カリンからの指令
レインは、カリンたちがなぜ自分たちが領主に会いたがっていることを知っているのかを問いただした。カリンは少し言葉を濁しながらも、「この領地での噂はすぐに広まるの」と言い、具体的な情報源を明かすことは避けた。しかし、レインの問いに応える態度から、ただの好奇心や偶然ではなく、何らかの目的があることが見て取れた。何かを隠している――そんな疑念がさらに強まるが、今はそれを追及する時ではないと判断し、次に話題を移した。
カリンから提示された条件は、ドワーフ領内で暗躍する密輸組織を壊滅させることだった。密輸はドワーフ領でも大きな問題となっており、特に武器や技術の密輸が原因で領主の信頼を揺るがしていたらしい。「この密輸組織を一掃できれば、領主もあなたたちに会う気になるでしょう」と、カリンはさらりと告げた。
その内容の厳しさにレインは一瞬たじろいだ。普通に考えれば、これは到底成功しないような任務だ。しかし、彼には影を操り隠密行動を得意とするスキルがあった。自分の能力を最大限に活かせば、不可能ではないと考えた。問題は、カリンたちが自分のスキルを知らないことだ。この情報を彼女たちに開示することは、今の段階では避けるべきだと直感的に感じた。
「それで、どうだい? この条件、飲むかどうかは君たち次第だが、他に領主に近づく方法はないと思うよ」と、カリンは無邪気な笑みを浮かべながら言ったが、その目には鋭い観察力が宿っていた。何かを見透かそうとするかのような視線を感じたレインは、わずかに息を呑む。
だが、ここで後退するわけにはいかない。レインは冷静さを取り戻し、無表情を保ちながら、静かに頷いた。「…分かった。その条件を飲もう」と、しぶしぶ条件を受け入れることを決意した。
エリスに対しても、自分のスキルを悟られないよう、慎重に動かなければならない。彼女はすでにレインに信頼を寄せているが、すべてを明かすことはまだ早い。レインは決意を固めた。
カリンたちと別れ、夜の街を歩きながら宿に戻る。エリスはすでに待っていた。ドワーフの領地での滞在がすでに数日にも及び、焦りが募る中、エリスは自分を信じてくれている。だが、この計画のすべてを打ち明けることは、今はまだできない。そんな心の葛藤が、レインの胸に渦巻いていた。
宿の扉を開けると、エリスがベッドに腰掛けて待っていた。彼女の穏やかな表情に、少しだけ心が安らぐ。「遅かったね。カリンたちと何かあったの?」と、エリスは問いかけるが、レインは曖昧な笑みで応えた。「いや、ちょっとした話し合いがあってな」と言って話を打ち切る。
エリスには何も悟られていない様子だったが、その鋭い観察力を侮るわけにはいかない。心の中で、より慎重に行動することを誓い、明日からの作戦の準備を進めることにした。
夜が更け、エリスが眠りについた後、レインは静かに窓辺に立ち、外の闇を見つめた。影の中に潜む力を意識しながら、これからの厳しい戦いに備えて心を落ち着ける。自分にはその力がある――それを信じて、何とかこの難題を乗り越えなければならない。




