【探偵#13】依頼は…解決?
私の名前は星都風香。
「みんな…無事でいて…」
愛車のバイクにまたがる金花探偵事務所の探偵。
後ろには黄色のパーカーがトレードマークの金花メリーも乗っている。
「はやぁぁぁいってばぁぁぁ!あとヘルメットからはみ出た髪が当たる!」
「もう少しだから黙って」
私はこのストレートの長髪、気に入ってるんだけどね。
日が沈み暗くなりつつある瀬礼市の街中。
私の腰にしがみ付きながら文句を垂れている奴ににかまっている時間はない。
金花探偵事務所はストーカー被害を訴えてきた瀬礼文学園のカップル、篠原優斗と三珠奈津、その依頼を受け調査を行っていた。
犯人は異界人のスライムの生徒、篠原君に好意を寄せ、逆恨みで三珠さんに嫌がらせをしていた。
私とメリーが犯人を見つけて一件落着、と思っていたのに練斗達の前に三珠さんを狙う謎の戦闘者が現れる。
ゴーレム加勢したというところまでは連絡がきたがそれ以降は連絡が途絶えた…
「風香ちゃん、スライムの女の子本当に大丈夫かな?やっぱりやりすぎたんじゃない?」
「死にはしない」
「ノリが軽い!」
三珠さんに嫌がらせしていたスライムの女生徒?には罰としてかなりの乾燥剤をかけてきた。
最後は話せなくなっていたがそんな奴に時間をかける場合じゃない、そのまま教室に置いてきた。
「この瀬礼神社を越えて右に曲がったところに通学路の路地があるって!」
「了解」
この街のシンボルの一つでもある神社を越えてある住宅街に入る、そこには暗い路地。
「風香ちゃん!ここが練斗達がいる路地…ってなにこれ!!」
「ずいぶん派手に戦ったのね」
私たちが路地に入れば、そこな凄惨な現場だった。
薄暗い路地の舗装は砕け、焦げ、そして溶けていた。
「メリーとりあえず奥に行きましょう、練斗達がいるはず」
「うん!」
路地に入りバイクから跳ねるように降りる。
「って痛!」
メリーが片足をバイクにひっかけて転ぶ、こんな時にも我らが所長の不遇っぷりは健在のようだ。
その時だった、目の前から見慣れた巨大な銀の鋼がこちらに近づいてくる。
「風香様、戦闘中の為返信をオフにシテイマシタ」
ゴーレムはいつもの報連相、元気で何より…いや、違う…
ボディには軽度ではあるが無数のダメージ、ゴーレムを上回る手数の戦闘者だと言うことが読み取れる。
鋼鉄で頑丈とはいえボロボロ…またメンテナンスが必要だ。
「よかった~ゴーレムも無事でって練斗達は?」
メリーの疑問に答えるようにゴーレムの後ろから人影が現れる。
「無事だ、まぁ相手は無事じゃないけどな」
「練斗!!よかった!心配したよ!」
メリーが元気よく練斗に駆け寄る、流石は金花探偵事務所の精鋭達、これくらいでは揺るがない。
「奈津、大丈夫?」
「優斗、大丈夫だよ」
そしてその後ろからは、ぐったりとした三珠さんを肩車しながら歩く篠原君、どちらも顔に疲労が浮かぶ。
「とりあえずみんな怪我無く無事ね、念のため安全な事務所に行くよ」
疲れてるとこ悪いけど、念のため現場は離れよう、と目線を落とした時だった。
私の目は痛々しい練斗の傷を捉えてしまう。
胸には深々と刻まれた赤い斬り傷、しかも角度的に真正面から。
あの練斗がここまで斬られるなんて…私は初めて見た。
制服また買わないとって事は一旦置いておこう。
瀬礼文のブレザーは高いのに…
練斗相手にここまでやるなんて、相手は相当の戦闘者だったようだ。
「みんな!とりあえず無事は確認!事務所に行こう!!」
メリーの元気な声、所長の指示で各々が動き出す。
今回の相手、一筋縄ではいかないようだ。
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「白武財閥、最初から狙いは私達ってことだったのね」
「瀬礼文学園の生徒を狙えば俺達が出てくる、だから二人を狙ったと言ってたぜ」
三珠さんと篠原君を隣の部屋で休ませながら、ソファーに座って私は練斗に事情を聞いていた。
私達はあの後、すぐにゴーレムと練斗の背中に乗って念のため事務所に戻った。
なんで怪我してる俺らが空飛ばなきゃ行けないんだと言う用心棒のは所長の笑顔で従順になる…これが天然の愛されっ子の力か。
あれからメリーは三珠さんに付き添っているし、ゴーレムは何やら体を磨いている、こんな時でも金花探偵事務所のメンバーは個性が出る。
「こんな傷、舐めたら半日で治る」
そして怪我を負った練斗は体に包帯を巻いていた、スライムの再生力はあるがやはり元人間。
