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嘘塗れの魔法少女~本当は男で裏切り者です~  作者: ストラテジスト
第4章

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暗黒の帳

「うあああぁあぁああぁぁぁぁっ!!」


 殺到する黒炎を真正面から受け、慎士(しんじ)の身体が焼き尽くされていく。黒一色の世界でただひたすらに炎熱が身を苛む。

 正しく地獄のような責め苦。魂ごと塵になりそうな意識を必死に吠えて繋ぎ止め、背後に具現させる先から割れていく鏡を途切れぬように追加させていく。

 どう考えても身を挺した自殺でしかない行いだが、慎士の胸には凌ぎ切る事が出来るという確固たる自信があった。(らん)が自身の魔法で以て、慎士を癒し続けているからだ。焼き尽くされていく身体は拮抗するように再生していく。

 しかし全身が燃え上がり塵となっていく苦痛そのものは消えない。加えて視界すらも黒炎に覆われた黒一色の世界は、あの心地良い闇の中を想起させ思わず意識を手放してしまいそうになる。


『――負けないで、ヘリオトロープちゃん!』

『もう少しだけ耐えろ! 俺らももうすぐそこに着く!』

『頑張って、ヘリオトロープ……!』

「おおおぉぉおおあああぁあぁっ!!」


 けれど繋がった思考から流れ込んでくる声援が、慎士の心を奮い立たせる。

 信頼のおける仲間たちの声に自分を取り戻し、甘美な闇への誘惑を断ち切ってひたすらに抗う。何よりここで慎士が倒れれば、黒炎は背後の藍を襲うのだ。恩人であり憧れの人を傷つけさせる事など、到底許せる事では無かった。


「――はあっ……はあっ……!」

「馬鹿な、この炎を凌ぎ切るだと……!?」


 永遠にも感じる時間が過ぎ去り、やがて景色が晴れて狼狽するラムスの姿が目に入る。

 幾ら<魔法>で負傷を即座に治癒できるといっても、これに耐えるとは思っていなかったのだろう。いっそ恐怖でも感じたかのように一歩後退り、直後に自身が後退した事に気が付き屈辱を味わったのか、唇を噛んで憎々し気に睨みつけてきた。


「……お怪我はありませんか、ホワイトリリィさん?」

「う、うん……でも、ヘリオトロープちゃんは……」

「平気です。このくらいの痛み、今までの苦しみに比べれば蚊に刺された程度にも感じませんよ」


 申し訳なさそうな声と思念に強がって見せるも、思考が繋がっている故に慎士が感じた苦痛は全員の知る所。加えて丈夫で並大抵の攻撃では傷一つつかない魔法少女の衣装も、今やボロボロで半ば以上が焼け爛れている。見た目でも思考でも誤魔化しは一切通じない。

 強がりすらも許されないのはなかなか厳しいと思いつつも、本音で語り合える事を慎士はとても幸福に感じていた。


「それに、今のボクには信頼のおける仲間たちがいます。皆さんのためなら、ボクはどこまでだって頑張れます。それは皆さんも同じですよね?」


 そして今度は、紛れも無い本音を口にする。大切な仲間たちのためなら、どれだけ傷つこうとも立ち上がれる。そんな不屈の想いを思念に乗せて。


「――その通りだぜ、ヘリオトロープ! 仲間のために命を賭けるなんざ当たり前だっ!」

「左失礼」


 その気持ちに応えるように勇ましい声が轟き、慎士の隣に勢い良く降り立った。同時に静かな言葉と共にもう一人、ふわりと舞うように隣へ着地する。

 無論、現れたのはかけがえのない仲間たち。亜緒(あお)の首輪を解析し外すために別行動中だった夜刀(やと)柘榴(ざくろ)が、ついに魔王との決戦の場に辿り着いたのだ。すでに二人とも<魔装>を展開しており準備は万全。仲間を傷つけられて憤っているのが立ち居振る舞いと思念から伝わってきて、迸るような戦意に満ち溢れていた。


「さあ、これで魔法少女たちが集合だよ! 覚悟しなさい、魔王ラムス!」

「俺らの仲間を散々苦しめてくれた、その落とし前をつけさせて貰うぜ!」

「復讐は倍返しが基本。泣いて謝っても許さない」

「ボク達の絆の力で、絶対にお前を討つ!」


 全員が<魔装>を構え、繋がった思考によって意思を一つに束ねる。

 人数は四人。けれどその力は百人力を遥かに凌ぐ。何せ自分の全てを預けられるかけがえのない仲間たちと、思考を繋げて最高の連携を実現できるのだ。発揮できる力は何倍、何十倍にも膨れ上がる。

 最早魔王など恐れるに足らず。油断は欠片も使わってこないが、それでも誰一人恐怖を抱かず勝利を確信しているのがはっきりと伝わってきた。


「クッ! 四人もの魔法少女を同時に相手取るなど、魔王たる我もいよいよ年貢の納め時か……!」


 集った魔法少女たちの姿を前に、ラムスは青ざめた顔で吐き捨てる。慎士と藍の連携だけでも苦戦していたというのに、そこに今度は柘榴と夜刀が加わるのだ。自身があまりにも不利な状況に置かれている事を察したのだろう。

