62.最新魔法技術で攻撃されても余裕で突破する
俺は中立魔法国家マギア・クィフへと潜入した。
円形を描く国土の東側、イースタルの町へとやってきてる。
レンガ造りのこじゃれた町並みが広がっていた。
かつては賑わっていただろう町が……今や、ゴーストタウンと化している。
「町の人たちはどこにいるのだ?」
「第一高校に集められて、強制労働させられているわ」
マギア・クィフにはいくつか魔法高校が存在する。
この東の町には、第一高校という大きな建物があるそうだ。
学生の学び舎を、牢屋のように使うなど……許せん所業だ。
「よし、では第一高校へ向かおう」
「大丈夫……? 第一高校は、セキュリティが凄いのよ? 学術施設だし、機密漏洩のために、魔法による侵入者防止トラップが結構仕掛けられてて……」
「ふむ。まあ、問題ない」
うんうん、とフレイたちがうなずく。
「父上さまはすごいから、トラップなんてへいちゃらです!」
「この世で最も力のある、最高のヒラク様にとっては、どんな障害も毛ほども苦労せず突破できることでしょう」
アーネットが「そうね……あなたほどの力があれば、いけるか」と言う。
「じゃあ……行きましょう」
町を歩いて行くと、やがて大きな湖が見えてきた。
あの湖の向こうに、古城がそびえ立っている。
「この湖を抜けないと古城に入れない仕組みになってるの」
空から進入したり、回り道して進入しようとすると、決して目的地にたどり着けないような、まじないが駆けられているようだ。
「でも……どうやってですかー?」
「普段なら船が出てるんだけど……」
湖に船らしいものは見当たらない。
恐らく平時なら、学校側が船を管理してるのだろう。
しかし今学校は敵に占拠されてしまっている。
俺たちに船を送ってくるわけがない。
「泳いで渡るのはどうですか?」
「無理無理。この湖にはいたずら好きなケルピーたちが住んでいるの。泳いだら足を引っ張られて、溺死するわ」
なるほど……。
状況は理解した。
「ステータス展開」
俺はステータスを操作する。よし。
「いくぞ」
「って、ちょっと! どうする気!?」
「湖を歩いて渡る」
「はぁ……? 凍らせるってこと? 無駄よ、ここの湖の水は魔法を中和する効果があるから、凍らせて渡るのも無理……」
ひょいっ。
てくてく……。
「えええええええええええええ!?」
「おまえたちも早く来い」
「「はーい!」」
フレイたちも俺のあとに続く。
湖の上を、普通に歩いていた。
「なんで!?」
「この湖のステータスを書き換えた」
湖の中という空間に、進入禁止の情報を書き換えた。
「空間……つまり水の中に人が入ることを禁じたのだ。結果、湖の上を歩けるようになった」
「わけわからないよ!!!!!」
「理解する必要は無い。いくぞ」
「あ、ちょ、ちょっとぉ!」
俺たちの後から、アーネットが着いてくる。
この調子なら簡単に進入できそうだな。
「湖を渡ったら、今度は魔導人形たちの銅像が建ち並ぶ、この通学路を進んでいく必要がある」
湖から城までの間、舗装された道が続いてる。
その脇に、たくさんの魔導人形が並んでいた。
間隔を開けて配置されており、手には武器が握られている。
「招かれてない人がここを通ろうとすると……来たわ!」
通学路に並んでいた魔導人形たちが動き出し、俺たちに向かって歩いてきた。
「魔導人形は魔法で動いてるわ。しかもこちらが攻撃しても、錬金の魔法で直ぐに欠損部位が補修される。魔力が尽きない限り永遠に襲ってくるわ。……どうする?」
「問題ない。ステータス展開」
「またそれ……いやさすがにステータスをイジったところで、あの数の魔導人形はどうにも……」
「できたぞ」
「ええええええええええ!?」
魔導人形たちは動かなくなってしまった。
「どどどど、どうなってるのぉお!?」
「ステータスを書き換えた」
「またそれ!? 何やったの!?」
「単純だ。状態をオンからオフに変えただけだ」
単純に、スイッチを切っただけである。
いかに魔力供給が絶えない限り動く魔導人形だろうと……。
人間と違って、スイッチ(ONOFF)が存在するのだから、OFFにして動けなくするくらい簡単だ。
「すごいです!」
「どんなこんなんも、父上さまにかかればほら! やっぱり一発で解決なのです!」
頭を抑えるアーネット。
「つ、次よ! 次のトラップはすっごいんだから! どんな敵も進入防ぐんだから!」
ふふん、とアーネットが胸を張る。
「いい? この街道にはね、たくさんのサクラの樹が植えられてるでしょ?」
「もしかして襲ってくるのか?」
「え……?」
「もう無力化しておいたぞ」
「は……?」
一直線に並ぶ桜の木が、普通の樹のように動かないで居る。
「え、え、え? なんで?」
「聖剣レーヴァテインで、地面に冷気を流した」
歩道に剣を突き刺し、冷気を流したのだ。
「植物は冷気をうけると活動を停止する。また、地中に根を張っているから、こうして地面を冷たくすれば、一気に全部を凍らせることは容易い」
「…………」
がくっ、とアーネットがうなだれる。
「どうした?」
「……世界最高峰の、我が校のセキュリティが、こんなにもあっさり突破されてしまうなんて……」
「何か問題でもあるか?」
突破しないと中に入れないのだ。
「……ないわね。でも、己の未熟さを痛感させられたわ……うう……」
ふむ……どうやらこれらのトラップは、アーネットが関わってるようだな。
「しょうがないですよ、アーネット様。ヒラク様は特別なのです」
「そうですよー! 特別だからやぶられてもしかたない!」
ミュゼたちがアーネットに同情する。
アーネットは「そうね……すごすぎるものね、彼」といって、深々と、ため息をつくのだった。