どういう構造なのかは理解してないが、煉獄龍の力を使うとスライムの力が弱まりダメージを負ってしまうらしい。
「白武、ここまで舐められたのは久しぶりだよ」
白武はもう二人は狙わないと私に伝えろと話していたという、三珠さんの事はたとえ血がつながっていようとも私達と戦うための駒としか思っていないようだ。
「今まで私は気づかなかったけど、あっちは私の事ライバルと思ってたのね。競うのはテストだけでよかったわ」
忘れがちだが、私達三人が通うのはこの日本トップクラスのお金持ち学校。
広告で見るような企業に勤めたりまたはその社長の子供は大体いるし、異界の貴族やエルフ族の王族だっている学校。
将来のこの世界を背負っていく人材ばかりの学校、強烈な帝王学を学ぶ彼らにとって敗北は許されない。
さらに校則や先生の強制力はあってないようなもの、こんな風に生徒同士の派閥やそれによる抗争は良くある話だ。
しかも、その親も”このように”育っていくから子供に協力してしまう。
なんで金花探偵事務所が必要か?という問い。
異界と人間の世界が繋がった町というのもあるが、大人の力が正しく機能しない瀬礼文学園ではこのような一般の生徒を助ける人は少ないし、同じ一般の生徒が束になっても蹴散らされてしまうからだ。
「練斗、白武の目的はある意味純粋で単純、ただ私達を“倒したい”だけ。」
「ある意味清々しいな、俺達も瀬礼文学園で狙われるくらいの知名度になったことを喜ぶべきかもな」
正直理解できない、おそらくただ純粋に私達と倒したい、幼稚に見えて純粋な闘争心。
「まぁ練斗、私達のやるべきことは変わらないわ、分かってるでしょ?」
私の問いは私達の存在を確かめ合うような、そんな思いを込めて。
「あぁ、当たり前だ」
練斗はソファーから勢いよく立ち上がり、拳を握る。
「この瀬礼文学園を荒らすやつには破滅しかねーんだよ」
「そうね」
私も立ち上がり練斗と向き合う。
「白武、私にテスト以外なら勝てると思ったのが人生最大の過ちだと教えてあげる」
決意は固めたが、金花探偵事務所の方針は防衛。
状況によるがこっちから仕掛けることはない、常に学園とこの街の”悪”を弾き返すのが我が事務所の方針。
「そいや、三珠さんたちの依頼は解決としていいのか?スライム野郎はとっちめたんだろ?」
「そうね、白武の狙いはあくまで私達、この依頼は達成したといえばそうね」
白武が二人は狙わないとはいえ、使えるものは使ってくる。警戒は怠らない。
けど、私にはまだ気になることがある。それは練斗の過去。
ある程度は聞いているが、本人も話したがらないし詳しくは知らない。
ただ、今回戦闘したのはかつての仲間で練斗と同じ封印者、しかも話によると何やら強烈な野望があるとか。
あれこれと考えていた時だった、勢いよく隣の部屋のドアが開く!
「風香ちゃーん!!そういえば!言い忘れてたことがある!」
「勢いよく登場しすぎだろ、この箱入り娘!」
練斗にツッコミを任せ、私は考え事していた頭を戻す。
「なに?もう事務所のお金で買い物はしないよ」
「そうじゃなくて!依頼の話!」
メリーが両手をばたつかせてどこからか紙を取り出した。
そのチラシには、でかでかと”瀬礼神社祭り”と書かれていた。
「瀬礼神社祭り?一ヶ月後の?」
「そう!ちょっと前に町内会の会長さんが挨拶にきて!頼みごとがあるって!」
私達には一息つく時間もないのか、でも依頼がくるのはこの瀬礼市で信頼されてきた証でもある。
「いいね、瀬礼市の目玉イベント、楽しくなってきた!」
「そうでしょ!やっぱり練斗はノリが良いね!」
そして、私達の盛り上がりをみてか、隣の部屋で休んでいた三珠さんと篠原君もこっちの部屋にやってきた。
「金花探偵事務所の皆さん、いろいろ巻き込んでしまってごめんなさい!全部私のせいです!」
「奈津…」
篠原君も心配そうに体を支えている、でも、原因は血の繋がりは関係ない。
どちらかといえば私達が巻き込んでしまったのだ。
「白武はもう二人を狙わないとはいえ、しばらくは警戒を強めるし、事情はメリーから聞いてるとおり、犯人は懲らしめておいたから安心して」
「本当に、本当にありがとうございます…」
正直、謝られると心に来る。何度だって思うが巻き込んだのはこちらなのだから。
「二人とも!これからは安心して部活に専念して!私達がいる!」
「働いてるのは用心棒と探偵だけだけどな」
「あーもう!練斗は静かに!」
こうして、とりあえず今回の事件は一段落した。
でもここから白武信也の信念の波が私達を飲み込もうとする。




