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嘘塗れの魔法少女~本当は男で裏切り者です~  作者: ストラテジスト
第4章

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突然の告白

 手の中に光が収束し、一つの武器を形作る。

 それは長い持ち手と三日月の如き美しい曲線を描く刃を持つ、一点の曇りも無き純白の処刑刀。あらゆる悪を刈り取り滅する、浄化の大鎌であった。迸る力は絶大であり、具現した瞬間にラムスが恐怖の面持ちで視線を向けてきたほど。

 その隙を見逃さず、慎士(しんじ)は力強く羽ばたき一直線に距離を詰める。疲弊し負傷したラムスとの距離は瞬く間に縮まって行き、恐怖に歪み切ったその表情がはっきりと瞳に映った。


「ひっ!? や、やめて……もう悪い事はしないから、見逃してくれ……!」

「っ……!」


 迫る処刑刀を前に、まるで童女のように怯え命乞いをするラムス。

 天使が善性の塊であるように、悪魔が悪性の塊なのは理解している。改心する事など決してありえず、ここで命を見逃す理由など無い。けれど怯え切ったその表情と、命を奪うという罪の重さが、慎士の手を反射的に躊躇わせた。


「――死ねええぇぇぇぇぇぇっ!!」


 その一瞬を狙い、暗黒の刺突が繰り出される。先程の表情と態度が嘘のような、殺意に満ちた叫びと形相での一撃。

 狙いは首元。高速で迫っていたため自分から飛び込む形になり、避けられない。慎士は自身の甘さに歯噛みし、一瞬の後に訪れるであろう命の終わりを自覚した。


「――ぐああぁぁっ!?」


 しかし闇の剣の切っ先は慎士の頬を掠めるに止める。

 間一髪で躱したわけではない。地上から放たれた(らん)による援護射撃が、ラムスの手を撃ち抜き軌道を逸らしたのだ。加えてラムスの黒髪に付着していた紙片、柘榴(ざくろ)の<魔装>の欠片が咄嗟に目を覆い視界を遮ったから。彼女たちが即座にその行動に移れたのは、命乞いが演技である事を誰よりも早く夜刀(やと)が見抜き、それを柘榴の<魔法>によって繋がった意識で共有したため。

 やはり幾ら強くなろうと、魔法少女の殻を破り天使に至ろうと、彼女たちには敵わないらしい。その逞しくも美しい背中に追いつけない事実に悔しさを覚える反面、ますます恋焦がれてしまう慎士だった。


「終わりだ、魔王ラムス。お前が見下した人間たちの絆の力で――滅びを迎えろっ!」


 かけがえのない仲間たちとの絆を深く感じながら、慎士は<神器>を振るった。

 輝く白刃から迸る光は夜闇に煌めき、ラムスの首元を中心に天の川の如き美しい軌跡を瞬時に描く。酷く静かに、それでいて致命的な一撃が炸裂した幕引きの一瞬だった。


「あ……い、いやだ……! 我は……私は……まだ、死にたく……!」

「お前のせいで死んだ人たちも、同じように思っていたさ。その絶望と恐怖を噛みしめながら、あの世に逝け」

「あ――」


 ようやく斬られた事を認識したのか、ラムスの首にか細い線が走って行く。

 その首はやがて胴体と泣き別れ、宙に溶けるように消滅しながら地に落ちて行った。避けられぬ絶命を前に、正真正銘の恐怖に怯えた哀れな表情を浮かべて。




「これでようやく全てが終わりました。皆さんのおかげです。本当に、ありがとうございます……!」


 全ての元凶たる魔王ラムスを討伐した慎士は、地上で待つ仲間たちの元へ戻り心からの感謝の言葉を伝えた。

 自分一人だけだったなら、魔王を倒す事は出来なかっただろう。そもそも天使に至る事が出来たかどうかすらも怪しい。魔法少女の殻を破り進化を果たせた理由の大部分は、間違いなく彼女たちのおかげだ。

