2話ー突然のクビ宣告
ドアを叩く音がした。
室長は言う。
「入りたまえ」
上長のレイラと課長のミーシャは明らかに不機嫌だ。
上長のレイラは言う。
「キーラをクビにするなんて正気ですか?あいつは恋のために装束剥がしをやめているんですよ。きっと会えなくなったら再犯することでしょう。だからこそ、雇い続けるべきです」
ミーシャも甘ったるい声で「辞めるなら、私かなー。事務職転勤でもクビでも良いけどねー。きっと、キーラが居なくなったら、ヨハンは再び装束剥がしに手を染めると思うのよねー。手っ取り早く稼げるのはそれくらいしかないからねー」と答える。
それでも室長は「でも現状、装束剥がしは収まっている。これ以上、ここの部署に人員は割けない」と言い譲る気は一切無いのだろう。
レイラは「室長!!!私は彼女、キーラをクビにするのを認めてませんからね!!クビ宣告は室長が自ら言ってくださいね?」とだけ残して、ミーシャと一緒に室長室を出た。
キーラは突然、室長に帰りに室長室へと寄るようにと言われた。
私はびっくりして、思わず「クビですか!?」と言ってしまう。
室長は「詳細は後で話す」とだけ言い残して、何処かへ行ってしまった。
私はミーシャ先輩と一緒に遺体の回収をしていた。
遺体はいつもだったら、装束剥がしのヨハンが装束を剥がした痕跡があるものが多いかった。
しかし、今日も剥がされた様子は無かった。
ここ三日連続だった
しかし、今日も今日とてヨハンは現れる。
ヨハンは「君、名前はなんて言うんだい?」と訊いてきた。
私はそれを無視して、思いきって聞いてみた。
「なんで、今日は剥がさないんですか?」
ヨハンは「俺の質問には答えてくれないか…」と言い、何故か少し残念そうだった。
そして、ヨハンは「あの時、雑談には興味はねぇ。と言ったが、お前となら、なんか適当に雑談でもしていたい気分だわ」
私は適当に聞き流して、遺体の回収を続ける。
ヨハンは「ねぇ!?ちょっとォ!?俺の話は無視!?」と言う。
私は「第一、今日は剥いでないといえでも、印象は最悪だわ。あと言葉遣いが、がさつな男性はタイプじゃ無いのよ」と言う。
ヨハンは「悪いな…。俺もなりたくてこんな言葉遣いになったわけじゃ無いんだ…」と言う。
私は遺体を回収し終えて、トラックに発車の合図を送る。
そして、私はヨハンに言う。「今日は本当に盗らないのね…。なんか、調子が狂う…」
「別に盗ったて、盗らんくたって。俺の自由だろ」と言うと、ヨハンは何処かへ消えていた。
転移魔法でも使ったのだろう。
私は帰りに室長室へと寄った。
室長の隣には初めて会う上長のレイラが居た。
レイラは言う。「考えを改めるようには言ったのですが、室長は考えを変えませんでした。それでは室長の主張をお聞き下さい」
室長は「そんな言われ方すると、話しにくいじゃないか…」と言い、続けた…。
「最近、装束剥がしの被害が減っているので、キーラはクビです。ミーシャ一人で充分だろう。と上層部の判断です」
私は「そうですか…。今までありがとうございました」と言う。
レイラは「ミーシャも自分をより、キーラの方が適格だ。と言っていたのだけど…、本当に残念だ。ミーシャには実績があるだけに、転配すら認めて貰えなかったのだよ…。実際代わりにクビになっても良いと言ってくれて居たのだが…。キーラ。本当に済まない」と土下座をした。
私は「レイラさん、頭を上げて下さい。ミーシャさんとレイラさんの気持ちは分かりました。でも、私はもう覚悟は出来て居ます。覆らない事も知っています。ミーシャ先輩とレイラさんの健闘を祈ります」と言い、室長室を出た。
そして私は一人、帰路についた。
その後の仕事はすぐに見つかって、魔法学校で魔法の実技などを教えて食い扶持を繋いでいた。
私は家に帰ると新聞を読むのが日課だった。
新聞にこんな紙面が躍る。
その文字に私は驚いた。
「装束剥がしのヨハン再び装束を剥がす、装束管理局のミーシャが戦死」
私はいつの間にかボロボロと泣いていた。
次の日、授業を他の先生に任せた上で
新聞に載っていたミーシャの葬儀会場へと向かった。
しかし、葬儀会場には誰一人おらず、レイラさんが居た。
レイラは「遅かったじゃ無いキーラ…」と言う。
すると、棺桶の蓋が開く。
私は「ヒッッッッ」と言い、後ろに下がる。
中から、白い着物を着たミーシャが出てきた。
ミーシャは言う。「遅いわ!!!!」
