始まりの時
どうして…。こんな事に…。
いつから、私は自分を過信したのか…。
こんなにも屈辱な事は…。
意識が遠のいていく…。
私は目が覚めた。
やけに嫌な夢を見た。
すごくリアルで、成人した自分と、目の前にいる嫌な相手と戦って負けて、死ぬ夢だった。
世界はとてもきな臭くなりつつあった。
魔法で大戦を始めようとする、ガリアとライアルという超大国が二国あり。
一触即発であった。
しばらくして、母が「キーラ!!!いつまで寝てるの!!!学校に間に合わないわよ!!!」と起こす声が聞こえた。
「今、行く!!!」と私は不機嫌に答えて、下へと階段を降りる。
この時代はまだ平和なので、普通に学校があり、私は下に置かれた食事を食べて、服を着替えて学校へと向かった。
私が通っているのは、魔法の初等学校だった。
魔法の初等教育を受けつつ。
いろいろな勉強を教えて貰えた。
社会に国語に数学に近隣外国語にいろいろと…。
私は特に近隣外国語に興味を持った。
他の子は「外国になんか行く予定が無いし」と言い、真面目に勉強をする気は無さそうだったが…。
私は異国の文化にどっぷりと惹かれていった。
しかし、新聞には講和条約否決で全面戦争不可避という見出しが躍り、世界はキーラの思いとは反対に不穏な方へと向かっていった…。
しばらくして、私が魔法高等学校に通って魔法を学んでいるときだった。
今日は近隣外国語の授業があるので、私はウキウキで学校へ向かう。
しかし、先生の表情がいつになく暗い。
授業の終わりに先生は私を呼び出した。
先生は言う。「キーラさん。いつも熱心に授業を受けてくれてありがとう。でも、近隣外国語の授業は今日で最後なの…」
私は「どうしてなの…」と言い、先生に詰め寄る。
先生は「私は国へと帰らないといけなくなりました…、もっともっと、キーラさんに色々な単語や文化を教えてあげたかった。今でもそう思うし、帰るとなると、胸が締めつけられるわ。でも、これは、お互いの国が決めたことなの。いつか、また会えるその時まで…」と言い先生は涙を流していた。
私もつられて泣いていた。
その後の教育は、国語と愛国教育、そして魔法実技の授業が増えていった。
愛国教育ほどつまらない授業は無かったが、サボると他の子に非国民と言われるので、やる気は無いが、あるフリをした。
そして、私は魔女登用試験を受けて、合格して卒業をした。
この頃になると、ガリア、ライアルの両国は魔道士ですら不足し、魔法の使える人材を集めては最前線に送り込んでいた。
私は最前線に行くのは嫌で、事務の仕事などをこなしていたが、楽しくもない仕事を続けるのに嫌気が差した私は、辞表を提出してその日に実家へと帰った。
帰ってきた私に対して、実家の母は言う。「おかえり」
私は「ただいま」と答える。
居間でくつろいで居ると、実家の母は「最近、戦争で死んだ魔女のローブや軍人の軍服を剥いで、魔法が使えない事情を知らない国へと売りつける不届き者がいるのよね?それを取り締まって欲しいと、私に要請が来たのだけど?私は年だからって断ったのだけどね…。キーラ、やってみない?」と言う。
私は「それって、最前線での仕事じゃん…。嫌だよ…」と言う。
母は「そうね…。魔法の成績が優秀でも事務職に進んだのは、最前線での戦闘が嫌だからだったわね。ごめんね。今のは聞かなかったことにして」と言い、そのまま黙り込んでしまった。
私は咄嗟に嫌と答えたが魔女の尊厳でもある、ローブなどを剥いで売る。
そんな大悪党が許せない気持ちでいた。
次の日の朝。
私は母に「昨日の話なんだけど、私、やるから。たとえどんな強い魔法使いでも、追いかけて捕まえてみせるから。ローブを剥ぐなんて許せないから」と言う。
母は「まぁ、こうなったら、キーラは止められないものね…」と溜め息を吐き、「まぁ、頑張りなさいよ」と私の肩に手を置いて、出発前に書類と御守りを渡してくれた。
