表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/18

【探偵#1】ウワサの三人組?依頼と出会いと始まりの鐘

50年前、”それ”は突然空に現れた。

世界各地に同時発生した異界との扉、≪ゲート≫。

龍が舞い、妖精が囁き、神が歩くようになったこの世界は、やがて“日常”と“非日常”が共存する、新たな時代を迎えることとなる。


『金花探偵事務所』


所長は、財閥令嬢。

探偵は、天才的な頭脳。

用心棒は、剣を携えた戦闘兵器。


依頼は不可解な事件ばかり。

だがその裏には、必ず“異界”の闇が潜んでいる。


──扉は開いた。

ようこそ、金花探偵事務所へ。


「私のペットが、一週間前にいなくなったの。だから――探してほしいんです」


その言葉が、私の平凡な学園生活を変えるきっかけになるなんて。

あの時の私は、まだ知らなかった。



_______



あの日、私は一つの雑居ビルの前に立っていた。

錆びたネームプレートに、白いテプラで貼られた「金花探偵事務所」の文字。


ビルの2階。少しだけ迷ってから、私はインターホンを押した。


「はーいっ! お待たせしましたっ!」


元気な声とともに開いた扉の向こうから、金髪ショートボブの女の子がぴょこっと顔を出す。

上に、黄色のダボッとしたパーカー。そして、眩しいくらいの笑顔。


「私が所長の――金花メリーです!」


金花。

その名前に、思わず胸が高鳴る。

さとり”と呼ばれる異界の一族。その中でも、心を読む力を持つ名家・金花財閥の跡取り。

確かにそんな噂を、クラスの誰かが話していた。


『隣の2年4組の三人組が、探偵事務所をやってるらしいよ』


私は――黒崎麻衣。

隣のクラスの彼らの噂を聞き、藁にもすがる思いで、この事務所を訪ねてきた。



メリーに案内され、中へ入る。

ソファのある応接スペース。壁際には電子機器が並び、窓からは柔らかい光が差し込んでいた。

少し安心した、その瞬間――


「お客さんが来たと思ったら……隣のクラスのやつか」


赤と青のメッシュが入った髪。白いパーカーの上から羽織った赤のジャケット。

額から伸びる、左右対称の赤いツノ。

煉城練斗――隣のクラスの、有名人。

異界人か、そうでないかはわからないけど……とにかく、強そうな雰囲気をまとっている。


彼は黙ってお茶を差し出し、そのまま壁際に寄りかかった。


そしてもう一人。

応接室の奥から、長い青みがかった黒髪を揺らしながら、ひとりの少女が現れた。


「――依頼の内容は?」


凛とした声。整った顔立ちに、知性の光を宿した瞳。

上に羽織るスモーキーブルーのブルゾンが、彼女のクールな雰囲気をさらに際立たせている。


星都風香――入学以来、学年1位を維持し続けている天才。

誰とも関わろうとしない彼女が、なぜかこの二人とだけ行動を共にしている。

たぶん、この中で“探偵”なのは、彼女なんだろう。


私は、深く息を吸って――話し始めた。


「私のペット……文鳥の“リコ”が、一週間前からいなくなってしまったんです。

どこを探してもいなくて、でも……ただの迷子じゃない気がして」


三人の目が、一斉にこちらを見た。

ふざけた反応が返ってくると思っていた私は、その真剣な眼差しに、思わず言葉を止めた。


「それは――大事件だね!」


メリーが勢いよく立ち上がる。


「待って」


風香が静かに言った。

その目は、鋭く私を見据えている。


「ここまで来たってことは、何か“普通じゃないこと”があったんでしょ?」


私は、ほんの少しだけ迷ってから、打ち明けた。


「……見たんです。

黒い、何かが……リコを捕まえて、窓の外に飛んでいくのを。

でも、両親に話しても信じてもらえなくて……

“異界のせいだなんて、お前、何を言ってるんだ”って……」