レイラは言う。「ミーシャは生きているわ。こんな茶番に付き合わせてごめんなさい。でも、そうでもしないとキーラは来てくれないと思ったから…。だけどミーシャがヨハンに襲われたのも事実だし、ヨハンは再び装束剥がしをしているわ。また手伝ってくれないか?」
私は「あの室長は…」と言う。
レイラは親指を立てて「もちろんクビになって異動したし、他の上層部の面々もクビになったり減給になった。だから、もう一度頼む。この通りだ」と言う。
私は「学期末まで待って貰えませんか?今居る生徒に、一通り教えて、引き継ぎだけはしたいんです。なので、それまで待って頂けるなら…」と言う。
レイラは迷いながらも、「キーラは責任感が強いなぁ…。分かった。それまでは待とう。だから、ちゃんと終わったら連絡をよこすんだぞ」と言い電話番号のメモを渡す。
私は「はい!!!終わったら、また連絡をします」と言い、葬儀会場を後にした。
私はいつになく、熱をこめて授業をする。
何故なら、学期末でやめる事になってしまったからだ。
校長先生も私が辞表を提出した時はかなりびっくりしていた。
しかも、前職の現場職員に呼び戻されたと言ったら、椅子から転げ落ちるほどに驚いていた。
しかし、まだ生徒には内緒だった。
熱の入り方が変わった所為か、いつの間にか受講する生徒が増えて、私の授業は人気な授業の一つになってしまっていた。
私にとってはかなり不都合ではあったが、仕方なかった。
学期末に私が辞めると言うことが、発表されたとき。
多くの生徒が泣いていた。
私は最後の挨拶で「実は校長先生などからも、引き留められたのですが…。私は戻らなくてはなりません。とある人と約束をしてしまったのです。装束剥がしの野郎を倒したその暁には、ここに戻ってこれるかもしれないので、それまでは後任のエミリー先生に教えてもらってください」と言って壇上から降りた。
泣いていた生徒はより泣き、泣いていなかった生徒にも動揺が走る。
何故なら、装束剥がしを咎める最前線へと行くことを宣言したに等しかったからだ。
最前線から近く、流れ弾の危険もあり、装束剥がしのヨハンは悪い意味でかなり有名な異端の魔法使いだからだ。
もちろん、生きて帰れる保証など無いわけだから、生徒達は動揺し、あるものは死んで帰ると悲観して、泣き崩れるものもいた。
私は生徒を悲しませ、先生失格だ。
しかし、私に悔いは無かった。
事実、あの仕事は強い魔法もぶっ放せるので、楽しい仕事ではあった。
次の日、私は装束管理局へと出向くと、レイラとミーシャがいた。
私は「キーラです。あらためてよろしくお願い致します」と言う。
ミーシャは「あらためて、よろしくね~。キーラ」と言い。
レイラは「じゃ、早速行くぞ前線に」と言って、箒にまたがる。
私とミーシャもそれに続いて、箒を用意してまたがった。
レイラは「よかった、まだ奴は来ていないようだ」と安心した様子で呟く。
そして、戦死した兵士や魔女の遺体の装束を整えて、棺桶に入れてトラックへと魔法を使い積んでいく。
すると、後ろにヨハンが来た。
私はトラックに発車のサインを送る。
ヨハンは「戻ってきたのかよ」と言う。
私は「あの二人に呼び戻されたのでね?」と言う。
ヨハンは「せっかく荒稼ぎ出来ると思ったのに、ちぇー。戻って来ちゃったか」と言う。
ヨハンは装束を剥がす事をすっかり忘れている様子だった。
私はその間に棺桶に釘を打っていった。
その後、ミーシャが私の近くに来た。
しかし、ヨハンはミーシャを見ても驚かない。
私は逆に驚いてしまった。
私は「殺したはずのミーシャ先輩が現れたのになぜ、あなたは驚かないのですか?」と言う。
「あぁ、それは死なない程度にってほんにnkarおうわぁ」とミーシャに口を塞がれるヨハン。
私は「ミーシャ先輩!?」と驚く。
ミーシャ先輩はいつもの甘ったるい声で「これ以上言うのなら~、物理攻撃を加えるけどいいかしら~」と言う。
にしても、表情が怖い。
ヨハンは「やめろやめろ、幾ら異端でも物理攻撃をされたら、包丁を刺されたら死ぬから死ぬから」と焦っていた。
私は「今日のところは何も盗っていないから、離してあげたらどうですか?でも次、盗るようでしたら…。私も容赦しませんから…」と言う。
ミーシャは「キーラ、思ったより優しいのね…」と言い、ヨハンを離す。
ヨハンは「サンキュー。キーラ。君のおかげで命拾いした。じゃあ」と言い、何処かへ行ってしまった。
ミーシャは言う。「良かったの?とどめを刺さなくて?」