そして、私は書類に書かれた場所へと行き書類を見せて「これの申請をしたい」と言った。
すぐに係りの人が来て「ルミネ様から伺っております」と言い、記入すべきところを教えてくれた。
係の人は「審査は今日中に終わると、思うので明日から、よろしくお願い致しますね」と言う。
私は「はい、こちらこそよろしくお願い致します」と言った。
次の日。
現地集合だったので、箒を飛ばして現地まで行った。
双方が激しい戦闘だったらしく、多くの死体があった。
魔女といえども、物理攻撃で弾き飛ばされれば、魔法で防護できない程の火力だと普通に消し炭になってしまう。
私が一人ずつ、魔女や魔道士、軍人の遺体を集めては棺桶に入れて移送用のトラックへと積めていく。
先輩は手慣れた手つきで、魔法で棺桶に入れトラックへとぽんぽん積んでいく。
順調に作業が進んでいると、思ったその時。
後ろから声が聞こえた。
「俺たちの獲物を奪わないで貰えるかな?」
先輩は言う。「あれが装束剥がしのヨハンだ」
私は驚いた。
魔女を目の前にしても、全く動じないからだ。
しかも男性だ。
先輩はトラックに発車の合図を送る。
トラックは慌てて発車して行ってしまう。
私は状況を理解し出す、先輩がトラックに発車の合図を送ったのは、おそらくまずは無防備なトラックを狙うからだろう。
装束剥がしのヨハンは死んだ魔道士や魔女から手慣れた手つきでローブを引き剥がし、立ち去ろうとする。
私は魔法で氷の壁を作り妨害する。
男は杖すら出さず、火を出して氷を溶かす。
ヨハンは「悪いが、これは貰っていくぜ」と言い死んだ軍人から剥いだ軍服3着と、死んだ魔道士のローブ2着、死んだ魔女のローブ1着を持って行った。
先輩のミーシャは「キーラのおかげである程度は回収が出来て助かったわ…」と言った。
私は「でも、6着はもっていかれてしまいましたわ…」と言う。
ミーシャは「キーラは初日から、完璧主義ね…。でも、効率が良くなったので、これからも頼むわ」と言った。
私は「はい!!!」と答えた。
私は夜に図書館で装束剥がしのヨハンについて調べる。
あの魔法は見たことが無かったからだ。
新聞を見てみた。
最近の新聞は装束剥がしのヨハンが悪者で極悪非道に書かれることが多い。
たしかに、魔法使いの尊厳であるローブを剥ぐ(しかも、死体から)極悪非道人ではあるが、知りたいのはそこじゃ無い。
あの魔法が、どういうことなのか。
杖すら出さず火をおこして、氷の壁を溶かしたのだから。
特異な魔法使いは村八分にされるか、ヒーローとしてあがめられるかの二択だ。
私はヨハンの出生地が気になった。
そこへ行けば、分かるかもしれない。
あの魔法の正体が。
この仕事に慣れてきたら、少し休暇を貰ってヨハンの出生地を探すこととしよう。
次の日、また戦場跡でミーシャと私で、遺体の回収を始める。
今回は小規模な戦闘で双方が放棄した陣地故に死体は少ないが散らばって倒れていて、かなり集めるの苦労した。
双方共の陣地にかなり高位の魔女の死体が放置されていた。
二人は最初期に殉死したのか、少し腐敗が進んでいた。
ミーシャが無線で言う。「だから、ここの陣地はすぐに双方が撤退したのね…」
私はライアル側の指揮官であろう、高位の魔女を棺に入れてトラックへと魔法で積み込む。
先輩であるミーシャはガリア側の高位の魔女をトラックに積み込んで、後は下で亡くなった軍人の遺体を収容としている時だった。
「おっと、そこの高位の魔女ローブや装飾品は高値で売れるのにね?もう、トラックに載せてしまったのかい」とヨハンが現れて言う。
私は先輩のミーシャに合図を送ってトラックを発車させる。
私は「ヨハン。あなたはどこの生まれですか?」と単刀直入に聞く。
ヨハンは「雑談に興味は無いんだがなぁ」と言い笑い、ヨハンは「トラックが発車したって事は、下に落ちている軍人の装束は貰っていくぜ」と言い、建物の二階から飛び降りる。
