カリンとの密会
カリンとの再会から数日が経過した。しかし、レインとエリスはどこか落ち着かない気持ちを抱えたままでいた。
それというのも、カリンの存在がどうも不可解だったからだ。彼女は最初の訪問以来、頻繁に顔を出すようになった。街中での買い物中や、宿での食事中、さらにはエリスと散歩している最中でも、カリンとばったり出くわすことが何度もあった。最初は偶然かと思っていたが、その頻度が次第に増していくにつれ、レインの中には一抹の不安が芽生え始めた。
「エリス、あのカリン…僕たちを監視しているんじゃないか?」食事を終えた後、宿の部屋に戻ったレインはエリスにそう問いかけた。
「監視?…まさか、カリンが?」エリスは少し驚いた様子でレインを見つめ返した。「でも、確かに最近やけに会うことが多いわね…」
エリスも、何か違和感を感じている様子だった。二人はしばらく黙り込んでしまったが、レインは頭の中で様々な可能性を巡らせていた。カリンが、エリスの昔の友人であることは事実だ。しかし、それでも彼女が何か隠しているのではないかという疑念が拭えなかった。
その夜、レインとエリスがいつものように宿で過ごしていると、ドアの隙間から一枚の紙が滑り込んできた。レインがそれを拾い上げ、中を確認すると、見覚えのある筆跡が目に入った。
「レインさん、今晩、領土のそばにある古い工房でお話ししたいことがあります。あまり人目につかない場所なので、静かに来てくださいね。エリスお姉さんには内緒です。カリン」
レインはその手紙をじっと見つめた。不安が頭をよぎる。カリンは何か重要なことを知っているのだろうか?それとも、この手紙には何か別の意図があるのだろうか?手紙の内容はシンプルだったが、「人目につかない場所」という言葉が気にかかった。
エリスに知らせるべきか迷ったが、彼女の旧友であるカリンのことを考えると、無下にするのも気が引けた。「とにかく、行ってみるしかないか…」レインはそう決断した。
翌晩、レインは手紙の指示に従い、指定された場所へと向かうことにした。領土の外れにある古い工房――それは、かつてドワーフ族が道具を作るために使っていた場所らしく、今ではすっかり使われなくなった廃墟のような建物だった。
夜の風が冷たく、静寂があたりを包んでいた。レインは一歩一歩、慎重に工房に近づく。窓は割れ、壁は所々崩れ落ちていて、長い間手入れがされていないことが見て取れた。中に誰かがいるかどうかはわからなかったが、レインは警戒しながら扉を開けた。
中に入ると、薄暗い空間に三つの人影が見えた。中央にはカリンが立っていて、その隣に二人のドワーフ族の男性がいた。彼らはカリンと同じように小柄で、重厚な革の鎧を身にまとっていた。武器こそ持っていないようだったが、その鋭い視線からただ者ではないことがうかがえた。
「カリン…」レインは彼女に向かって声をかけたが、カリンはいつものような無邪気な笑顔を見せず、むしろ少し緊張した表情を浮かべていた。
「レインさん、来てくれてありがとうございます〜」カリンは柔らかい声でそう言ったが、その語尾を伸ばす話し方にもどこか力が感じられなかった。
「君、何をしてるんだ?この二人は誰なんだ?」レインは周りの二人のドワーフに目を向けながら尋ねた。カリンの表情は曇り、少しだけ躊躇した後、ゆっくりと口を開いた。
「実は…この人たちは、私が頼んで一緒に来てもらったんです〜」カリンはそう言いながら二人を紹介した。「彼らは私の仲間で、領主様の護衛をしているんです〜。実は、レインさんとお話ししたいことがあるんですけど、少し…内密にしたかったので」
「内密に?」レインはその言葉に眉をひそめた。「それはどういう意味だ?」
カリンは少し戸惑いながら、ぽつりぽつりと話し始めた。「レインさんがシャドウフォークの人だってことは知ってます〜。でも…そのことが、領主様にとってあまりよくないことだって思われてるみたいなんです〜」
レインはその言葉に驚いた。「どういうことだ?僕がシャドウフォークだから問題があるのか?」
「うん…そうみたいです〜」カリンは悲しそうに目を伏せた。「エリスお姉さんのことは領主様も大歓迎なんですけど、シャドウフォークの人は…少しだけ警戒されてるんです〜。だから、レインさんが領主様に会うためには、ちょっと特別な方法が必要だと思うんです〜」
レインは黙ってカリンの言葉を聞いていた。彼女が何かを隠しているのではないかという疑念は、ますます強まっていった。カリンは本当に無邪気に見えたが、その背後に何か大きな秘密が隠されているのかもしれない。
「それで…僕にどうしろって言うんだ?」レインは緊張した声で尋ねた。
カリンは一瞬、言葉に詰まったが、やがて「今度の夜、領主様と会えるように手配します〜。でも、そのためには…少しだけ条件があります〜」と不安そうに答えた。
その「条件」が何を意味するのか、レインにはまだわからなかったが、事態は確実に進んでいることだけは確かだった。




