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嘘塗れの魔法少女~本当は男で裏切り者です~  作者: ストラテジスト
第4章

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救世天使化

「――ぐっ!? 何だ、この忌々しい光はっ!?」


 世界に色が戻ったその時、慎士(しんじ)の身体からは眩い光が溢れていた。その煌めきは(らん)たちを蹂躙していた闇の触手が全て消え去るほど激しく、まるで地上に太陽が顕現したかのよう。全てを焼き尽くさんという意思すら感じるその光に、ラムスは堪らず距離を取っていた。


「ゲホッ、ごほっ! お、お前、その姿は……?」

「暖かい、光……」

「ヘリオ、トロープ……?」


 藍たち三人は苦痛の余韻に咳き込み涙しながらも、自分たちに歩み寄る慎士の姿に目を丸くしていた。

 不思議な事に、魔王が全力で距離を取るほどの眩い光が全身から溢れているにも拘わらず、三人にはただただ暖かく優しい光にしか感じられていないのだ。


「ああ、そうか……魔法少女は、そういう存在なのか……」


 その理由も、今の慎士には分かっている。魂の奥底から生じる爆発的な力と記憶の数々が、全てを理解させていた。声の主が何者なのか、魔法少女とは何なのか、そして授かった力とは。こんな場面で無ければ衝撃の内容に開いた口が塞がらなくなっていただろう。

 けれど、今は驚いている場合ではない。今やるべきなのは、愛する人たちを守るために目の前の敵を倒す事。


「……ありがとう。あなたが遺した力、使わせて貰います」


 軽く大地を蹴り、分厚い黒雲に遮られた夜の空へと舞い上がる。身体から放たれる光は刻一刻と強さを増しており、解放の時を待ち侘び今にも弾けそうなほど。遠目から慎士の姿を見れば、まるで大陽が昇っているような光景にも見えた事だろう。

 けれどその表現は正しくない。これは天に昇るのではなく、天から降り立つ力なのだから。この光は善なる者を決して傷つけない、清浄なる輝きなのだから。


<救世天使化>(アドヴェント)――」


 授かった呪文を口にした瞬間、臨界を迎えた光が弾けた。分厚い黒雲を吹き飛ばすほどの閃光と衝撃が周囲を駆け巡り、それが過ぎ去った後には慎士の姿は様変わりしていた。

 焼け崩れていた魔法少女の衣装は光そのものにも似た純白の羽衣で彩られ、より美しく艶やかな物へ再生と進化を遂げる。背には身体よりも大きな純白の翼が展開され、頭の後ろには輝かしい光輪が顕現する。

 それはさながら羽化、あるいは少女から大人の女性への変貌とも取れるほどの劇的な変化。けれど最も相応しい言葉を当てるならば――継承と降臨。


「――<愛と美を支配する天使(ハニエル)>!」


 天使の力を受け継ぎ魔法少女から進化を果たした、新たな天使の降臨だった。


「す、すげぇ……」

「綺麗……」

「……推せる」


 繋がった思考から驚愕と感嘆の意志が伝わってくる。魔法少女を上回る更なる次元の姿が存在した事への驚愕、そして実際に天使へ昇華した慎士への畏敬の念が流れ込んでくる。

 しかし慎士が真なる力を解放出来たのは、他ならぬ彼女たちのおかげだった。彼女たちの存在が無ければ、近付きたいと願う眩しい姿が無ければ、彼女たちに恋い焦がれていなければ、きっと天使へと至る事は出来なかったから。


「その醜悪極まる忌々しい光……見紛うはずもない! それは天使の力だな!? 天使は全て我らが滅ぼしたはずだ! 何故貴様がその力を持っている!?」

「確かに天使たちはお前によって滅ぼされた。けれど全員じゃない。生き残った天使たちは、志半ばで破れ命を散らした天使たちの意志と魂を、ボクらへと継承したんだ。魔法少女の力として」


 凶悪に表情を歪めたラムスへ、そして眼下の魔法少女たちへとその真実を伝え聞かせる。

 魔法少女へ変身するためのアイテム――その正体は魔王との戦いに敗れ死を迎えた天使たちの魂。魔法少女とはそれを取り込み力を借り受けていた、言わば代行者だったのだ。

 しかし最早慎士は力を借り受けてはいない。魂のみの存在となっていた天使に認められ、全てを受け継ぎ完全なる融合を果たした。沸き上がる力は魔法少女の時とは比較にもならず、美しい翼は軽く羽ばたくだけで天を越えられそうなほど。一種の全能感すら覚えるほどに力が漲り、輝かしい光が溢れていた。