 自分の罪を許し、闇の中から救い出し、信頼と力を与えてくれた彼女たちに、最早慎士は頭が上がらなかった。だからこそ深く頭を下げ、心からの感謝を捧げた。


「どういたしまして。楓のためなら当然」

「お、おう……」

「そう、だね……」


 けれど顔を上げてみれば、三人中二人は微妙な表情をしていた。

 若干誇らしげに口元を緩めている柘榴を除き、夜刀と藍は何故か頬を赤らめ居心地悪そうに佇んでいる。


「どうしました? 何だかお二人とも顔が赤いですよ? もしかしてまだ奴に痛めつけられた後遺症が残って……」

「いや……そういうんじゃ、ねぇけどよ……」

「は、恥ずかしいよ……」

「恥ずかしい、ですか? うーん……」


 心配になって思わず一歩近づくと、二人は同時に一歩後退って恥じらいを露わにする。

 ラムスを倒した時点で<共有>が打ち切られたため二人の反応の理由が分からず、慎士は首を傾げるしか無かった。激しい戦闘で衣装が破れあられもない姿を晒しているのかと身体を見下ろすも、天使化した事で衣装は再生・新生しているので特に問題は無し。強いて言えば未だ天使化中なので、光輪や天使の白翼が背後で揺れているくらいか。


「私たち、<共有>で繋がっていた。だからヘリオトロープの、私たちに対する気持ちも流れ込んできた。二人が恥ずかしがっているのは、そのせい」

「……あっ」


 唯一平静に見える柘榴の説明により、二人の反応の理由を察する。

 戦いの最中は気にする余裕が無かったものの、想いを解放した慎士は彼女たちの事を『愛している』だの『恋焦がれている』だの、実に情熱的に想っていた。繋がった意識でそんな事を考えれば、彼女たちにもそれが伝わるのは自明の理。熱烈なラブレターの内容を無理やり頭に流し込まれたようなものだ。

 故に二人の反応も当然の事であり、今更ながら慎士も急激に羞恥心が沸き上がって来ていた。


「そ、それについては、一旦脇に置きましょう……それよりも、亜緒(あお)は大丈夫でしたか?」

「お、おう、大丈夫だ。あの薄ぎたねぇ首輪を消滅させた後、シェルターに行かせたぜ。今頃お前に電話かけまくってるんじゃねぇか?」

「そうですか。じゃあ、心配させないように早く連絡を返さないといけませんね」


 <共有>で繋がっていた時の話なのである程度の顛末は知っていたが、実際にそれを確認できて慎士は胸を撫で下ろす。

 慎士自身も助かり、亜緒と魔法少女たちが全員無事。自分の命を捧げてでも愛する人たちを救いたかった慎士としては、紛れも無い究極のハッピーエンドであった。沸き上がる感動と喜びが抑えられず、段々と目頭が熱くなっていく。零れそうになる涙を隠すためにも、再び三人に頭を下げた。


「皆さん、改めて本当にありがとうございます。妹を、そしてボクを助けてくれて……受けた恩が大きすぎて、どうやってこの恩を返して行けば良いか正直かなり悩んでいるくらいです。ですがこのご恩は必ず、どれだけの時間がかかろうとも返していきます」

「ううん、良いんだよ。友達、そして仲間を助けるのは当然の事だからね!」

「恩返しなんかどうだって良いんだよ。全員で力を合わせ助け合い、共に苦難を乗り越える。それが仲間ってもんだろ?」

「じゃあ恩返しに、私とお付き合いして欲しい」


 藍は爽やかな笑顔で、夜刀は多少バツが悪そうに、柘榴はいつもの無表情で答える。

 変わらぬその清らかな精神性が酷く眩しくて、しかし同時に焦がれる気持ちが抑えきれなくて、慎士は胸の中に熱い気持ちが沸き上がるのを感じていた。せっかく涙を隠そうとしたのに、またしてもじわりと目の端に滲んできてしまう。


「……ありがとうございます。ボクなんかで良ければ、喜んで――って、はい? 詩桜(しざくら)さん、今何て?」


 しかし先ほどの言葉の中に一つ変な物があった事に気が付き、零れそうになった涙も引っ込んでしまう。

 他二人もそれに気が付いたらしく、目を丸くしてその発言の主――柘榴へと目を向けていた。


「だから、お付き合い。男と女の関係。恋人。ねんごろ」


 当の本人は全く意に介した様子もない無表情で、懇切丁寧に言葉の意味を語ってくれた。右手の指で輪っかを作り、そこに左手の人差し指を出し入れするという極めてはしたないハンドサイン付きで。


