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12/21

【探偵#12】手に入れたいのは純粋な勝利

私の名前は三珠奈津、運動が得意で瀬礼文学園に通う女子高生。


今、私を守るため、学園でも有名な金花探偵事務所が戦っている。


やっぱり…私が…


目の前で広がる壮絶な戦闘を前に私がした選択の後悔が胸を引っ張る錘のようになる。


私は持たざる人間だった。


勉強、親、お金、幼少の貴重な経験、鏡を見て私の顔を見ればいつも思う。


私は持たざる側の人間だと。


私の家は貧しかった。


「ごめんね、なつ、もう少ししたら美味しいもの食べれるから」


母、優香の口癖はいつもこれ。


でもよかった、母の料理はどんな料理よりもおいしかったから。


ホテル顔負けの料理のスキル、何度も言った、パートをやめて料理関係で働けば?と。


そのたびに母はニコっと笑い、否定も肯定もしなかった、いや、してくれなかった。


生まれながらに片親、父親の姿は見たかとがないけど、わざわざ聞くこともなかったし母も遠くにいるとしか言わなかった。


忘れもしない高校一年生の春。


新学期だからと気合を入れて住んでいる古いアパートの物置を片付けていた時。


古い日記のようなものを見つけた。


その日記は母がどのような人生を歩んできたかを知るには十分すぎる内容。


母は財閥の豪邸で働く使用人だった。


だから料理が“異常”に上手なのか…


生まれながらに協会に捨てられ、その財閥の教育機関に拾われたそうだ。


日記を読むたびに私の心はどこか重くなった。


親は結婚してない、いやしたことがない。


そして身分の合わない男に恋し、燃えるような恋の末、その男の子供をお腹に宿しながら使用人を逃げるようにやめたこと。


日記を読んでしまったその日からだった。


私は母との距離感がわからなくなった、思春期ってこともある、私は母が大好きなのに。


なのに、今まで通り話せなくなってしまった。


そんな時、バレーではレギュラーの座を勝ち取る。


「三珠さん、次の試合から出てもらう、準備しておけ」


監督からの言葉は一生忘れないだろう、嬉しいなんてレベルじゃない、努力が身を結んだ瞬間はいつだって気持ちいい。


監督にも中心戦力として扱ってもらえるようになったころ。


2年生になり、彼氏である優斗に出会って友達も増えたし学園生活は楽しい。


私は生まれながらに持たざる人間、”だからこそ”人一倍努力することができた。


バレーで掴んだこの進路、名門校を卒業して母を助けたい、そんな思いがプレーに乗ったのかはわからないけど部活の成績も上がっていく。


私と優斗は家族も普通でスポーツしか取り柄のない一般人、学園では差別の対象だった。


「貧乏人」「一般人」「スポーツだけ」


死ぬほど言われたし傷つく日のほうが多かった…でも同じ境遇の優斗とこんな私でも友達になってくれた人達がいて私は幸せだった。


でもそんなある日だった。


「三珠さん、少しいいかな?」


放課後、部活に励み休憩していた時に急に声をかけられた。


「本当に…私ですか?」


とっさに聞き返してしまった、だって声をかけてきた人物は私とは生まれから違う財閥の跡取り、白武信也だったのだから。


立ち振る舞い、身につける衣服、その全てで私とは住んでる世界が違うと理解できた。


「はい、あなたととても大事な話がしたくて、少し空き教室で話しましょう」


まず最初の後悔はここで何も考えずについてってしまったことだ。


空き教室に移動し私と白武君は教壇の前で向かい合う、この時は少し勘違いをしていた。


白武という男は女たらしで好きな女がいたら彼氏がいようと関係なく強奪するのだと。


私は優斗がいるからそんな関係には……なんて今思うと”そっち”のほうが良かった。


「君の顔、知ってる様で知らない、いや…本当は知りたいけど…って感じ?」


いきなり話し始めた彼を見て困惑したのかはわからないが彼は話を続ける。


「要件は何?私も大会前で忙しくてさ」


