09.【開】の進化、新しい力で薬草拾いもサクサク
『条件を達成しました』
『職業【開】がLvアップします』
『新たなステータス権限が付与されます』
先輩冒険者に絡まれたあと……。
俺は初めてのクエストをするため、ウォズの郊外へやってきた。
「ヒラク様。どうして薬草拾いなんて、初心者向けのクエストを選んだのですか? ヒラク様のような選ばれし高貴なるお方がする仕事ではないと、私は思います!」
ミュゼがぷんすか怒りながら言う。
「ミュゼ、やったことないことを、やる前から見下すのはよくない」
「ですが……!」
「ふむ、では質問しよう」
俺は近くに生えてる草を2つむしって、ミュゼに見せる。
「この二つ、どっちが薬草か、おまえにはわかるか?」
「う……」
「わからぬだろう? そう、薬草と通常の草は見分けが難しいのだ。ゆえに、仕事として発注されてる。やる前からそうやって侮っていては、足を掬われるぞ」
「……! おっしゃるとおりですね! さすがヒラク様。たとえ高貴なる存在であっても、どんな仕事も侮ることなく、真摯に取り組むその姿勢。素晴らしいと思います!」
ふむ……まあもう俺は高貴なる存在ではないのだがな。
「それで、どちらが薬草で、どちらが草なのですか?」
「正解は、どちらも薬草だ」
「引っかけ問題だったのですね!」
「まあな。ただ、それほどまでに見分けるのが難しいということだ」
俺はふたつを、アイテムボックスに薬草をしまう。
「しかし……よく薬草とそうでない草の見分けがつきますね」
「俺には鑑定スキルがあるからな」
これを使えばその草が、薬草なのか、雑草なのか一発でわかる。
「すごいです、ヒラク様。あなた様にかかれば、難しい薬草拾いも楽々こなせるわけですね!」
「ふむ……これで驚かれても困るな」
「え、どういうことですか?」
俺は薬草に鑑定スキルを使う。
~~~~~~
薬草(E)
【状態】
品質(普通)
~~~~~~
「続いて、開錠を使う」
開錠。SPを消費して、他人のステータスに干渉するスキルだ。
ステータスの中にある、品質をタップする。
『薬草の品質を、どうしますか。以下より選んでください』
『品質の向上→中級薬草(C)(SP5消費)』
『品質の向上+→上級薬草(B)(SP10消費)』
『品質の向上++→最上級薬草(A)(SP20消費)』
俺はSPを20消費して、最上級薬草へと品質を向上させる。
「な、なんか薬草がキラキラ光り輝いています! こ、これは……?」
「最上級薬草だ」
「!? ふ、普通の薬草だったはずでは?」
「開錠で、薬草の品質をイジったのだ」
「薬草を、進化させたってことですか!? す、すごい……そんなの聞いたことがないですよ!」
ふむ、確かに俺も聞いたことないな。
SPがあれば薬草をレアアイテムにしてしまえるなんて。
「ヒラク様って、すること全部前代未聞ですね! 本当にすごいです!」
ちなみに俺のSPは、
・SP600→580
となった。
「こんな素晴らしい主に仕えることができて、私は幸せです!」
・SP580→600
どうやらミュゼと一緒に居ると、SPが定期的に増えていくようだ。
ふむ……報恩謝徳の効果なのだろうが、いったいいつ彼女を喜ばせてるのかわからないな……。
「でも鑑定スキルがあれば、薬草を簡単に見分けられても、集めるのがとてもめんどうですね」
「そこも問題ない」
俺は、地面に手を置く。
「地面に手などついてどうしたのですか?」
「つい先ほど、レベルが上がったらしいからな。ステータス」
俺の目の前に、ステータスが表示される。
~~~~~~
ウォズ近郊草原
【採取アイテム・一覧】
・薬草(SP5消費)
・小石(SP5消費)
・上薬草(SP10消費)
・
・
・
~~~~~~
「え、えええええ!? ふぃ、フィールドにもステータスがあったのですか!?」
「ああ。人間や、アイテムにもステータスがあった。なら、フィールドにもあるだろうと思って開いて見た。結果はこの通りだ」
俺はSPを5消費して、薬草を選択する。
ぼんっ、と俺の手の中に薬草が出現する。
「つ、つまり……SPを消費すれば、ステータスに表示されてるアイテムを採取できる……と?」
「そうなるな」
無論ステータスに表記されてない(フィールドに存在しない)アイテムは、回収できない。
それに、これはあくまで回収をSPで肩代わりしてくれるだけ。
「ようは、フィールドからアイテムが消えたら、たとえSPがあっても回収はできないのだろう」
「なるほど! すごすぎます! 薬草などのアイテムを、いちいち拾わずとも、回収できるなんて! こんなの誰もできませんよ!」
ふむ、当然だな。
ステータス操作、そして開錠。
二つのスキルがなければ、こんな採取の仕方はできない。
【開】の職業をもつ、俺にしかできないやりかただ。
・SP 595→600
……またもミュゼを喜ばせたことで、報恩謝徳が発動し、SPが回復していた。
ミュゼは何をしても喜んでくれるな。
「ふむ?」
「どうなさったのです?」
「いや……フィールドのステータスを確認していたのだが……もう一つ項目があってな」
~~~~~~
ウォズ近郊草原
【モンスター・一覧】
ゴブリン
ハイゴブリン
灰狼
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・
・
~~~~~~
「これはどうやら、近郊に存在するモンスターを教えてくれるようだ」
「もう……何度も驚かされて、驚かないつもりでした。でも……やっぱりすごいです!」
「ふむ……む?」
~~~~~~
【モンスター・一覧】
フェンリル
~~~~~~
「……フェンリル」
あの伝説の獣、フェンリルが、近くにいるだって……?
ためしに、タップしてみる。
・フェンリルの位置(SP5消費)
・フェンリルの状態(SP5消費)
「位置と状態すら、SPを使えばわかるようだな」
「そ、そんな……! もう……すごすぎです!」
ミュゼが体をふるわせながら、俺にキラキラした目を向ける。
「ヒラク様って……もしかして全能の神さまなのでしょうか?」
「ふむ……? なぜそうなる……」
「今まで聞いたことも見たこともないことを、バンバンとやってのけてしまうのですから! これはもう……神じゃあないかと!」
「大げさだな」
それに俺は人間だ。
ただ力を持ってるってだけのな。
しかしフェンリルか……。
興味はあるな。本でしか読んだことないしな。
好奇心から、俺はフェンリルの状態と位置を調べた。
・フェンリルの位置→南西3キロ
・フェンリルの状態→瀕死
「ミュゼ。薬草拾いは一旦中断だ。フェンリルを助けに行くぞ」
「!? どういうことですか?」
「どうやらフェンリルは瀕死のようだ。助けねばならぬ。力ある者の、義務として」
ノブレス・オブリージュ。
この恵まれた力は、文字通り天より恵まれし恩恵。
その使命は多くの、か弱き者たちを救うために、授けられたもの。
目の届く範囲に、瀕死のものがいるのなら、助けなくてはいけない。
「なんと、高潔で素晴らしい精神のお持ちなのでしょう! 素敵です!」
「世辞はいい、急ぐぞ」
・SP 620→600→650




