見せます」
私はたとえどんな困難があろうと必ず全てを乗り越えて達成して見せる…
あの”悲劇”を二度を越させないように…
「そうだね、いまの政治家たちは異界の魔法技術や資源、亜人や鬼人族の安い労働力に目がくらみ、そして…」
白武信也が椅子から立ち上がり大理石を踏みしめる。
「みな、潜在的に《魔王》を恐れている…地球に攻めてこない幸運に感謝だ」
魔王、それは異界を支配する最強の勢力、異界でも恐れられている存在。
かつて人間が異界に攻め込んだ時、順調に見えた人間側を簡単に蹴散らしたのが魔王軍。
「地球に攻めてこないのは《ゲート》という小さな扉しかなく、前の防衛戦争とは全く違う、攻め込むのは不利と判断しているのでしょう」
これは地政学的に言えば海を挟んで攻め込む戦争が難しいのと同じ、いくら魔王とはいえ不利なのだろう。
「つまり…先に《ゲート》を閉じてしまえば潜在的に人間や地球を狙う外敵を消せるんだよね、君たちの組織が目指してた目標もそれだよね?」
白武信也が気づけば俺の前に立っていた、しかも小馬鹿にしたように首をかしげながら。
「ええ、対異界人組織の最終目標はそれでした、もう敵わぬ夢ですが」
とある裏切りによって崩壊した組織、組織が残っていたら、異界人によって涙する人々は減ったのだろうか。
「いまね、君の組織が計画していたそのプランに似たプランを進めようって動き始めていてね、お父様から直々にお話が合った」
それを聞いた私は意外にも驚きを隠せなかった、いずれこの組織にいればこうなることは分っていたはずなのに。
「それは本当ですか?ですが…反対は無かったのですか?」
私の問いに待っていたかのような笑みをこの男は私に向けてくる、それは何かに魅入ら吸い込まれそうな目だった。
「もちろん、タダではいかない。お父様からの条件はあったし、幹部会でも反対意見はあった、でも…それを全て覆す手札をお父様は、いや正確に言えばこの僕にあるんだ」
「それは…一体何でしょう?」
私が白武信也の顔を見た時には女におぼれているボンボンはどこにもいなかった。
「お父様からの条件は一つ、それは僕が瀬礼文学園の生徒会長になること」
生徒会長…その目標は重い。
「この日本の最高峰の学園、通うのは政治家や社長令嬢やプロ選手を目指す最高の教育機関、多くの政治家や財閥の跡取りが目指す最高の実績、この日本の方向が決まると言っていいほどのイベントなんだ」
瀬礼文学園の生徒会長の称号、それを子供に狙わせる政治家や財閥も多く存在する、だが、異界の貴族も生徒会長を目指す、そうなれば必然的に人間派と異界派の戦いだ。
瀬礼文学園の歴史上、異界派が勝った記録はない、常に勝利してきたのは人間。
だが近年は異界人勢力も強くなり始めていた、実際に数年前は圧倒していた選挙もいまは異界派と徐々に差が縮まってきていたのだ。
「僕が生徒会長になれば反対派も黙らざるを得ない、それぐらいの称号だし、必然的に白武財閥はこの社会での影響力を増していくしね」
瀬礼文学園に通う生徒や選挙戦に敗れたものはみな白武の下、世間はそう判断する。
「長くなったけど、君にお願いしたいのはね、僕の生徒会選挙の手伝いだよ」
白武信也の顔はいつものチャラけている顔になっていた、だが”お願いしたいこと”はこれではないことは直観的にわかる。
「瀬礼文学園で信也様に逆らう反対勢力の削除、つまり…」
私の拳は気づけば力ずよく握られていた。
「金花探偵事務所の壊滅、ですね」
白武信也の手は私の肩をつかむ、それは単なるじゃれ合いなのか、はたまた威圧なのか。
「とはいえ金花探偵事務所は優秀、真正面からはやり合うのは得策ではない、だから僕からのオーダーは星都風香の長期離脱、探偵に狙いを絞る」
星都風香、噂には聞いている、他を圧倒する頭脳の持ち主で数々の瀬礼市での未解決事件を解決したまさに名探偵。
白武信也は再び椅子に腰かける、そして私を真っ直ぐな目で笑う。
「この星の土地や資源はこの星に産まれた者の財産だ、異界からの侵略者を滅ぼし、人間の星を取り戻したい」
そう、普段はこの男の態度で忘れてしまうが、私がこの男についてきたのは譲れない信念の為。
「犠牲を払ってでも、たとえ偽物の正義でも、この星のために私は命を懸けてでも信念を突き通す」
信念、人間の為の、地球の生命だけの世界。それを叶えるために…