「おのれぇ! 下等な鳥類共が、死しても我が覇道を阻むか!」

「覇道だって? 笑わせるな! 自分の欲望を満たすためだけに世界を滅ぼし虐殺を行う事を、崇高な目的のように語るんじゃない!」

「黙れ、下賤な鳥類の下僕が! たかがエセ天使風情一匹、魂すら残らぬほどに滅してくれる!」

「やれるものならやってみろ。ボクは負けない。大切な人たちを守るため、大切な人たちが住む世界を守るため、そして――この胸に宿る愛のためにも、絶対に負けない!」


 お互いに全力と意志を解放し、慎士はラムスとぶつかりあった。互いに背に広げた翼で自由自在に宙を舞い、複雑な軌道を描きながら激しく斬り結ぶ。ラムスは極限まで凝縮された闇の剣を振るい、慎士は鏡の剣を手にして。打ち合う度に光輝と暗黒が衝撃波と共に周囲へ弾け、月夜の空を花火の如く彩る。

 魔法少女だった頃は柘榴(ざくろ)の魔法で全員と思考を繋げ、藍の援護を受けてもなお攻めあぐねていた。けれど真の力に覚醒した今は違う。徐々にだが明確に、慎士がラムスを押していた。


「何だ、この力は!? 何故エセ天使に本物を上回るほどの力が……!?」

「そんな力は無いさ。ただボクは、お前を殺すために一切の容赦をしてないだけだ」


 鍔迫り合いで押し込まれながら憎々し気に言い放つラムスは、明らかに勘違いをしていた。

 慎士は天使ハニエルの力を完全に受け継いだが、あくまでもただ受け継いだだけだ。彼を越える力を得たわけでも無く、むしろ沸き上がる力を持て余しており、完璧に御しているとは口が裂けても言えない。

 それでもラムスが本家を上回る力を感じているのは、ひとえに天使が善なる存在だったから。完全なる善良な存在であるが故、魔王とその軍勢を相手に殺す気で戦う事が出来なかったのだ。そのため天使たちの暮らしていた世界――天界は滅びを迎えてしまった。


「お前がいると、ボクの大切な人たちに危害が及ぶ。だからボクは、遠慮も容赦もしない。この力を使って、必ずお前の息の根を止めるっ!」


 けれど慎士は人間だ。人間は悪しき心と善なる心を持ち合わせる矛盾した存在。

 だからこそ、敵を殺すために善なる力を振るう事に躊躇いは無かった。愛する人たちを守るためなら自分の命も差し出せる以上、護るために殺す事を躊躇などしようはずも無い。


「ほざけ、エセ天使がっ! ならばそいつらから先に片付けてくれるわ!」


 鍔迫り合いを強引に打ち切ったかと思えば、その反動を利用してラムスは高速でその場を離脱した。一直線に向かうのは眼下で未だ回復を図っている藍たちの元。

 慎士との真っ向勝負が不利とみて、慎士の愛する人たちを殺す事で精神にダメージを与えるつもりなのだろう。善悪両方の心を持つ人間であるからこそ、悪辣な悪魔の思考も手に取るように分かった。


「死ねぇ――!!」


 音よりも早く飛翔し、暗黒の凶刃を振り被るラムス。一歩遅れた慎士は追いつけず、このままでは三人の命は儚く散ってしまう。

 だというのに、彼女たちは全く恐れてなどいない。迫る魔王に見向きもせず、跪き瞑目し意識を集中している夜刀(やと)。そんな彼女を<魔法>で癒し続け、再起を図る藍。二人の前に立ち書物型の<魔装>を手にし、迎え撃つように魔王を見据える柘榴。

 三人が三人、一切の恐怖も動揺も無く、自らの役割を果たそうとしていた。繋がった意識で呼びかけた通りの作戦を、深い信頼を以て欠片も疑わずに。

 慎士は全幅の信頼を置かれている事実に歓喜を覚え、同時に彼女たちの期待に応えたいと強く願った。そしてそれは決して難しい事ではない。自身の想いを解き放った慎士が最も強く望むのは、愛する彼女たちを護る事なのだから。


「絶対にやらせない。彼女たちは、ボクを救ってくれた人たちだから。かけがえのない人たちだから。今度はボクが、絶対に護る――<愛と憧れの二重結界アイビー・ストレリチア>!」