私はナイフで弾幕を張る。
ヨハンは「危ないなぁ、嬢ちゃん」と言い軍人の外套を剥がそうとする。
私は下へと降りて「あなた、今。落ちてる言いましたね?亡くなっているのです。今の言葉は取り消してください。そして、謝ってください。さもなくば殺します」
ヨハンは「あんまり、情を入れすぎると呪われるぞ」とあくまでヘラヘラと笑っている。
私はあんまりにも許せない。
何が呪われるだ。
お前のやってることの方が非道だろ。
私は怒りのあまり強い魔法を放つ。ヨハンの体が真っ二つになったのもつかの間。
違う場所からヨハンが出てきて言う。「めんどくさいなぁ…。嬢ちゃん。今日はここら辺で撤退しといてやるから、次はやめてや」と言い、そのまま何処かへ消えた。
先輩のミーシャがさっきの爆音を聞いて、私のところへと来た。
ミーシャは目を輝かせて「今、ヨハンを真っ二つにしなかった?」と言う。
私は「でも、効いていないのか、いきなり他の場所から現れて逃げられてしまいました…」と答える。
ミーシャ先輩は「でも、ヨハンの幻影だったとしても威力の高い魔法を当てられるだけですごいよ。私なんか当てる前に無効化されたもん…」と言う。
私は「ミーシャ先輩。もう一度、別のトラックを呼んでください。奴の居ないうちにこの軍人さんの遺体を…」と言う。
ミーシャ先輩は「分かった」と言ってすぐに手配をしてくれた。
そして、無事収容することが出来た。
しかし、私は気になった。
魔女でも無いのに、あれだけ高度な魔法が使える。
その上、ミーシャ先輩の攻撃を無効化した。
攻撃魔法を無効化するには、かなりの素質と技量が必要だ。
考えていると、ミーシャ先輩に「どうしたの?そんな難しい顔をして…?」と心配されてしまった。
私はありのまま「ヨハンって、どれだけ強い魔法使いなんですか?」と訊ねる。
ミーシャ先輩は小声で「これはあまり言わないで欲しいのだけど…、ヨハンは異端なのよね。やってることがじゃなくて能力自体が、だから地元では忌み嫌われていたの。だからヨハンが、ああなったのは私たちの責任でもあるの。だから、私はこの仕事を続ける。それが理由なの」と私に打ち明けてくれた。
私は自分の魔法が効かなかった理由。
それが知れて少し、好奇心が満たされたのと、余計にヨハンに憎悪した。
そんなに能力的に恵まれた異端なら、もっと別のことに能力を使って欲しいとも思ったのだ。
次の日もまた戦場跡で遺体の回収をしていた。
そして次の戦場跡は既にヨハンが荒らした後で、全ての遺体が装束を剥ぎ取られて、シャツ1枚になっていた。
私は「遅かったか…」と言い悔しい思いを口にする。
とりあえず、遺体を回収してトラックに載せた後に、次の戦場跡へと向かおうとしたときだった。
聞き覚えのある嫌な声がした。「おっと、次の現場には行かせないぜ?」
私は「ヨハン!!!」と言う。
ヨハンは「死体の装束を剥がしたところで、死人に口なしさ?」と言う。
私は「死んでいたとしても、嫌なモノは嫌ですよ?もれなくあなたの装束を1枚剥いでみせましょう?」と言って臨戦態勢へと入る。
ヨハンは「出来るものなら、やってみな?」
私とヨハンは死闘の末、私はヨハンから外套ことコートを、ヨハンは私から三角の帽子を奪い取った。
ヨハンは「さむっっ」と言い震える。
その後、ヨハンは「引き分けだな。まぁ、あいにく生きてる奴の装束には興味はねぇ。売ったら文句を付けられそうだし」と言い、私の方へと三角の帽子を投げた。
そして、そのまま立ち去ろうとする。
私は慌てて「窃盗は犯罪です。なので、私はあなたのコートをお返しします」と言い、魔法でヨハンの方へ飛ばす。
ヨハンは「よっ、サンキュー。生きてる奴には口があって、達者に喋れるが死んだ奴等は、何も言えない。だから、俺はもう行くぜ」と言い、その場から立ち去った。
ヨハンは思った。
生まれる世界が違えば、きっと結ばれることだって。
出来たんだろうな?