「え、ええええぇぇぇぇぇっ!?」

「ちょっ、おま! いきなり何言ってやがんだ!?」

「そ、そうだよプリムローズちゃん! 意味が分かってて言ってるの!?」

「ん? もちろん、分かってて言ってる」


 柘榴を除く全員が顔を赤くし、驚愕の叫びを上げる。

 まさかの告白に慎士は開いた口が塞がらず、夜刀と藍は柘榴の真意を確かめるように問い質す。けれど当の柘榴は全く気にした様子もなく、極めて冷静な面持ちで慎士にぎゅっと抱き着いてきた。


「ヘリオトロープは私が好き。私もヘリオトロープが好き。だからお付き合いする。それだけのお話」

「うわ、わっ……!?」


 そうしてまるで匂いを擦り付ける猫のように、すりすりと慎士の首筋に頬ずりしてくる始末。鼻先を掠める柘榴の髪の甘い匂いと、二の腕に感じる仄かな膨らみの感触に、慎士は魅入られたように身体を固くして凍り付いてしまう。

 両思いなのはとても嬉しい誤算なものの、ここまで積極的に迫られるとどう対応すれば良いか分からなかった。それに慎士が恋焦がれているのは柘榴だけではない。想いを寄せるもう二人の少女――夜刀と藍は、柘榴の行為を咎めるように険しい表情で迫っていた。


「この馬鹿っ! そいつはお前だけが好きなわけじゃねぇんだぞ!?」

「そうだよ! 楓ちゃんは、あたしと夜刀ちゃんの事だって好きなんだよ!?」

「知ってる。でも私は重婚でも良い。だからお付き合いする」

「このドアホっ! 民法の七百三十二条を知らねぇのか! 一夫多妻制は法律違反なんだぞ!」

「そ、そうだよ! ハーレムなんて認められないんだからっ!」

「じゃあ二人がヘリオトロープとくっつかなければいい。つまり私が独り占め」

「んだとぉ……!?」

「柘榴ちゃんって、こんな肉食系だったの……!?」


 何だか妙な気迫と圧力を感じる二人に迫られる柘榴だが、やすやすとそれを受け流して頬擦りしてくる始末。

 二人も柘榴がここまで積極的な肉食系だとは思ってもいなかったらしく、正に寝耳に水といった様子で凍り付いていた。


「ヘリオトロープ。私、あなたの事が好き。誰よりも優しくて暖かい心を持った、素敵なあなたが大好き。一緒に低身長カップルになって産めよ増やせよして地に満ちよう?」

「騙されんな、ヘリオトロープ! コイツ実はクッソ性格悪いからな!」

「そ、そうだよ! 夜刀ちゃんの言う通り、騙されちゃ駄目だよっ!」


 挙句の果てにキスまでしようとしてくる柘榴を、夜刀と藍が無理やりに引き剥がそうとする。しかし柘榴は慎士の身体にコアラのようにしがみついて徹底抗戦の構え。

 三人共途轍もない気迫を漂わせているため、その渦中にいる慎士は胃がキリキリと締め上げられるような思いだった。今までの仲の良い彼女たちはどこへ行ってしまったのか。


「だ、誰か助けてええぇぇぇ……!」


 自分にはどうしようもない状況に、慎士は誰にともなく助けを求める。

 その情けない天使の声は湖の畔に儚く響き渡り、月明かりの中に掻き消えるのだった。まるで自分で何とかしろと言われているかのように、どこまでも無情に。

 評価シートでは天使周りの設定が唐突過ぎるという評価を下されましたが、「魔界があって悪魔がいるなら天界があって天使がいてもおかしくないし、別に唐突ではないのでは?」と思いましたね。ただ冷静に考えると私がディ●ガイアをプレイしてるような奴だからこその固定観念なのかもしれない……。

 ちなみに<魔装顕現>のルビである「アンゲルス・アーラ」は、ラテン語で「天使・羽根」って意味です。

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