 心の底から叫び、自らの<魔法>を行使する。

 つい先ほどまでは何が起こるか分からず、使う事は出来なかった。けれど今は違う。愛する資格が無いと封じていた想いを解放した今、慎士の<魔法>は守護の力となって愛する人たちを包んでいた。


「ぬっ!? 我が一撃を弾く、だと……!?」

「――今」


 柘榴の身体を包む緑に発光する球体が、凄まじい強度で以て剣戟を弾き返す。全ての勢いを一閃に込めていたラムスは衝撃でのけ反り、慎士を信頼して防御も回避も捨て隙を伺っていた柘榴がそれを見逃すはずも無い。自らの<魔装>のページをあらん限り飛ばし、大量の紙片をラムスめがけて殺到させた。


「ぬ、くっ!? おのれ、どこまでもふざけた真似をっ!?」


 風に煽られ舞い散る木の葉が張り付くように、次々とラムスの顔を覆い尽くしていく。

 幾ら<魔装>とはいえ薄い紙片に過剰な耐久性があるわけもなく、所詮はただの目隠しにしかならない。だが繋がった思考で高度な連携を繰り出せる慎士たちの前では、それはあまりにも致命的な隙だった。


「――最大出力、くらいやがれっ!」


 軽やかにその場を飛び退いた柘榴と入れ替わりに、荘厳な青い光を拳に集中させた夜刀が前へ飛び出す。その輝きはまるで力強く光を放つ恒星の如き美しさであり、同時に破滅的な力を秘めた必殺の一撃であった。


<正義執行>(ヴァイス・ブレイク)!!」

「うぐっ、あああぁああぁあぁぁぁぁぁぁっ!?」


 夜刀の拳が炸裂し、ラムスを中心に青き光の柱が生じ天を穿つ。その光に飲み込まれたラムスはまるで火葬にかけられたかのように、喉が張り裂けんばかりの絶叫を上げていた。

 魔王に致命の一撃を与えた秘密は夜刀の<魔法>。彼女の<魔法>は『悪性特攻』。悪意を持つ者、あるいは悪意を秘めた物、それらに対する浄化にも似た特攻を持つ力。その真価は集中して力を溜める事により発揮され、悪意を秘めた物体なら一瞬で消し飛ばす事すら可能だ。夜刀はその力によって亜緒(あお)の首輪を爆発させる暇も与えず、塵すら残さず消滅させたのだ。

 そして悪意の塊とも言える魔王ラムスが、極限まで集中して力を溜めた夜刀の一撃を受ければどうなるか。それは青き柱の中で悶え苦しむ様子を見れば明らかであった。


「――ゆ、許さんっ! 絶対に許さんっ! 必ずいつか、貴様らを破滅させてやるっ! 貴様らの大切な物を全て蹂躙し、絶望の底に叩き落してから殺してやるっ!」


 這う這うの体で光の柱から抜け出し、大空へと舞い上がり撤退を図るラムス。その身体は衣装も含めてボロボロになっており、人外の美貌や威厳は見る影も無い。

 天使化した慎士が放つ光と降り注ぐ月光に闇を払われ、影を用いた移動が出来ないのだろう。自らの命を守るため、無様に負け犬の遠吠えを零しながら背中を見せて逃げ出すその姿は、いっそ哀れに思うほどであった。


「逃がさないぞ、魔王ラムス。お前の命は、ここで終わりだ」


 しかし哀れに思いこそすれ、慈悲をかけるつもりなど微塵も無い。

 悪意そのものとも言える魔王をここで見逃せば、必ずや慎士の愛する者たちに不幸が訪れる。そんな絶望の未来は絶対に受け入れられない。ならば欠片の容赦も無く殺す。愛する人たちを守るために。


<神器招来>デウス・エクス・マキナ――」


 鏡の剣を手放し、輝く月に手を向けその言葉を呟く。

 それは天使ハニエルより受け継いだ力の一端を具現する詔。神から授かった彼の<魔装>とも言える、神器の具現。


「――<星々瞬く夜(キルクルス・)空の三日月>(ラクテウス)

 それぞれの<魔装>と<魔法>(更新)


 ヘリオトロープ:鏡(反射)、絶対防御能力

 ホワイトリリィ:弓(何でも矢として放てる)、治癒能力

 プリムローズ:本(解析)、思考共有能力

 カンパニュラ:手甲(身体能力強化)、悪性特攻能力


 余談ですが主人公の新しい魔法はあくまでも「大切な人を護る」能力。なので仲間三人と妹しか対象に出来ません。要するに自分自身は対象外で相変わらず自己犠牲です。

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