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プロローグ


「――君には素晴らしい魔法少女になれる素質があるぴょん! だから魔法少女になって、魔界の悪魔や魔物たちからこの世界を護って欲しいぴょん!」


 夕焼けに染まる教室の中、デフォルメされたウサギのような生物がぴょんぴょん飛び跳ねながらそう言い放つ。

 怪しさ抜群のお願いをされた蒼伊(あおい)(かえで)は完全に困惑していた。とはいえ一般的に考えて、『魔法少女になって欲しい』などと口にする謎の生物がいきなり現れれば当然の反応だ。加えて楓にはそれ以外にも困惑を深める理由があった。


「え、あ、その……ま、待って下さい。魔法少女ですか? ボクがですか? このボクがなれるんですか?」

「もちろんだぴょん! 一目見た瞬間ビビッときたぴょん! 君は最高の魔法少女になれる! 間違いないぴょん!」

「え、えぇー……」


 確認の問いに対し返って来たのは、無駄に自信に溢れた非論理的な答え。これには楓も困り果ててしまい、視線を彷徨わせる。すると目に入ったのは、窓ガラスに写り込んだ小柄な人影。

 肩口まで伸びた癖の強い金髪と、清潔感のある緑の瞳が目を引く、見る者に柔和な印象を与える容姿。クラスで一、二を争う背の低さを誤魔化したい気持ちが現れたかのように、頭の天辺で存在を主張するアホ毛。それはため息が出てしまうほどに可愛らしい、女学院の制服に身を包んだ楓自身の姿だった。

 あまり見ていたくない姿なのですぐに視線を教卓の上の謎生物に戻すと、意を決して更なる問いを投げかけた。


「ちなみにですけど、魔法少女になれる条件って何ですか?」

「幾つかあるけど、さすがに魔法少女以外には教えられないぴょん。ただ一つだけ教えられるのは、清らかな乙女でなければいけないという事だぴょん」

「なるほど。清らかな乙女、ですか……」


 返って来た答えに安堵を抱き、平坦な胸を撫で下ろす。事情を知らぬ者からすれば、楓は『清らかな乙女』と認識された事に喜びを抱いている、と考える事だろう。

 しかし事実は違う。楓は『清らかな乙女』と認識されている事ではなく、『清らかな乙女しか魔法少女になれない』という条件に安堵を抱いているのだ。その条件なら、楓は間違いなく魔法少女にはなれないから。


「きっと君なら、全ての条件を満たしているはずだぴょん! さあ、君もこの<魔法少女変身アイテム(サンクトゥス・アニマ)>で魔法少女になって、この世界を護って欲しいぴょん!」


 謎の生物は虚空から光り輝く小さな球体を取り出し、どこか恭しく差し出してくる。

 それはピンポン玉程度の光球と、その周囲を幾つもの小さな光の粒が周回しているこれまた謎の物体であった。さながら原子核と電子、あるいは恒星とその周りを巡る惑星といった所。一般人の楓には全く感じられないが、莫大なエネルギーが秘められていそうなのは一目で分かった。


「ボクも魔法少女には大いに興味があります。彼女たちの事が大好きですからね。けれど自分が魔法少女になって命を賭けて戦うのは怖いです。なので――取引をしませんか?」

「取引だぴょん?」

「魔法少女になれるかどうか、試してみます。実際になれてしまったのなら、ボクは世界のために戦いましょう。けれどなれなかったのなら、二つくらいで良いので魔法少女になれる条件を教えて頂けませんか? ファンとして、その辺りの事が気になるんですよ」

「むーん……それは、困るぴょん。けれど、最高の才能を見過ごす事が出来ないのも確かだぴょん……」


 その提案に対し、謎のデフォルメ兎は難しい顔をして唸る。

 楓は流れるように口にしたが、本当は魔法少女に興味など無かった。別にファンでも無かった。しかし楓には魔法少女の情報を集めなければならない理由があったのだ。

 そして魔法少女になれる条件の一つが『清らかな乙女』である以上、楓は逆立ちしても魔法少女にはなれない。だからこその取引。こちらの勝ちが確定している出来レースであった。


「……分かったぴょん! その条件で良いぴょん!」


 よほど楓に期待しているのか、謎生物はしばらくして条件を飲んだ。思い通りに行った事に対する喜びと、酷い詐欺を働いた事実に胸を痛くしながらも、楓は努めて柔和な微笑みを作り浮かべた。


「ありがとうございます。それでは試してみましょうか。どうすれば良いんですか?」

「これを手に取って、自分の胸に押し当てるんだぴょん!」

「分かりました。それでは……」


 促されるまま、<魔法少女変身アイテム>を手に取る。見えないガラスで覆われているかのように掴めたそれを、まじまじと見つめた後にゆっくり胸に持って行く。

 その行為に何ら不安は無かった。『清らかな乙女』ではない楓は、絶対に魔法少女にはなれない事が分かっているからだ。

 だから何も問題は無い。むしろ何のリスクも無く魔法少女の貴重な情報を手に入れる事が出来る、万に一つの絶好の機会。これで魔法少女になれる条件を聞き出せれば、目的に向かって大きな一歩を踏み出せるのだから。

 そんな風にゲスな事を考え、同時にゲスな思考をしている自分自身に嫌気が差しながらも、楓は光球を自らの胸に押し当てた――

 プロローグだけだと短すぎるので、今回は第1話も投稿してます。基本的には1話5000文字前後です。

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