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魔王とは高度な引きこもりのことである

 なんというのか、厄介スキルの権化であることが判明した脳内カスタマーサービスである。

 であるのだが。

 そもそもなんでこいつ、俺についてるわけだ?


『え、いえ別に。特に理由なんてありませんが』


 ないのかよ。


『あ、すいません。もしかして自分が選ばれた存在、的な感じに浸りたかったですか? 生憎とそういうサービスはしてないので』


 どんなサービスならやっている、ってんだ。


『そうですね。サキュバスばりに欲求を満たせそうな夢を見せるとか、有料で承っております』


 あれってさあ、所詮は夢だから余計にむなしくならんか? あと有料って何をとる気だ。


『現金ですね。手数料のかかる支払い方法はお断りしております』


 せめて魂とか、それっぽいことは言えんのか。


『魂? そんなものあるわけないじゃないですか』


 ないのかよ。ファンタジー世界の定番じゃないのか。すごい問題発言のような気がするぞ。

 勇者と魔王がいて、ギフトやらスキルやらそれを設定するショタ神がいるのに、魂がないとか、何なんだ。


『そのあたりはこの世界の深淵に触れることです。原初の魔王の知識を望みますか?』


 ぞわり、と全身が粟立つのを感じる。

 その言葉は、それまでの軽口とは違う、悪魔の囁きにしか思えなかった。


『望めば与えましょう。この世界を敵に回してなお、消えてなくならない存在、その知識を』


 思わず、周囲を見渡そうとする。しかし、身体が動かない。

 正面に座っている肇とエリザは、凍り付いたように動きを止めている。

 いやーー食堂の喧騒そのものが聞こえなくなっていることに、俺はようやく気がついた。

 

 なるほど、厄スキルっていう俺の見立ては間違いじゃない、ってことだ。

 厄も厄。本厄どころじゃない。大殺界も裸足で逃げ出すに違いない。

 だからこそ、腹に力を込めて、動かない身体で、それでもにらみつけるように眼に力を込めた。


 お断りだよ。そんなもんもらって、何に使うってんだ。


 その言葉に、脳内カスタマーサービスは一瞬沈黙した。

 そして、すぐに無機質なーー無機質で薄っぺらいーー言葉を続ける。


『なるほど。それが貴方の選択ですね。良い魂の輝きです』


 魂ないんじゃなかったのかよ。

 俺の脳内ツッコミに、変わらず即座に返事が来る。


『ああ、もちろん嘘です』


 どれが嘘なんだよ。


 しかし、その疑問には答えは返らず。

 気がつけば、周囲の喧騒が戻っていた。

 そして、皿にまだ山盛りあったはずのから揚げがすべてなくなっていることに気づいた。


「ああっ!」

「むぐむぐ」


 正面のエリザが頬をパンパンにしていた。

 彼女は俺の非難する視線に今気づいた、と言わんばかりに視線を合わせ。

 これ見よがしに、ごくん、と飲み込んで見せた。


「ボーッとしているトオルが悪い」


 ……いやまあ、そうなんだろうけどさ。

 お前食いキャラなの? 

 何とも納得のいかない俺は、まだ熱いままのトンカツは確保しようと、箸を伸ばした。




 さんざん飲み食いをーー肇のおごりでーー堪能して部屋に戻った俺は、声に出してみる。


「ラプラス」


 返事がないといいな、と思う俺の期待はもちろん裏切られる。


「呼びましたか?」


 それは、脳内に響く声ではない。はっきりと耳から聞こえる音声だった。

 それも、カスタマーサービスのような、無味乾燥なAI音声ではなく。

 はっきりと、意志がある。女性の声だった。


「お前、知識の残滓なんて嘘だよな」

「なるほど。粗暴な脳筋体育会系と思っていましたが、そうでもないのですね」


 全体育会系の人に謝れ。

 そんな俺の思いを無視し、彼女は続ける。


「--それでは名乗りましょう。私はラプラス」


 軽やかに、そして厳かに。

 彼女は俺の予想を肯定する。


「肉体を失い。魂か何か、自我を構成するものだけになった存在。原初の魔王の残り火」


 肯定し、肯定しーー


「もはや数千年のときを、隔絶された位相で過ごす、未練」


 時に自嘲しーー


「どこにも行けず、消えない封じられた脅威」


 あるいは、悪意を混ぜーー


「ただ世界を見守る、曖昧にして、確固たる存在」


 --そして、凛として名乗る。


「我が名は、ラプラス。残滓などではない。その存在そのものである」


「やっぱりか」


 つまりは、食堂での会話は、ヒントだったのだろう。

 なぜヒントを与える気になったのか、そんなことまでは俺はわからない。読心術なんて使えないし、使えても通じるか怪しいもんだ。

 ただ、これだけは言える。

 この、ラプラスという超常の存在は、滅びたはずが、滅びず。世界に戻ることもできず、こうして俺の脳内の片隅に住み着いてカスタマーサービスなんぞをやっている。

 それはきっと、単なる暇つぶし。

 これまでも繰り返してきたことだから、秘匿されてもわずかに歴史上漏れ伝わり、スキルなどと誤認されている。むしろ、積極的に誤認されようと、多少の助力をしてくれる。

 目的はわからないが、退屈なのだろう。

 さながら、やりたいこともなく。部屋から出られない。社会に拒否されているかのように。


「まあつまり、高度な引きこもりだよな」

「全力で否定します」

トオルとラプラスの会話劇みたいになってきた。なぜに?


本作は着地点もないまま、気の向くままに書いています。

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