あんなに敵対されなくて済んだのだろう…。
そう思うと、悲しかった。
涙なんか、出なかったけど…。
俺、何でこんなに悲しいし、胸が締め付けられる思いをしているのだろう。
分からない分からない…。
ミーシャが来て言う。「大丈夫だった?キーラ」
私は「大丈夫です…」と答える。
私はふと気になって「ミーシャ先輩の初恋の相手って誰なんですか?」と聞いてみた。
ミーシャは「先にキーラの初恋の相手を教えてくれる?」と言われた。
私は「初恋の相手は女の子だったかな…?別に男の人も嫌いじゃ無いけど…」と答える。
ミーシャは「恥ずかしげも無く答えるのね…」驚いていた。
そして、ミーシャは重い重い口を開いて「こんな事を言うと、きっとキーラは私の事を軽蔑して嫌いになっちゃうから言えないかな…、昔はあの子だって優しかったのよ…」と言う。
私は「それで誰なんですか?」と聞く。
しかし、ミーシャ先輩は言いたくないようで「うーん、同郷の男の子だよ」とだけしか、答えてくれなかった。
私は出来心で「もしかして、ミーシャ先輩の初恋の相手はヨハンだったりしますか?」と聞いてしまった。
ミーシャ先輩は当てられてしまっては仕方ないという感じで答える「そうね…。正解よ。あの頃のヨハンは優しくて素敵だったわ。だから、ヨハンと戦場跡で再び出会うことになった時は、私はかなりショックを受けたわ…」と言う。
私は「ごめんなさい…。辛い過去を思い出させてしまって…」と謝った。
ミーシャ先輩は優しく「いいのよ。いつかは話さなくてはならないと思ったし…」と私の頭を撫でた。
次の日も、またミーシャ先輩と一緒に兵の死体などを回収して回っていた。
私はずっと悩んでいた。
初恋の相手と相手があんな風になって、そして対峙して戦わないといけない。
今までどんな気持ちで、この仕事に取り組んできたんだろう…。
すると、聞き慣れた嫌な声が聞こえた。
「よぉ、辛気くさい顔してどうした?大丈夫か?」装束剥がしのヨハンだった。
私は平静を装って「いいえ、あなたに言う必要は無いわ。あと、あなたにも人の心っていうものがあったのね?」と言う。
ヨハンは「失礼な、俺にだって人の心はあるさ…」と答える。
私は「死体から装束を剥がしているのに?」と言う。
ヨハンは「死体には口なしさ?まぁ、念は怖いけどな。まぁ、でも俺にはそういうの効かないから、これを買った相手に行くんだけどな」と言う。
私は「あなた、やっぱり最低ね…」と言う。
ヨハンは「そんな、ドン引きしなくても…、まぁ、でもその顔もいいかな?かわいいね?」と言う。
私は目を凝らす、ヨハンはずっと手ぶらであった。
ヨハンは「じゃあ、俺はもう行くぜ、めぼしい物は既に回収されたみたいだしね?」と言う。
下級兵の装束まで剥がして持って行ってたのに、下級兵の装束にも回収された上級兵の装束にすら、手を出さなかったのだ。
私は先輩のミーシャに報告をする。
「今日のヨハン。変でした。私の顔色を心配したり、下級兵の装束を剥がさなかったり…」
ミーシャ先輩は少し考えてから、「たぶん、ヨハンはあなたに恋をしてるね?だから、急に装束を剥がすのをやめて、話し掛けて来たんだと思うんだわ。言ったでしょ?あの子、根は優しいから」と言う。
しばらくして、キーラはクビになることに…。