人族の襲撃、レイン無力さの再認識
朝の冷たい風が吹く中、レインとエリスはドワーフ族の領地に向けて移動を開始した。空はまだ薄暗く、太陽は山の向こうに隠れている。周囲には静けさが漂い、時折、風に揺れる草木の音だけが響いていた。二人は言葉少なに歩き続けていたが、どこか緊張感が漂っていた。
突然、草むらの影から数人の人影が現れ、レインたちを囲むようにして現れた。見るからに粗野な集団で、人族の兵士たちのようだった。彼らは鋭い目つきでレインとエリスを睨みつけ、抜刀してこちらに迫ってきた。
「またか…!」レインは思わず歯を食いしばり、影を使って素早く姿勢を低くした。エリスもすぐに弓を構え、冷静な表情で敵の動きを見据えていた。
「エリス、行くぞ!」レインは自信満々に影の力を使おうとするが、内心は焦っていた。前にエルフ族を救った時のように、うまく立ち回れるかどうかが不安だった。しかし、今はそれを考えている時間はない。彼らを倒さなければならない。
エリスが最初に動いた。彼女は矢を素早く番え、一瞬で二本の矢を同時に放つ。矢は正確に敵の隙をつき、二人の兵士が倒れた。彼女の動きは優雅で洗練されており、まるで風と一体化しているかのようだった。矢を放つたびに、敵の動きが鈍くなり、次々に倒れていく。
「さすがだな、エリス…」レインは彼女の戦いぶりに感心しながらも、自分も何かしなければと焦っていた。彼もまた影を駆使して敵の背後に回り込もうと試みたが、影の中に潜んでいる間に敵はすぐに別の方向へ移動してしまう。何度か試みたものの、思うように敵の位置を把握できず、攻撃のタイミングを逃してしまった。
「くそっ…!なんでうまくいかないんだ!」レインは心の中で叫びながら、もう一度影のスキルを試した。影を刀のように伸ばし、敵を捉えようとしたが、今度も相手の動きに翻弄され、思ったよりも影を操る力が鈍く、攻撃が空を切った。
焦りが募る。レインはさらに別のスキルを使おうと影を動かすが、攻撃が失敗するたびにイライラが増していく。エルフ族を救った時のようにうまく立ち回れるはずだったのに、今回は何もかもがうまくいかない。自分の無力さに胸が締め付けられる。
「こんなはずじゃない…」レインは自分の影のスキルを再度試みるが、何もかもが空振りだ。隠密行動は得意なはずなのに、戦闘となるとうまく立ち回れない自分に苛立ちを感じていた。自分は最弱の種族、シャドウフォークだという現実が重くのしかかる。
その間にも、エリスは冷静に戦い続けていた。彼女は敵の動きを一瞬で見極め、的確に弱点をついて攻撃を加える。その弓の技術は見る者を魅了し、彼女が一度も無駄な動きをしていないことが明らかだった。
レインは必死に戦おうとしたが、あれこれと試みるうちに、戦場の空気が急に変わったことに気づいた。彼の目の前には、倒れた敵兵士たちが無残に横たわっており、すべてが終わっていた。
「え…終わったのか…?」レインは目を見開き、周囲を見渡す。彼が苦戦していた間に、エリスはすべての敵を倒していたのだ。
エリスは静かに矢を収め、冷ややかな表情でレインの方を見た。「終わったわ。無事よ。」
レインはその言葉に胸が苦しくなった。自分の無力さを痛感していた。エルフ族を助けた時の自信が打ち砕かれ、最弱種族であるという劣等感が一層強まった。
「くそ…こんなことじゃダメだ…」レインは拳を握りしめ、悔しさを噛みしめた。
エリスはそんな彼の心情を察したのか、少し柔らかな声で言った。「あなたはシャドウフォークだけど、だからといって弱いわけじゃないわ。あなたのスキルは他の誰にもない特別なもの。それをもっと信じて、うまく活かすことを考えましょう。」
レインはその言葉に励まされながらも、心の奥底に深い葛藤を抱えたまま、静かに頷いた。