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旅の途中のひととき


レインとエリスはシャドウフォークの集落を後にし、ドワーフ族の領地を目指して静かな旅路を進んでいた。山岳地帯が近づくにつれ、道は険しくなり、周囲の景色も大きく変わっていった。目の前には切り立った岩肌が広がり、遠くには川が蛇行しながら流れている。昼間の強い日差しは、影を好むシャドウフォークには辛いものだったが、夕方になると少しずつ涼しくなり、旅の疲れも和らいでいった。


その夜、二人は小高い丘のふもとにテントを張り、野宿の準備を整えた。木々が風にそよぎ、遠くで鳥の鳴き声が聞こえる静かな夜だった。焚き火の暖かい炎が揺れ、火の音が心地よいリズムで耳に届く。レインは木の枝で火をかき回しながら、隣に座るエリスに目を向けた。


「エリス、君のことをもっと知りたいんだ。エルフ族としての生活って、どんな感じだったんだ?」レインは穏やかな口調で尋ねた。


エリスはしばらく空を見上げ、星々が瞬く夜空を見つめていた。やがて、柔らかな笑みを浮かべて話し始める。


「エルフ族の生活は、静かで穏やかなものよ。私たちは森の中で暮らし、自然と共存している。日の光や風、川の流れ、すべてが私たちにとって大切な存在なの。毎日、朝になると森を歩き、自然を感じながら過ごすのが普通だったわ。」


レインは興味深そうに頷いた。「自然の中での生活か。シャドウフォークとはまったく違うな。僕たちは影や夜に慣れているから、日の光が強いと少し疲れるんだ。」


エリスは少し微笑んで、レインの言葉に応えた。「そうね。エルフ族は光を大切にするけど、あなたたちは影を大切にしている。それもまた興味深いわね。」


「でも、食べ物とかはどうだった?」レインが続けて尋ねると、エリスは少し考え込んだ。


「食べ物か…私たちエルフ族は、森の恵みをいただくことが多かったわ。果物や木の実、そして自分たちで育てた野菜が主な食事ね。お肉も食べるけど、狩りはほとんどしないの。私は特にベリーが好きで、森に自生する小さな甘い果実はお気に入りだったわ。でも、逆にあまり好きじゃないのは…人族がよく食べる脂っこい料理かしら。ああいう重たい食事はちょっと苦手ね。」


レインは笑みを浮かべた。「ベリーが好きなのか。なんだかエリスらしいな。脂っこいものは確かにエルフ族には向かないかもしれないね。僕たちシャドウフォークはあまりこだわりがないんだ。生き延びるために何でも食べる感じかな。」


焚き火の火が一瞬強く燃え上がり、二人の顔を明るく照らす。風が少し冷たくなり、エリスはマントを軽く羽織りながら、焚き火に近づいた。


「あなたはどうなの?レイン。シャドウフォークとしての生活はどんな感じだった?」エリスが逆に問いかけた。


レインは少し考えてから答えた。「僕たちは影に隠れながら生きることが多い。目立たないように、でも常に情報を集めて、敵に備える。自由に外を歩くことは少ないし、いつも何かから逃げているような気がしていた。正直、今の僕は、エルフ族やドワーフ族のようにもっと堂々と生きたいと思っているんだ。」


エリスはその言葉を聞いて、少し驚いた表情を見せた。「そうだったのね。シャドウフォークが常に隠れながら生きているとは思ってもみなかったわ。」


レインは頷き、焚き火の炎をじっと見つめた。「でも、僕たちはそれが得意なんだ。隠密行動や影を操るスキルは僕たちにしかない強みだ。でも、それだけじゃ生き残れない。だから今、君やドワーフ族と協力して新たな力を手に入れようとしているんだ。」


エリスはその言葉に理解を示し、静かにうなずいた。「あなたの決意はよくわかるわ。だからこそ、私はあなたに協力することに決めたの。シャドウフォークの未来を切り開くために、私も力を貸すわ。」


焚き火がゆっくりと燃え尽きていく中、二人はしばらく沈黙を保った。夜風が冷たく、遠くの山々の輪郭がぼんやりと浮かび上がっている。旅の道中はまだ長いが、このひと時は心地よい安らぎを感じさせていた。


やがてレインは、ふと景色を見渡して言った。「この場所、静かでいいな。まるで世界から隔離されたような感じがする。」


エリスは微笑みながらその言葉に頷いた。「そうね。旅をしていると、時折こんな静かな場所に出会うわ。それは私にとっても特別な時間よ。普段は戦いや争いに身を置くことが多いけど、こんな時間を過ごすことで、自分を取り戻せる気がするの。」


レインはエリスの言葉に耳を傾けながら、自分たちのこれからの道のりを思い描いた。ドワーフ族との接触は容易ではないだろうが、彼女と共に乗り越えられるという確信があった。


「明日も早いな。休んでおこうか。」レインは立ち上がり、焚き火の残り火を慎重に消し始めた。


エリスは軽く頷き、テントに向かって歩き出した。「そうね。明日からが本番だもの。」


その夜、二人はそれぞれの考えを胸に秘め、静かな眠りについた。旅の途中で訪れる景色や風景は、彼らにとって次なる冒険への導きとなり、そして未来へと続く道を照らしているように思えた。

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