72.憤慨する閃《ヒラメクモノ》
《【閃】Side》
……【閃】ことイリーナは、驚愕していた。
マギア・クィフ中央都市セントラル。
魔法城にて。
「ば、馬鹿な……ありえない……! 【開】ならまだしも、雑魚魔法使いどもが、実験体を討伐してるですって!?」
イリーナの前には水晶玉が浮かんでいる。
そこには、遠く離れた場所……東の都市イースタルが映し出されていた。
イースタルの都市を守るよう、強固な結界が張られている。
鳥形の実験体たちは、その結界の内部に入れないで居る。
また、内側から、魔法が放たれ、実験体たちを次々倒して言ってるのだ。
「そ、そんな馬鹿なことがあるものですか! 実験体は強化魔人ほどではないにしろ、それでも並の魔物よりは遥かに強い! Sランク冒険者だって手こずるような化け物ですよ! それを……モブどもが倒すなんて……あり得るわけがないのです……!」
イリーナはがりがり……と頭をかく。
第一高校の魔法使いたちが放つ魔法は、どれも強力な物ばかりだ。
「あの魔法使いども、前は雑魚でしたのに、あいつが来た途端に強くなるなんて……。くっ! 【開】……なんてすごいのです……」
かつてイリーナも、アーネット同様、魔法学校にて研究を行っていた。
つまり学生たちとは仲間であるはず。
だというのに、【閉】によって記憶を改ざんさせられたイリーナは、子供たちを馬鹿にしてる。実力を下に見ているのだ。
というより……。
「強化魔人は、私【だけで】作った最高傑作! 愛しい【閉】さまも褒めてくれた! それが……あんなのに負けていいはずがないのだ!」
【閉】の力によって、イリーナの中では、トザースこそが全ての価値観の頂点にあると思ってる。
トザースが認めた強化魔人(実験体だが)が、雑魚に負けることが許せないのだ。
それを認めた、トザースの価値を下げることになるから……。
「ふ、ふんっ! まあいいでしょう。せいぜい今は調子に乗ってるが良いです、【開】」
にやり……とイリーナがほくそ笑む。
「イースタルの魔人なんて、所詮は私が作り上げた作品のなかでは、最弱に入る部類! せいぜいそれに勝って浮かれてるがいいです!」
……先ほどから、イリーナのセリフの中に、魔人は自分で作ったというニュアンスが含まれている。
協力者である、アーネットのことを、すっかり忘れてしまっているのだった……。