私は「今日のところは何も盗っていませんし、私たちの邪魔をしない限りは放置するのが良いと、私は思うのです」と答えた。
そして、私は聞く。「あの、先輩。死なない程度にって何ですか?」
ミーシャは「う~ん、ヨハンが適当な事言っただけだよ?気にしなくて良いわ~」と言う。
私は「私を呼び戻すためにグルになったんですか?」と言う。
ミーシャは「それはないわ。でも、この仕事をしてて良かったって思える日はいつか来るわ」と言う。
私は「話をそらさないでください。私を呼び戻すために嘘をつきましたよね?なんで、そこまでして私が必要だったんですか?死なない程度に痛めつけられたって実績を作ってまでも呼び戻した。そこまでして私が必要だった理由は何だったんですか?あと、どうして今更に私が必要だったんですか?」と言う。
ミーシャは「流石、先生として教えていただけあってキレるわね~。いつか、分かると思うわ~。ヨハンが再び、装束剥がしをやめた理由がね~」と言う。
私は「論点はそこじゃ無いはずです。どうして嘘をついてまでも呼び戻す必要があったんですか?」と問い詰める。
その声がレイラにも届いてしまったか、レイラまで駆けつけることになった。
レイラは「キーラ。本当に申し訳ない。そこまでしないと、キーラは戻ってくれない。そう私たちは思ったのだよ。どうか、許されないとしても、ここに残って欲しい。嘘をついたのは悪かった…。本当に申し訳ない」そう言い、土下座をした。
ミーシャの上司である、レイラにそう言われて土下座までされてしまえば…。
こっちも主張を引っ込めるほか無かった…。
私は「レイラさん…、頭を上げてください。とりあえず、この事は一旦、考えないことにします」と言う。
レイラは「続けてくれるね?」と言う。
私は「言われなくても、続けますよ」と言う。
レイラは「それならよかった」と言って、心から安心している様子だった。
次の日も私たちは戦場跡で死体などを回収していた。
すると、どこからともなくヨハンは現れる。
ヨハンは私に向かって「今日はご機嫌がよろしく無さそうだな…」と言う。
私は「あなたには関係ないでしょ?」と言う。
ヨハンは「てことは、機嫌が悪いのは認めるんだな」と言い笑う。
私は黙々と死体の回収を続ける。
すると、上の方から声がした。
「ヨハン!!!」と。
それは女性の声だった。
しかし、ヨハンは余裕な顔をしている。
すると、その女性は上から、私に向かって魔法を放ってきた。
魔法が近づく気配を感じる避ける余裕が無い。
しかし、直撃の寸前で魔法の気配が消えた。
私はヨハンに抱きかかえられて、地面をゴロゴロ転がっていた。
ヨハンは「危なかったな」と言い笑う。
笑い事か。
そうじゃ無いだろ。
ヨハンは上空にいる魔女に言う。
「おっと、こいつには手出しさせねーぜ」
そして、ヨハンは「俺は足を洗うさ?」と言う。
上空にいる魔女は「今更、何言ってるの?戻って始末書を書いて貰いますよヨハン」と言う。
ヨハンは「お前も分かるだろ。俺が本気を出したら、誰にも止められないことを」と言う。
上空にいる魔女は「その前に、あなたを潰しますわ」と言う。
ヨハンは「神よ、我に祝福を授けたまえ」と言う。
その瞬間、まばゆい光が辺りを包む。
ヨハンは「能力解放、火焔3」と言い手のひらを開き両手を合わせて相手に火焔を放った。
上空の魔女は「ちょっと、私に歯向かうつもり!?後でどうなるかわkうわああああああああ」と、そのまま跡形もなくなってしまった。
跨がっていた箒すら残さず。
ヨハンは言う。「あの魔女の魔法が当たらなくてよかった」
私は「助けてくれてありがとう…」と言う。
ヨハンは「あの魔女の魔法が当たっていたら、今頃あの世行きだったからなぁ。でも無事で良かった」と言う。
空に立ち上る激しい火焔を見て、私の二人の上司が急行していた。
ヨハンは「事が面倒くさくなる前に俺は帰るぜ」と言い、姿を消してしまった…。
私はレイラとミーシャにありのままを話すことにした。
上に謎の魔女が現れ狙われて、そしてヨハンに助けられたこと。
あの火焔はヨハンが放ったこと。
謎の魔女はヨハンの火焔で跡形も無く消えてしまったこと。
レイラは言う。「その魔女は闇組織に属する。闇の魔女ね…。魔法が当たらなくて…。本当に無事で良かったわ…」
ミーシャは言う。「ヨハンが火焔を放つときに、なんか言ってなかった?」
私は「神よ、我に祝福を捧げたまえ?みたいなことを言ってましたけど?」
