蒸し暑い密室
私はエレベーターが苦手だ。逃げ場がなく、落ちたりしてもどうしようもない。そしてなにより―。
夏の日だった。私は一人で近くの人工河川で魚をとっていた。人工河川には、地点地点に少し幅が広がった、水を分岐させる四角い場所がある。そこは魚がたまることで知られる場所であった。
その日は特別よくとれた。よくとれるので、時間を忘れて魚を追った。気づけば18時を回っており、あたりは少し、暗くなっていた。
早く帰ろう。そう思って顔をあげると、目の前の建物に目が行った。壁にはつるが伸び、照明もところどころしかついていない、私の友人の住むアパートだった。
普段は取った魚に夢中で一目散に帰っていたのだが、この日は多すぎたためすべて逃がしていたのだ。
「そうだ、急に行って驚かせてやろう」
そんな考えがふと浮かんだ。かごやあみをその場に置き、アパートへと走る。
建物に入ると、エレベーターホールがあった。来るのは初めてだったが、住んでいる部屋は知っていた。ボタンを押し、エレベーターを待つ。
上がってきたエレベーターのドアが開くと、異様に蒸し暑かった。まるで満員電車に乗っているような、押し込められた蒸し暑さだった。私がとっさに足を引っ込めると、他の階から呼び出しがあったのか、ドアは閉まり、また動き出した。私はなんだかどうでもよくなってしまい、おいていた道具をもって家に帰ったのだった。
次の日、学校で件の友人と会話する。
私「おまえんちのエレベーター、狭いうえに暑すぎ」
友「あー、そうだよな。家族が多かったりしたら全員ではのれないわ」
私「しばらく地下にあると湿気がこもってさらに暑くなるのかね」
友「え?」
私「湿気もすごいだろ。あのエレベーター」
友「うちのアパートに地下はないぞ。」
あの日、確かに「上ってきた」のだ。