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居酒屋で喧嘩=出禁案件

 俺が現実逃避気味に脳内音声と会話していると、スキンヘッドの男は続けて尋ねてくる。


「新顔か?」

「まあな」


 相手の眼光は鋭い。背丈はそれほど変わらないが、筋肉量は俺より多い。

 そもそも、喧嘩慣れの度合いが全く違うだろう。

 それでも――舐められたら終わりだからな。


「今日からここに世話になることにした、トオルだ。よろしくな」


 俺は立ち上がり、応じるように睨みつけた。

 男はそれにニヤリ、と笑うことで応じてくる。

 ピリ、と空気がわずかにひりつくのを感じる。そして、相手の右手にいつか見た赤い光が灯る。

 それを認識した次の瞬間、俺と男は同時に動いた。

 男が右ストレートを放つ。筋肉が多いわりに、動きは速い。

 しかし、俺はそれがあらかじめわかっていたかのように、右腕を避ける軌道で半歩踏み込む。

 男と俺の背丈はほぼ同じ。つまりことで、俺が一気に有利になる。

 赤い光が、男の顎に灯る。

 全くそうだ。俺だってそこを狙う。

 喧嘩なんてずいぶんしていないが、それでも、したことすらないわけじゃない。

 そもそもバスケってのは、荒っぽいスポーツだ。

 気が弱い人間には向かない。それは、競技スポーツ全般に言えることかもしれないが。

 少なくとも、俺はそう思っている。

 いつからか、世の中にくたびれて、異世界転移だ転生だ、とわけのわからない妄想に縋っていたとしても。

 肘が痛くて、大好きだったバスケができなくなってしまっていたとしても。

 今、俺は何の因果かこうして異世界に転移している。

 まだ二日目だが、気に食わない腐れ縁の男とも笑って酒を飲めるくらいには、楽しんでいる。

 身体は若返って、十分に動く。

 今度こそ、俺は後悔しないように日々を過ごす。やりたいことをやる。

 まだ冒険者登録すら満足にできていなくても。

 与えられたギフトはクソギフトでも。

 こんなテンプレイベントで、舐められてつまずいてられるか、ってんだ。

 顎に灯った、赤い光が強くなる。

 そこめがけて、俺は下から突き上げるように拳を振るった。

 ごっ、と鈍い音を立てて男の顎が跳ね上がる。

 それでも、男は後ろに一歩ずれただけで、踏みとどまった。




 あれ? 無事か。普通なら脳震盪起こすところじゃないのか?

 さっきゆっくり時間が流れた気がするのも気のせい?


「テメエ」


 男の顔が怒りで真っ赤になる。

 腰の剣が抜かれる。店の灯を反射して、鈍く輝くそれは、包丁なんかよりもよほど斬れそうだ。

 

 ――まずい。まずいまずい。


 刃物を抜かれてしまっては、喧嘩では済まない。というか、一気に命の危険が迫っている感が尋常ではない。

 だが、ここでビビっている姿を見せたらそれこそ終わりだ。

 どうする?

 どうする?

 どうする?


「ぶっ殺してやる!」


 怒声とともに、男の剣が振るわれる。

 その、刹那。


『ラプラスの瞳、発動』


 声が聞こえた。

 声に押されるように、身体が動く。

 光ではなく、複雑な軌跡を描く、矢印が見えた。

 ここへ行け、こう動け。

 その矢印はそう言っているように見えた。



 わけがわからないまま、俺は声に、矢印に導かれるように夢中で身体を動かした。

 男の剣は拳と同じように空を切り、俺は相手の足を払う。

 面白いように態勢を崩した男の顎を、再びかち上げる。そこは、先ほどまでと寸分たがわない場所。

 ピキ、と何かが割れる音がして、男の身体が宙に浮き――

 ーーそのまま受け身も取れずに落ちた。

 

 ドサ、と男の身体が倒れ、俺はようやく、俺が男を倒したという事実に追いついた。

 気がつけば、俺は荒く息をしている。


「徹、お前こんなに喧嘩が強かったか? いくら身体能力が上がっているといってもだな」

「やっぱり、やるね。私の一撃をかわしたのはまぐれじゃない、ってことね」


 いつの間にか、戻ってきていた徹が呆れるような声を出し、逆にエリザは感心したように頷いている。


「いや、俺も何が何だか。途中からは夢中で……」


『元気があれば何でもできる』


 絶対違う。そうじゃない。元気はそんな便利なもんじゃない、って言ってるだろ。

 俺の脳内ツッコミに頷いてくれる人は一人もいなかったが、その代わりに、爆発するような歓声が響いた。


「やるじゃねえか兄ちゃん!」

「大型新人か!?」

「見ろよ、ヘグザのバカ、完全に伸びてやがるぜ!」


 突然起きた喧嘩騒ぎをむしろ楽しむように、周囲の男たちが盛り上がる。

 なんというか、これもテンプレ展開だよな。

 俺が苦笑いしながら、席につこうとしたとき――


「お兄さん、ちょっとこっち来なさい」


 宿屋の受付をしてくれたお姉さんが額に青筋を浮かべながら、手招きしてきた。

 あれ? 怒っている?

 

「アネッサは怖い。怒ると超怖い。そして、暴力沙汰が嫌い。謝ったほうがいい」


 心なしか青い顔をして、エリザがアドバイスにならない忠告をしてくれた。

 だが、もはや謝っても説教待ったなしな気がする。


「早く来ないと、出禁にするわよ」

「すぐ行きます。すいませんでした」

 

 容赦のない言葉に、俺は飛びあがって、額を地面にこすりつけることも辞さない覚悟で、アネッサの元に向かうのであった。

本作は着地点もないまま、気の向くままに書いています。

感想とかブックマークとか評価とかいただけると、やる気がアップします。


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