その瞬間、風香の瞳がわずかに細められた。


「なるほど。……原因、わかった。行くよ、二人とも」


「俺は何もわかってないけど……」


「風香が言うなら間違いないよっ!」


メリーがぴょんと跳ねて、私に笑いかけた。


その笑顔が、とても頼もしく思い、

なぜだかあの日を思い出す。


_____



「麻衣、あなた疲れているのよ」

「夜更かしせずに、早く寝なさい」


そう言った母の目は、私の訴えを一切受け取っていなかった。


あの時、餌入れにエサを入れている

両親を冗談だと思った。からかうつもりだったのかもしれない。


――でも私は、本気だ。


だから、久々に本気で言い返した。

ひどい言葉を。今も、胸がちくりと痛む。



_______




春の風が吹いていた。

探偵事務所の鍵を閉めに戻ったメリーさんを置いて、風香さんと煉城くんは自然と先に歩き出していた。

私は、二人の背中を追って坂道を下っていく。


「で、風香ちゃん。なにがわかったの? あと少しくらい待ってくれてもいいじゃん!」


少し息を切らせて追いつくと、メリーさんは不満そうに頬をふくらませる。


「家に行けばすぐわかるよ。というか……メリーは、わからないの?」


「あんまり所長をいじめると、金花財閥の支援が途絶えるからやめろ」

「あと麻衣さんも、メリーに優しく接してくれ、すぐ拗ねるから」


面識のある煉城くんが、わざとらしい笑顔で冗談めかして言う。


笑いながら歩いていたら、いつの間にか桜が咲き始めた公園を抜けて、私の家の前に着いていた。


「リコがいなくなったのは、一階のリビングの窓から。今日は両親いないから、自由にしていいよ」


そう伝えると、三人は何も言わず靴を揃えて玄関に入ってきた。

こんな細かい気配りができる人たちだったなんて、ちょっと意外で、なんだか嬉しくなった。


「ねぇ、麻衣ちゃん困ってるって。風香ちゃん、そろそろ教えてよ〜。部屋見たらわかるの?」


「いや、居間は“見るだけ”。今日初めて入る部屋の微細な変化なんて、さすがの私でも無理。……というか、私は推理担当で、超天才だけど探知機じゃないからね」


「異界の痕跡は……今んとこねーな。てか女子の家、緊張する……」


煉城くんの口調と距離感、やたら女子を意識してる風なセリフに、二人の美少女とこんなに仲良いのに?と思わずツッコミそうになる。

が、それよりも――


「この窓から、確かに“リコを連れて行った何か”は外に出たの。……一週間前の夜に」


窓辺に立つ風香さんの横顔を、私は思わず見とれてしまった。

揺れる髪、凛としたまなざし。

同じ女の子なのに、かっこよすぎる。


そして――


「……さっぱりわかんない」


「えっ!?!?」


その言葉に、全員が一斉に風香さんの方を向く。


「お前、あれだけ“来ればわかる”って言ってたじゃねーか……」


「風香ちゃん……! 私、麻衣ちゃんのお部屋にも行ってみたい!!」


私の目の前で繰り広げられる混乱と謎テンションに、私はもうネットで低評価レビューを書きそうになった。


でもその時。


風香さんが、ちらりと私を見る。


「……まぁ、リコの居場所も、原因も、もう全部わかってるよ」


「え、え? さっき“わかんない”って……」


「さっきのはちょっとしたミスリード。テンション下がりかけてた麻衣さんを、回復させたかったの」


……この人、ほんとに探偵だ。


「じゃあ、練斗はここで待ってて。私とメリー、それと麻衣さんで部屋、見に行こ」


「俺? ……まあ、じゃあ麻衣さんに渡す菓子でも探しておくよ。謝罪込みで」


「謝罪前提とはいえ風香ちゃん、部屋は荒らしたらダメだよ?」


この混乱にツッコミたい思いを殺してながら、私は二人を連れて部屋へ向かう。



__________




「普通の部屋ね、」


