第1章 予期せぬ遭遇
リードからの任務を受け、レインはエルフの集落へと向かうことを決意した。影に潜むシャドウフォークにとって、森の中を通るのは得意なことだ。木々の影を利用し、敵の目を逃れながら進む術を幼い頃から身につけていた。
エルフの集落があるとされる森は、シャドウフォークの住む洞窟からそれほど遠くない場所に広がっていた。かつては人族との戦いで荒廃したが、今は自然が再び力を取り戻しつつあり、深い緑に包まれている。エルフたちはその自然と共生しながら静かに暮らしているという。
レインは影の中に身を潜めながら、慎重に進んでいった。森の中は昼間でも薄暗く、シャドウフォークにはうってつけの環境だった。だが、彼の心は少しばかり緊張していた。エルフとの接触が上手くいくかどうか、そして彼らがどのような反応を示すか、予測がつかなかったからだ。
数時間歩き続けた後、森の奥へと進んだレインは、徐々にエルフの集落が近づいていることを感じ取った。森の木々が高く、密集している一帯に足を踏み入れたとき、突然、足元に違和感を覚えた。
「ん…?」
レインは立ち止まり、足元を確認した。そこには異様な気配が漂っていた。地面がわずかに揺れているような感覚とともに、土の中から微かに音が響いてくる。何かがこの場所に潜んでいる――そう感じたレインは、即座に周囲の影を探り始めた。
「何かがいる…」
影のスキルを使って周囲の動きを探ると、地中に蠢く何かがいることに気づいた。しかも、それは一体ではなく、複数の存在がレインの足元を取り囲んでいるようだった。
突然、地面が大きく揺れ、レインの足元から無数の黒い触手が飛び出してきた。彼は即座に影の中へと身を潜め、触手から逃れようとしたが、その動きは予想以上に速く、逃れるのは容易ではなかった。
「これは…何だ?」
触手は地中から無数に伸び、レインを捕らえようと動き回っている。レインは冷静に対処しようとしたが、触手の数とその動きの速さに圧倒されていた。影の中に潜んでも、その触手は影の存在を感知しているかのように追いかけてくる。
「厄介だな…!」
レインは必死に逃げ道を探しながらも、触手の動きを観察した。すると、触手の根元が一か所に集中していることに気づいた。どうやら、これらの触手は地中に潜む一つの存在から伸びているらしい。
「そこか…」
レインは一か八かでその根元に向かって影を走らせた。触手が追いかけてくるが、彼はその速度に負けることなく、ついに根元にたどり着いた。地面の下に隠れていたのは、巨大な蠕虫のような生物だった。その体は黒く、まるで影そのものが具現化したかのような姿をしていた。
「こいつが…触手の正体か」
レインは影の力を使い、その蠕虫の体を押さえ込もうとしたが、驚くほどの力で抵抗され、押し戻された。さらに触手が増え、再びレインに襲いかかろうとしていた。その瞬間、レインの中に不安が芽生えた。ここで捕まれば、エルフの集落に辿り着くこともできなくなるかもしれない。
だが、その時だった。突然、蠕虫の体が震え始め、触手が動きを止めた。何かが変わった。レインはその変化を敏感に察知し、身を隠すようにして状況を見守った。
「何だ…?」
蠕虫は突然、苦しむように身を捩り始めた。黒い体が波打つように動き、ついには地面に崩れ落ちた。そして、その体の中から一筋の光が漏れ出し、瞬く間に森の中に広がっていった。
「これは…」
レインはその光に目を奪われた。何かが蠕虫の体内で起きている。しかし、その原因はレインにも分からなかった。光は次第に強さを増し、蠕虫の体を貫いて外に飛び出してきた。
「危ない…!」
レインはとっさにその場を離れ、近くの木陰に隠れた。光が爆発するかのように広がり、蠕虫の体が跡形もなく消え去った。残ったのは、静まり返った森と、地面に残るわずかな黒い痕跡だけだった。
「一体、何だったんだ…?」
レインは立ち上がり、慎重にその場に戻った。光が消えた場所には、ただ黒く焼け焦げたような跡が残っているだけだった。蠕虫が何者だったのか、そしてその光が何を意味していたのか、レインには分からなかった。
だが、彼はその場を立ち去る前に、黒い焦げ跡の中心に小さな石を見つけた。その石は微かに輝いており、まるで生きているかのように温かい。レインはその石を手に取ると、不思議な力を感じた。
「これは…ただの石じゃない」
レインはその石を慎重に観察したが、何もわからなかった。しかし、この石が重要なものだという直感が彼を捉えて離さなかった。
「とにかく、今はエルフの集落に急ごう…」
石をポケットにしまい、レインは再び影の中へと身を潜めた。蠕虫との遭遇は不気味で、謎めいた出来事だったが、今は任務を優先しなければならない。彼はその場を後にし、エルフの集落へと向かった。