拒絶とまではいかないが私は会話の歯車が嚙み合わないことに対して詰める。


「ごめんごめん、でも顔見たらわかっちゃったんだ、真実を知ってしまうとき、その人の過去を知った時に傷つくのはその本人だけじゃないってこと」


「だから、何言ってるの?もういい」


こんな茶番には付き合えない、私が彼に背を向けて扉に手をかけた時だった。


「君の母、三珠優香の過去だよ、君はもう知ってるはずだよね?」


体が落下するような感覚だった、私が振り返った時にもう女好きなボンボンはいなかった。


「君の母は白武財閥の当主であり、私の父と恋に落ち、そして体に子を宿した」


「え?」


彼の顔は正真正銘、持って生まれた側の人間だった。


「君の母と別れた後に父は結婚したが、私は今の母が父の前に付き合ってた時の男の子供、つまり…」


もう彼の話す日本語は私の頭には正しく聞こえなくなってしまった。


「真の白武の血を引くのは君なんだよ」


人は驚きすぎたり、頭のキャパを超える出来事があると思考が止まる。初めて知った。


______



「俺達を超えていくなんて無理なんだよ」


俺の名前は煉城練斗、路地裏をめちゃくちゃにしている金花探偵事務所の用心棒。


「煉液!!そこを退けろ!!」


殺意を込められた弾丸は俺に向けて放たれる、俺は顔を背けて回避。


「ここまで搔い潜られたのは初めてだ!」


鬼人族の鬼山、相変わらずハイテンションだが、敵はもう一人いる。


「私は貴様を食い破るまで止まらない」


すでに白虎は雷を纏った刃を振りかぶり俺の目の前、こいつは昔からのスピードスターだ。


「じゃは俺はお前止めてさっさと帰るわ」


いくら速くたって慣れてしまえば何の問題もない、もうすでに刀は受けの構え。


そして互いの刃が交錯、路地裏は雷と炎の衝撃で震えている。


「この俺を倒すなんて、たとえ悪魔だとしても不可能なんだよ」


奴の刃を強引に弾きながらの袈裟斬り、白虎の胸に赤一文字。


「はぁあああ!」


白虎は斬られながらも刃を俺に向かって振り下ろす、気合入ってやがるな。


「もう、いいだろ?お前はよくやったよ」


奴の刃が落ちるよりも速く蹴りを飛ばす、受けの態勢にない奴の腹に俺の足がめり込む。


「くぅぅ、ここまでとは…」


白虎が蹴りで吹き飛んだその裏から、引き金に指をかけた鬼山が飛び出す、狙いは護衛対象の篠原優斗。


「もう手段はえらばなぁあい!」


鬼山の撃鉄が落ちる、が俺一人だったらヤバかったかもな、すでにゴーレムが射線上に仁王立ち。


「シールド展開、対象を防衛しマス」


弾丸は甲高いを音を立てながらエネルギーの壁に弾かれる、俺たちがいて依頼人に危害が及ぶなんてありえないんだよ。


「最終警告だ、三珠さんのことをあきらめて、かつこの後全て話せば命まではとらない、それがうちの探偵の方針なんだよ」


ここぞとばかりに俺は二人に問いかける、てかなんでこいつらが三珠さんを狙ってる事情を俺達はまだ知らない。


「そんなこと、できるわけないだろ…がぁぁ」


血反吐を吐きながらも鬼山は俺にナイフを向ける、だがやつはもう戦えるどころか立ってるのも不思議なくらいだ。


「煉液、組織にいたのならわかるだろう私の野望が、たとえ組織が目的を達せずに消滅しても、私が…必ず叶えて見せる」


組織と目的、この二つの単語が俺の中にある忘れたいはずの記憶が頭を駆け巡る、ここにきて白虎もどうやらまだやる気のようだ。


そんな時だった、この戦場の空気を一気に変える人物が路地裏に現れる。


「二人とも、もういいよ、下がって」


爽やかでどこか優しさを含む声、今回の依頼でもっとも話を聞きたい人物が目の前に現れやがった。


「信也様…」


白虎の顔が険しい暗殺者の顔から驚きの顔に変わる。


「白武信也、お前が現れたってことは実質の答え合わせってことか」


「煉城君、噂通り規格外の戦闘力だ、金花探偵事務所の層は厚いなぁ…どうかな僕の仲間にならないか?」


「会話の歯車を合わす気があんのか?」


それにこいつ、いきなり現れて何の用だ?


