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19/22

から揚げとステーキと、どちらが美味いか決めるのは野暮というものだ

 赤猫亭――しつこいようだがラーメンはない――の食堂はそれなりに人気らしく、満席だった。

 客層の中心は、もちろん宿泊客の中心でもある、冒険者たち。

 流石に鎧を身に着けているものは少ないが、剣や杖など、それなりの武装を持ったままの人間が多い。

 ついでに言えば、なんというか荒くれものというか、そんな雰囲気を振りまく人間がかなり多い。

 喧騒に満ちたその中で、4人掛けの丸テーブルに三人で座る俺達。

 俺はいまだにスーツ姿で、浮きまくっていることこの上ない。

 向かいに座る肇は肇で、多分姫様から貢がれたのであろう上質な衣服を身にまとっているし、そもそも若返っているコイツは目立つ。顔面偏差値的な意味で。

 ちなみに衣服の質なんてわかるかよ、というのはどの服もそれなり以上のクオリティを誇る――品質過剰とも言う――日本だから言えるセリフであって、ある程度の質なんか見ればわかるものである。しかも、かなり露骨にわかる。

 そして、俺たちに挟まれるようにして座っているエリザが一番問題であった。ハーフエルフである彼女は、控えめに言っても美人であり、顔面偏差値を俺なんぞが図ることもおこがましいレベルだ。

 それだけでなく、この荒くれた雰囲気に全く違和感なく溶け込んでいる。それ自体に俺なんかは違和感を覚えるわけだが、周りの視線は違う。

 それは、羨望の視線だ。元銀級冒険者である、エリザへの憧れに満ちた視線。

 そして、その憧れの対象と食事を共にしている俺達への、嫉妬の視線でもある。


「いたたまれねえ……」

「慣れろ」


 視線の圧に思わず零れた俺の言葉を、肇はあっさりと切って捨てて、木のジョッキに入ったエールをあおった。

 俺も同じようにエールを飲む。

 これも異世界転移とかでは定番のシーンだろう。だが、味わいは日本で飲むビールと全く違う。

 それはビールの種類がラガーとエールで違うとか、そんなチャチものではない。

 まず、冷えていない。

 そのうえ、木でできているジョッキは飲み口も分厚く、油断すると口からこぼれそうになる。

 そもそも、なんか薄いし酸っぱい。


「これも、慣れろ、ってか?」

「そりゃそうさ」


 一口でジョッキをテーブルに戻して、八つ当たり気味に尋ねる俺に、やはり肇は当然、と頷いてくる。

 

「何といったって、異世界だぞ。ここは」

「あなた達にとっては。私達にとっては、これが普通」


 肇の指摘に反論するように、もしくは同意するようにエリザも被せてくる。彼女は特に不満もなさそうに、くぴくぴとエールを飲んでいる。

 あれ? というか、ペース早くない? エルフってお酒強いの?


『個人差があります』


 すごいどうでもいい疑問に答えるように、脳内で声が響いた。ちょいちょい出てくるな、お前。


『私が家で帰りを待つ間、あなたは飲み会ですか。いい御身分ですね』


 家ってどこだよ。というか、お前は俺の何なんだ。


『これまでこんなにも尽くしてきた私に向かってその言葉。DV亭主ですか?』


 んなわけあるか。というか、俺は異世界二日目な事をお忘れなく。

 などと、脳内音声(カスタマーサービス)に律儀にツッコんでいると、いつの間にかテーブルには大皿で肉が置かれていた。

 肉というか、あからさまにから揚げである。


「食べないの?」


 片手にエール、片手にフォークに刺したから揚げというワイルドなスタイルでエリザが尋ねてくる。

 肇ももぐもぐ、と咀嚼してはエールをあおっている。


「エリザはかなり食べるからな。なくなるぞ」

「失礼な。それに、なくなったら追加すればいい。金はある」


 エリザの男前すぎるセリフに、俺は思わず惚れそうになりながら――もちろん嘘だ――、から揚げにかぶりついた。

 ニンニクと生姜が効いた、以下にも酒のつまみという味に、俺は思わずエールをごくごく、と流し込んだ。

 やはり薄いし酸っぱいが、これはこれで悪くない。

 ファラ姫が出してくれたステーキも、もちろん美味かったのだが、そもそも俺は中流階級の人間である。こうした料理の方が食べなれている。

 気がつけばエールは空になっており、目ざとく気づいたエリザがお代わりを頼んでくれた。

 なお、本人はついでに4杯目を頼んでいる。

 会話の中身もそれほどない。悪くない、楽しい飲み会。

 相手が腐れ縁の肇だということは多少引っかかるものがあるが、こうした時間が過ごせるなら、明日からも頑張れるような――


 そんな気分は、残念ながら勘違いだったらしい。

 エリザと肇が二人してお手洗いに立った時、俺はそう理解した。


「お前、見ない顔だな」

 

 なんというか、ボディビルダーみたいな身体つきのスキンヘッドの男が、そう言って俺に絡んできたからだ。

 これも何というか、お約束というやつか。

 普通なら、ここでなぜか都合のいいギフトを持っている主人公はこういった手合いを圧倒するものだが――何もない俺はどうしたもんかね。


『ぶっ飛ばしましょう』


 それができる見込みがない、つってんだよ。


『いけますいけます。元気があれば何でもできる』


 できねえし、元気もないわ。

本作は着地点もないまま、気の向くままに書いています。

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