ネットのフリー素材に使えそうな普通の部屋だと言う風香さんをみて低評価のレビューを本格的に考え始めたその瞬間、


「なにかがいるね。ここに、“いる”」


メリーさんの目が、部屋の片隅を見たまま動かない。


メリーさんは、いつになく真面目な顔で、指先に覚一族の能力、氣を集める。


「うん、見えてる……小さくて、枕くらいの背丈。半透明な生き物。枕の近くに――」


「……え? 何が見えてるの?」


思わず声が裏返る。


「ちょっと待って。風香さん、メリーさん……リコは、いないんだよね?」


二人は、目を見合わせた。


「風香ちゃんそろそろ可哀想だからネタばらししようよ。」


「あなたのペットの文鳥は今あなたの持ってるゲージの中ににいるよ」


「……え、もしかして、リコが“いる”の……?」


私は混乱した。

一階から手に持っているゲージの中は空っぽ。いない。いないのに――


風香が、ゆっくりと歩き出した。

そして、枕元へと手を伸ばす。


「麻衣。あなたの世界だけが幻想を見みてるの。

この部屋に棲みついた異界の妖怪、“枕返し”。

かつての日本の空想のお話では夜の寝姿勢を狂わせる小妖怪だけど、異界にいる方はどちらかと言うと――

“惑わせる”存在よ。」


風香の手が、私の枕に触れた。


そして――枕をひっくり返す。


カタン。


小さな音とともに、何かがほどけるような気配が部屋に広がった。


その瞬間


「ギャー!」


その言葉と共に耳を突き破るような爆音が、空間ごと世界を揺らした。


ドゥガァァァァン!!


黒い影が、音よりも早く飛び出していく。

世界が一瞬で変わる。


「私のリコを、返してよ!!」


叫んだ、まさにその瞬間。

ゲージの中に――


リコがいた。


「……うそ」


私は、息が詰まる音を立てた。


「いた……本当に、いた……ずっと……」


リコは、何事もなかったかのように止まり木にとまって、私を見ている。


「さっきから、見えてたよ?」


メリーがそっと言う。


「でも、“それ”が何かに隠されてるとしたら、麻衣ちゃんが気づかない限り、解けないと思って……」


「日本の本来の“枕返し”は、夜に人の枕元で感覚をずらしてくるの。でも異界にいるのは似てるだけで全く違う。

物の位置、音、匂い、そして――

“視界”そのものを惑わす。」


風香が言う。


「君は毎晩リコを見てた。でも、“いないこと”にされてた。

その違和感を脳が“記憶”として上書きした。

つまり、“いない”と思い続けたあなたの心が、枕返しの力を強化してしまったの」



私は、リコの名前を呼んだ。


「リコ……ごめん。私、ずっとすぐそばにいたのに、気づけなかった、ごめん」


両親にリコは見えていた、だから私がおかしかっただけなのだ。両親に申し訳ない気持ちが生まれる。


リコは、一声鳴いて、私の指にぴょこんと飛び乗った。

あたたかくて、柔らかくて、いつも通りの重みだった。


その瞬間だった。


枕返しが窓を開けて飛び出した。


「そうは問屋が… 卸さねぇーよ!」


青いスライムが紐のように枕返しを拘束する。

部屋の日差しを遮りながら、龍の翼を生やし空に浮かぶ煉城くん。


「異界警察に連れて行こう。元いた場所に戻れるだろ。」


「これにて、枕返しの事件、解決ですねー!」


メリーが笑う。


「ねぇ、風香ちゃん。私の部屋にいたらどうする?」


「メリーの部屋? いるとしたら……枕返しとメリーをまとめて異界に着払いで届けるわ」


「ひどくなーい!?」


私はリコを抱えて、静かに息を吐いた。


そして、探偵事務所のインターホンという運命の鐘を鳴らしたあの日、この三人と学園の巨悪との戦いは始まっていたのだ…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