ドワーフ領地内へ
ドワーフ族の領地に到着したレインとエリスは、重厚な石造りの門の前で足を止めた。巨大な門の前には二人のドワーフの門番が立っており、警戒心の強い目で二人を見つめていた。エリスが前に出て、自信満々に声をかける。
「私はエルフ族のエリス。ドワーフ族の領地に訪問するために来ました。」
門番のドワーフたちは、エリスの姿を見てすぐに反応した。エルフ族に対しての敵意や警戒心はないようで、彼女の顔を確認した後、特に問題なく通行を許した。しかし、レインがエリスの後に続こうとした瞬間、門番の目が一変した。
「そっちの奴は?」ドワーフの門番が鋭い声で問いかける。
レインは一瞬たじろいだが、気を取り直して口を開いた。「俺はシャドウフォークのレインだ。エリスと共に来た。」
その言葉が発せられた瞬間、周囲に微妙なざわつきが広がった。門番だけでなく、近くを歩いていたドワーフたちも振り返り、じろじろとレインを見つめる。その視線には疑念と警戒心が混ざり、露骨な反応を示していた。
「シャドウフォークだと?お前らは普段、こんなところに堂々と姿を現さないだろう。影に潜むってのが、そちらの流儀じゃないのか?」門番は眉をひそめ、じっとレインを見つめた。
確かに、シャドウフォークは隠密行動が得意で、表舞台に立つことは滅多にない種族だ。レインも自分が目立っていることを感じ、周囲の視線に不安が募った。彼の心の中で、影に隠れたいという本能が疼く。しかし、今回はそうもいかない。エルフ族の協力を取り付けた彼が、ここで怯んではならないと自分に言い聞かせた。
「俺はただ、エリスと共にここに来た。それだけだ。何も怪しいことはない。」レインは堂々と答えたつもりだったが、心の中での焦りが声に少し出てしまっていた。
「ふん…まあいい。お前が彼女と一緒なら、通してやる。」門番は半ば納得した様子で渋々通行を許したが、周囲の視線は相変わらずレインに集中していた。レインは額にじわりと汗が滲むのを感じながら、エリスに続いて門を通過した。
領地に入った後も、ドワーフたちの目はまだ彼に向けられていた。レインはその視線に押し潰されそうな感覚に襲われ、思わず周囲を気にしながら歩く。シャドウフォークは普段、こうした人前で目立つことを極力避けているため、堂々と歩くことに慣れていなかったのだ。
「ふふっ」と突然、エリスが横で笑い声を漏らした。彼女は笑顔を浮かべ、軽くレインの肩を叩く。
「あなた、さっきからすごくオロオロしてるわよ。門を通るときのあなた、まるで初めて外に出た小鹿みたいだったわ。かわいかったわよ、レイン。」
「なっ…!」レインは赤面しながら抗議しようとしたが、エリスの明るい笑顔に言い返すこともできず、言葉を詰まらせた。自分が注目を浴びて焦っていたのは事実だし、彼女にからかわれるのも無理はない。だが、エリスが楽しそうに自分をからかう姿は、どこか愛らしく、そして憎めないものだった。
「お、お前がそうやって笑うから、余計に落ち着かないんだ…」レインは恥ずかしさを隠すようにぼそっと言ったが、エリスは肩をすくめて笑ったままだ。
「でも本当にかわいかったわよ。そんな姿も悪くないわ。」
その無邪気な言葉に、レインはさらに赤面した。エリスは彼をからかうつもりだったのだろうが、その言葉はどこか温かみを持っていた。彼女の無邪気な笑顔が、緊張していたレインの心を少しほぐしてくれたようだった。
それでも、レインはシャドウフォークとして、こんなにも注目を浴びることに慣れていないことを改めて実感し、自己嫌悪を感じずにはいられなかった。
その後、二人は宿を探すことにした。石造りの街は堅固で無骨な印象を受けるが、宿屋は意外にも温かみがあり、居心地の良さそうなものがいくつか見つかった。
「ここにしましょう。」エリスが指差したのは、小さな木製の看板がかかった宿だった。二階建てで、窓からは暖かそうな明かりが漏れている。レインはエリスの後に続き、そっと扉を開けた。
宿の中は温かみのある照明に照らされ、木製の家具や装飾が素朴な雰囲気を醸し出していた。エリスは満足そうに微笑みながら宿の主人に声をかけ、部屋を取る手続きを済ませた。
「さあ、ここでしばらく休んで、明日からのことを考えましょう。」エリスは満足げに言った。
「そうだな…」レインもようやく一息つき、落ち着きを取り戻しつつあった。宿に入って、ようやく周囲の視線から解放されたことで、彼も少しリラックスできるようになったのだ。