ミーシャは「そこじゃなくて、能力解放の後に言ってたと思う部分が知りたい」と言う。
私は「火焔3だった気がします」と答える。
ミーシャは「てことは、まだ本気じゃ無いね…」と言う。
私は「それはどういうことですか?」と言う。
ミーシャは「火焔は30まであるから、気をつけてね?」と言った。
私は驚いた。
あの火力で3…。
箒もろとも消し炭にする程の威力であったのに。
30はもっと威力がすごいのだろう…。
私はぞっとした。
次の日もまた、遺体を回収する私たち。
私は勲章が一つだけ取られている遺体を見つけた。
誰がそんなことを…。
私はそう思う。
しばらくすると、ヨハンが現れる。
私は「何しに来たのよ」とぶっきらぼうに言う。
ヨハンは「すまんな…、俺は装束剥がししか出来ない。だから、勲章は貰っていった…。俺だって嫌われるし、装束剥がしなんかしたくない…。でも、それしか出来ない…」と言う。
私は何も言うことが出来ない。
雑談をしてしまった所為で、少し情が移ってしまったのかもしれない。
私は震える声で「装束剥がしは犯罪です」と言い、ナイフで弾幕を張る。
しかし、魔法がブレブレで当たらない。
ヨハンは避ける。
私はナイフで弾幕を張り続けた。
すると、ヨハンがふらついて脚にナイフが刺さった。
私は「ヨハン!!!」と叫んだ。
しかし、そのまま転移魔法を使われて、ヨハンは目の前から居なくなってしまった。
ミーシャは裏から見ていたのか、私の目の前に出てきて言う。「あらあら、微笑ましいわね」
私は「何が微笑ましいの?」と言う。
ミーシャは「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて」と言い私の頭を撫でる。
何故か、ミーシャ先輩に頭を撫でられると、私は落ち着いた気分になる。
ミーシャ先輩の優しい性格が故かもしれない。
私は落ち着きを取り戻した。
そして、残りの仕事をして。
装束管理局へと戻った。
そして、私はミーシャ先輩とレイラ主任とで書類を整理した後。
そのまま、夜の町で会食をすることになった。
私はお酒をあまり飲まないが、ミーシャ先輩とレイラ主任は日々のストレスや鬱憤を晴らさんと言わんばかりに、お酒をあおるあおる。
食べながら、レイラは「あの上司、本当にないわ~」と言い。
ミーシャも「本当にそれ、あの時、見たくクビにしてやりたいわ。でも、口実が無いのよね…」
レイラは同調するように「本当にそれ~~」と言い。
シラフの私はあのテンションに置いて行かれていた。
まぁ、でも奢りらしいので、付き合った方が得策だろう。
そういうことで、私は肉を食べながら、二人の上司がグチグチ言うのを聞いていた。
次の店に行くが、お酒メインのお店らしいので私は断った上で、一人とぼとぼと家に帰ることにした。
私は溜め息を吐き。
あの二人は本当にお酒が好きね…。
と思いを巡らせていた。
すると、後ろから男性の声がした。
「ねぇ?君。一杯飲み行かない?」
私は「私はお酒が嫌いなので、飲みません」と断る。
すると、男性は「一杯くらいなら飲めるでしょ?」と言う。
私は「杖を出して、反撃を受けたくないのなら、ここで手を引くのが利口かと」と言う。
男性は「げげーっ。酒嫌いの魔女かよ」と言い、そのまま立ち去った。
私は杖をしまって、そのまま、家へと帰った。
次の日。
私は一人で戦場跡に向かって、遺体を回収していく。
ふたりとも二日酔いで、家でまだ寝ているらしい。
だから、酒は嫌いなんだ。
酒だからって許されると思うな。
すると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
私は「また、あなたですか…」と溜め息を吐く。
ヨハンは「あぁ…、もうクセなんだよ…」と言う。
私は「装束を剥がすのがクセなの?」
ヨハンは「それもあるけど、戦場跡で君を探すのが…」と言う。
そして、ヨハンは「出来れば、こんな事からは足を洗いたいが、異端故にどこも雇ってくれないんだよねぇ…」と涙ながらに私に訴えてきた。
私は「同情なんて、しないけれど…、あと、そんな都合の良い場所。私は知らないわ…」と言う。
そして、私は「この前の怪我。治ったみたいだけど…。早くない?」と訊く
ヨハンは「あぁ、気にするな…」と答えを濁した。
ヨハンは残念そうに「そうだよなぁ…」と言い、そのまま戦場跡から何も盗らずに立ち去った。