 ならばラムスは逃走を選ぶはず。その懸念と対策を繋がった思考でやりとりして、逃走の隙など与えず決着を付ける事を全員で決定した。故に慎士は大地を蹴って再び肉薄しようとして――


「――などと言うとでも思ったか?」

「何っ……?」


 今までの苦渋と屈辱に満ちた表情から一転、突如として余裕の笑みを浮かべるラムスに思わず足を止める。

 はったりかとも思ったが、それにしては無防備が過ぎた。魔法少女四人を前にしているというのに構えを解き、半ばから斬り裂かれたとはいえ獲物も手放し隙だらけの姿を晒していた。これには慎士たちもどうすべきか判断に迷い、心の中でせわしなく言葉を交わし対策を練る。


「我を討つ機会を逃さなかった。それは素晴らしい判断だ。だが貴様らは一つ、重大な間違いを犯している」

「間違いだとぉ? 全員でテメェを叩く事のどこが間違いだってんだ」


 夜刀が思わずといった様子で問いを投げかけるも、ラムスは答えない。しばしの間瞑目したかと思えば、次いで天を見上げ恍惚とも取れる吐息を零す。


「……今宵は素晴らしい夜だ。黄金の光を放つ煩わしい蛍光灯が漆黒のカーテンに覆い尽くされ、世界に闇が満ちている。我が魔界と同様とまでは言わないが、実に居心地のよい暗黒の世界だ」

「意味不明……」


 曇り空で月の光が遮られている事を称える言葉に、柘榴もまた思わずといった様子で口走る。

 しかし全員が同意見であり、ラムスが一体何を考えているのか分からなかった。慎士は気にせず斬り込む事も考えたが、何か途轍もなく嫌な予感を覚えて動けなかった。

 不思議な事にその予感は皆同じ。全員が全員、鳥籠の中に閉じ込められているような閉塞感と、心臓を鷲掴みにされているのに等しい血も凍る恐怖を感じていた。


「何故我が魔王にまで上り詰める事が出来たか。何故それほどの力を持ちながら、今まで表舞台に現れなかったか。貴様らはその意味をもっと良く考えるべきだった。特に我が目の前に現れる瞬間を何度か目にした貴様は、な。(かえで)慎士よ」


 名指しされ、慎士は即座に記憶をひっくり返しながら思考を巡らせる。

 ラムスが目の前に現れた瞬間は二回。寂れた公園での中間報告の時と、つい先ほどここに呼び出した時。前者は木の陰から現れ、後者は地面から湧き上がるように現れた。そこに共通する点は一見何も存在しない。

 けれどもし、慎士の認識が間違っているだけだとしたら。実際には別の方法でその場に現れたものの、慎士がそれを誤認しているだけだとしたら。その可能性に思い至った瞬間、繋がった思考を一つの最悪な予想が駆け巡った。


「――逃げろっ!!」

「気付くのが遅い。最早貴様らの命運は我の手の中だ」


 言葉と思考で全員に逃走を促した次の瞬間、ラムスが行動を起こす。

 行動と反応は確かに慎士たちの方が早い。しかしそんなアドバンテージを無意味にするほどの理不尽な現象が即座に巻き起こる。


「ぐあっ! なんだこりゃ!?」

「キモッ……」

「う、ぐうっ……!」


 その場から散開し逃走しようとしていた慎士たちは、突如として深海に放り込まれたかの如き重圧をかけられ動きを封じられてしまった。

 身体にまとわりつき自由を奪っているのは、自分たちの足元から伸びていたはずの影法師。驚くべき事にそれが地面から離れ、さながら蛇の如く蠢き絡みつき締め上げて来ているのだ。

 物理作用を持った影による拘束――それが慎士たちを戒めている力の正体だった。


「お、お前は……影を、操れるのか……!」


 自分の影に締め上げられる苦しさに足掻きながら、辿り着いたその予想を口にする。

 恐らくラムスは木の陰や地面から現れたのではなく、光に当てられた物体が形作る影から現れたのだ。そのような力を持っていなければ、自分たちの動きに従うはずの影が反逆を起こし、本体に害を成してくるなど説明が付かない。


「少し違うな。我が操るのは闇――暗黒だ。まあ貴様らからすれば同じようなものだろう」

「なっ……!?」


 そして返って来たのは、より絶望を煽る恐ろしき答え。影を操るのは余技でしか無く、その本質は影を内包する暗黒の支配。あまりにも魔王らしい力と詰みに近いこの状況に、慎士は愕然とする他に無かった。

 何故なら今は夜更けの時。そしてこの場は人気も無く閑散とした湖の畔であり、光源など儚い街灯が数本程度。加えて月が分厚い黒雲に覆い隠され、闇が周囲に満ちている。

 罠にかけたなどとんでもない。この場はラムスの掌の上も同じ。慎士たちは蜘蛛の巣に絡め取られた哀れな蝶々でしかなかった。

 次回は薄い本みたいな展開か……!?

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