「白虎、鬼山、もういい、三珠さんはもういいよ、帰ろうか」


白武が涼しい笑顔のまま話す、いやどこか呆れたような雰囲気感じ取れる。


「信也様!しかし!」


白虎がどこか慌てたように白武に向かい合う、白虎の焦り具合もよくわからない。


「白虎、いつから僕に意見するくらい偉くなったんだ?」


「く…しかし」


なんだ…白武信也の雰囲気は間違いなく爽やかな好青年、だがやはり将来が決まっている男、迫力がある…


これも白武財閥の帝王学の賜物か。


「三珠さんも篠原君も出てきなよ、もう何もしないからさ」


白虎の前に手をかざしながら奥の車の影に隠れる二人に話しかける…こいつの立ち振る舞いが読めない。


「てめぇ、こんなことしといて何言ってんだ!」


車の影から勢いよく飛び出してきたのは篠原優斗、まぁ彼女を狙われて怒らない奴なんて男じゃないよな。


「白武君…」


それに続くように三珠さんも陰から出る、様々な戦闘の影響で砕けた舗装を避けながら。


「ゴーレム、油断するなよ」


「シールド再展開、出力をアゲマス」


俺とゴーレムが奴らを警戒を上げる、油断なんて文字は俺にはない。


ゴーレムの展開した六角形のオレンジ色の壁に二人を覆う。


「こんなことって…別に普通だよ、一般人には理解できないかな?」


「ふざけんな、もうお前が黒幕ってことは分った、これを警察なりに…」


「優斗!」


篠原の言葉を遮ったのは三珠さん、予想外の事で篠原は驚いている。


「無理だよ…何をしても…」


「奈津…どうしたんだ?」


下に俯きながら三珠さんは何かを諦めた表情を篠原に向ける。


「白武財閥は人間の中でもトップクラスの力を持つ財閥…警察に行っても無駄…」


篠原は俺達に助けを求めるように話し出す。


「いや…奈津、こんなことまでされて無駄なんてことないよ、警察がだめならネットなり別の方法も…なぁ金花探偵事務所だって」


篠原…それができたらこの世界は、この街は平和なんだよ。


「いや、違う。それは一般人の感覚だ、警察もSNSも揉み消せるに決まってるし、その自信があってこそ俺達の前に堂々と現れてんだろ」


俺は篠原を宥めながら白武を睨む、でも”だからこそ”こんな現代に金花探偵事務所が必要なんだよ。


「煉城君、さすが混沌とした瀬礼市の探偵をしているだけはある」


「じゃぁ話せよ、そこの二人は白武お抱えの暗殺者なのはわかった、三珠さんをなんで狙った?」


余裕こいてる白武にイラついてきたが…だが、戦闘の意思がないなら情報を引っ張るのが賢い選択だな。


「そうだね、簡単に言えば彼女こそ真の白武財閥の血を引く人間、血のつながりのない僕なんかより白武を継ぐべき人間なんだよ」


おいおい…いきなりとんでもないこと言いやがった…もしこれが世に出れば大ニュースになっちまうぞ。


「じゃなんで奈津を攫うようなことすんだよ、危険に晒す意味が分かんねーよ!」


呆気に取られてる俺を横目に叫ぶ篠原の主張は当然だ、そもそもこんな危険な一手に出る意味はなんだ…?


「君の主張は彼氏として当然だ、でももともと乱暴するつもりは無かった。そこの用心棒が立ち去ってくれなくて」


「おい、どこの世界に護衛してる人間を連れてきますよって言ってる奴を見逃す用心棒がいんだよ」


この感じ…どっかで俺達の戦いを見てやがったな。


「別に白武財閥の跡取りは僕でもう決まってる、血の問題は親戚なんていくらでもいるし途絶えないよ、まぁ僕の次は揉めるかもだけど」


それに…と手を顔にかざす白武の顔はもう好青年の優しい顔ではなかった。


「金花探偵事務所の力を試してみたくてさ」


その顔は自分は択ばれた側だという傲慢さがのぞいている笑顔。


「瀬礼文学園の、特に力のない一般生徒を狙えば必ず金花探偵事務所が出てくると確信していたんだぁ、特に噂による印象操作や配下にさせたストーカー行為は堪えたかな?」


狂気的な笑顔を張り付けながら見下した胸糞の悪い視線が俺達に向けられる。


「なんだ?三珠さんはどうでもよくて俺達と戦って無様に負けたかったのかよ」


俺も奴の狂気をはじき返すほどの圧を放つ、俺達を舐めんなよ。


「本当はここに星都さんもいればよかった、偶然にも低俗な異界人の邪魔のせいで…まぁいいでしょう」


白武が俺たちに背を向ける、もうその姿と表情は爽やかな好青年になっていた。


「白虎、帰ろう、そこで気絶している三人と死にかけの鬼山を拾ってさ。」


「承知しました…信也様。鬼山、行くぞ」


「この借りは…必ず返すぞ、村にお前に首をいつか持ち帰る」


急に白武が振り返る、爽やかな笑顔は再びなくなっていた。


「もう三珠さんは狙わないよって星都さんに伝えてほしい、あと…次こそは負けないってことも」


(煉城練斗…お荷物を抱えながらゴーレムが来るまで2対1、しかもこの2人を相手にしてほとんどダメージを負わずに依頼人を守り切った、化け物だ。)


風香とこいつはテストで常に首位争いをしているライバル…金花探偵事務所を狙ったのはそういう事か…?


「てめぇらこそ、次ふざけた真似したら終わる、自明の理だ」


俺の言葉が奴らに届いたかどうかも怪しいくらいに、気づけば風のように消えていた。


「いったい何だったんだ…あいつら…」


「白虎の風の能力を確認、周囲100m以内からの離脱を確認しまシタ」


今回はゴーレムが来てくれなかったら少しヤバかったかもしれない。


「奈津!」


気づけば三珠さんは地面に落ちるように座り込んでいた、篠原が優しく駆け寄る。


「大丈夫だよ優斗、ちょっといろいろありすぎて…ごめん」


「奈津は悪くない、大丈夫だ」


正直、この学園を甘く見ていた。俺達のせいでこの二人は危険に晒されたようなもんだ。


こうして路地裏の乱闘は幕を閉じた、だがこの事件はこれでは終わってくなかったんだ。





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