レインの演説、ドワーフ領地へ
レインは集落の中心に立ち、人々を見渡した。彼の背後にはエリスが控え、静かに周囲の様子を見守っている。シャドウフォークの住民たちは、レインがこれまでの冒険で成し遂げてきた偉業に期待を抱きつつも、不安の影が見え隠れしていた。彼らは、迫りくる脅威を感じながらも、それをどのように乗り越えるかの見通しが立っていないのだ。
レインは拳を固く握り、集まった人々に語りかけるために一歩前に出た。
「皆、聞いてくれ!」レインの声が静まり返った集落に響いた。「私たちは今、かつてないほどの危機に直面している。人族との緊張は日々増しており、私たちシャドウフォークがこのままでは滅びてしまう可能性すらある。だが、それに屈しているわけにはいかない!」
レインの力強い言葉に、人々の間からわずかなざわめきが起こる。彼はさらに言葉を続けた。
「私はエルフ族との協力を取り付けてきた。彼らの助けを得ることは、確かに我々にとって大きな力になるだろう。しかし、それだけではまだ足りない。人族に立ち向かうためには、さらに強力な同盟が必要だ。そして、そのために次に目指すのは…ドワーフ族だ。」
集落に再び静寂が訪れた。ドワーフ族という言葉に反応したのか、何人かの住民が驚いた表情を浮かべた。シャドウフォークにとってドワーフ族は遠い存在だった。彼らは山岳地帯に住み、鉄と石を扱う技術に優れ、戦闘においても圧倒的な力を持っている。しかし、その性格や文化はシャドウフォークとは大きく異なり、接触もほとんどなかった。
「ドワーフ族の協力を得ることができれば、我々はより強力な軍勢を築くことができるだろう」とレインは続ける。「彼らの技術と戦闘力は、人族と対等に戦うために必要だ。私はエリスと共にドワーフ族の領地へ向かい、必ず協力を取り付けてみせる。これは我々の未来を守るための重要な一歩だ!」
彼の言葉は徐々に集まったシャドウフォークたちの心を掴んでいった。エルフ族との協力という前例があることで、彼らの不安は少しずつ和らいでいく。そして、レインの決意に触発され、希望の光が少しずつ広がり始めていた。
「私たちシャドウフォークは、これまでずっと迫害され、影の中に生きてきた。しかし、今こそその影を武器に変える時だ。人族に屈せず、我々の未来を勝ち取るために、私は戦う!」
レインが拳を掲げると、集まった住民たちから力強い拍手が巻き起こった。彼らはそれぞれに不安を抱えながらも、レインの覚悟と決意に感銘を受け、次第に彼に信頼を寄せるようになっていった。
その様子を見ながら、エリスはふと過去の記憶に思いを馳せた。ドワーフ族――彼女にとって、それはあまり得意ではない存在だった。エルフ族とは性格や価値観が大きく異なり、特に自然を敬うエルフ族に対して、ドワーフ族は技術と力を尊重する。彼らの粗野な振る舞いや無骨な言動は、エリスにとって違和感を覚えずにはいられなかった。
だが、その中でもひとり、特別な存在がいたことを思い出す。彼女の名はカリン。かつて、エリスがまだ若かった頃、エルフの森に迷い込んだドワーフの少女だった。カリンは、他のドワーフとは異なり、無邪気で明るく、エリスともすぐに打ち解けた。エルフ族の間では、ドワーフ族との接触はあまり推奨されていなかったが、エリスはカリンと一緒に過ごす時間を大切にしていた。
「カリン…今どうしているのかしら?」エリスは心の中でつぶやきながら、再び現実に引き戻された。
レインは演説を終え、住民たちの前で深く一礼をした。彼の言葉が彼らにどれだけの力を与えたかは分からないが、少なくとも希望の灯火は再び灯ったように思えた。
エリスはレインの横に歩み寄り、静かに言葉をかけた。「レイン、あなたの言葉は皆に届いたわ。これで集落の人々も、私たちに希望を見出したはずよ。」
レインは微笑みながら頷いた。「ありがとう、エリス。君の支えがあったからこそ、ここまで来ることができた。」
二人はシャドウフォークの集落を後にし、再び旅の準備を整えるために動き始めた。ドワーフ族の領地へ向かう旅は長く、険しい道のりになるだろう。それでも、エルフ族との協力を取り付けたように、レインはドワーフ族とも新たな絆を築くために全力を尽くす覚悟だった。
「ドワーフ族の協力が得られれば、私たちは本当に人族に立ち向かえるかもしれない」レインは歩きながらつぶやいた。
エリスは彼の言葉に静かに頷いたが、心の中ではカリンとの再会があるかもしれないという期待と、ドワーフ族との交渉が順調に進むかという不安が交錯していた。ドワーフ族はエルフ族と異なり、合理的で実利的な考え方を持つ。彼らを説得するには、相応の準備と、確固たる目的が必要だろう。
「ドワーフ族はエルフ族のように感情では動かないわ。彼らは常に自分たちの利益を最優先に考える。あなたには難しい交渉が待っているわよ。」エリスは冷静にレインに告げた。
「わかっている。だが、私たちにとってもドワーフ族にとっても、人族の脅威は共通の問題だ。それを理解してもらうために、できる限りのことをするつもりだ」とレインは力強く答えた。