門番と人族とのゴタゴタ
ドワーフ領に滞在して4日が過ぎた。レインとエリスは、到着翌日からドワーフ領主へのアポイントメントを取ろうと試みていたが、領主のスケジュールが詰まっているため、取り合ってもらえない状況が続いていた。焦りが募る中、シャドウフォークの集落に迫っているであろう危機のことを考えると、心の中に不安と苛立ちが渦巻いていた。
「どうしよう…」レインは宿の部屋で悩みながら、目の前に広がる書類の山を眺めた。領主への面会を申し込むために送った書類の中には、何度も訂正が施され、見た目以上に膨大な数があった。これが全く無駄に終わるのではないかという恐れが、彼の心に重くのしかかっていた。
その頃、エリスは街の市場で買い出しをしていた。彼女は新鮮な食材や生活必需品を揃えるために市場に出ていたが、その合間に何とか領主に会えないかと考えていた。彼女は市場の喧騒に混じりながら、商人たちと取引を進め、手際よく買い物を進めていた。しかし、どこか焦りの色が見えた。
突然、市場の入り口から騒がしい音が響き渡った。エリスはその音に引き寄せられ、周囲を見渡した。門の方で人々が集まっているのが見え、興味を持った彼女は急いでその方向へ向かった。
「どうしたの?」エリスが門に近づくと、そこには人族の商人とドワーフの門番たちが激しく口論している光景が広がっていた。商人の声は高く、怒りに満ちていた。
「こんなところで何をしているんだ!我々の商人が通る権利を持っていることを知らないのか?!」商人の男性は声を荒げ、門番に詰め寄っていた。
「お前たちの権利など知らん!ここはドワーフ領だ。俺たちが通すかどうかは俺たちの判断だ!」門番の一人が強く言い返した。彼の顔には不快感と怒りが浮かんでいた。
周囲のドワーフたちもそれに巻き込まれて騒ぎが大きくなり、どんどんエスカレートしていった。エリスは事の顛末が気になり、周囲の人々と共にその様子を見守ることにした。人族とドワーフの間の緊張感が、ここでも顕著に表れていた。
「何か問題があるのか?」エリスは近くにいた商人の一人に尋ねた。
「どうやら、ドワーフと人族の間での対立がさらに深まっているようだ。この商人が通るための許可を求めているが、門番たちは全く取り合わない様子だ。」商人は息を切らしながら答えた。
「許可が下りないことで、商人たちが困っているのか…」エリスは考え込むようにしながら、事態の収拾がつかないことに苛立ちを感じていた。もしこのままでは領主に会うチャンスもさらに遠のいてしまう。
しばらくすると、門番たちは商人たちに対して強硬姿勢を崩さず、ますます怒鳴り合いが続くばかりだった。エリスはこの状況を見て、どうにか冷静に対処しようと心に決めた。
「これ以上騒ぎを大きくするわけにはいかないわ。何とかしてこの混乱を収めなければ…」エリスは心の中で自分に言い聞かせ、まずは冷静になろうとした。しかし、門の前での騒動が収まる気配は全くなく、事態がさらに悪化するのではないかという不安が募っていった。