06.超激レア・ユニークスキルを手に入れる
ふと……俺は目を覚ます。
「ヒラク様……! よかった! お目覚めになられて……!」
ミュゼが俺のことを抱きしめてくる。
柔らかい胸の感触に、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
涙ぐんだ彼女の顔を見て、申し訳ない気持ちになった。
俺は主人なのに、奴隷を泣かせてしまった。
「心配かけてすまないな」
「いえ! 無事でなによりです! ほんとうに、よかったぁ~……」
心からの安堵の息をついたミュゼ。
ふむ……次からはあまり無茶はしないでおこう。
「それで、ここは……?」
「ヒラク様が助けた商人さんの、馬車のなかです」
幌付きの馬車のなかにいるようだ。
俺たちの他に、ぎっしりと荷物が積まれている。
「おお! 兄さん目ざめたかい!」
御者台から男の声がする。
俺が起き上がってみると、髭を生やした商人が手綱を握っていた。
「助けてくれて本当にありがとうな!」
「気にしなくていい。あと、馬車に乗せてもらってすまなかった。あとで駄賃は払う」
「いやいや! 命の恩人から金は取れないよ! 本当に助かった!」
ふむ……しかし無銭乗車はあまり感心しないな。
かといって金は受け取らないというし。まあ、とりあえず保留にしておこう。
「ところで、この馬車はどこへ向かってるのだ?」
「ウォズの街さ」
「ふむ……ウォズか。都合が良いな」
するとミュゼが小首をかしげながら尋ねてくる。
「ウォズってなんですか?」
「我々が向かっていた街の名前だ。漁港で、魚料理が有名だ」
「なるほど! ヒラク様は何でもご存じなのですね! さすがです!」
「本で読んだだけだ」
とりあえず馬車に乗っていれば、目的の場所へ到着しそうだ。
やっと……一息つける。
「そうだ。ミュゼ、翼竜を討伐した際のドロップ品はどうなってる?」
「それが……何もドロップしなかったのです」
「ふむ……それはおかしいな」
何かしらのドロップがあるはずだが……。
待てよ。
俺は自分の腕をつかんで、【開】を使用する。
目の前にステータスが表示された……。
『ドロップ品を選択してください』
……ふむ、どうやらドロップアイテムの選択は、あとから選ぶこともできるみたいだな。
・竜の牙×10(C)
・竜の翼膜×2(B)
・竜の骨髄×1(S)
「ふむ……竜の骨髄か」
たしか、薬の材料になると聞いたことがあるな。
「なっ!? に、兄さんっ!? 今なんて!?」
突然馬車が停止する。
がくんっ、と反動が来てケツを打った。痛いが……それどころではない。
商人が血相を変えて、荷台へと転がり込んできたのだ。
「あ、あんた今、竜の骨髄って!?」
「あ、ああ……さっきの戦闘でドロップしたのだ」
「す、すごい……! 竜の骨髄は、本当に滅多にドロップしないアイテムなんだ! 100匹……いや、1000匹竜をたおして、1つでるかでないか!!!!」
ふむ……つまり、竜の骨髄は1/1000程度の確率でドロップするアイテムのようだ。
「そんなレアを確定で引くことができるなんて! すごいです、ヒラク様……!」
……ふむ。レアアイテムを確定で引けることは、内密になとあとで念を押しておこう。
「に、兄さんこれ、売ってくれないか!」
商人が顔を近づけて、必死の形相で訴えてくる。
どうにもただならぬ事情があるようだ。
「いや」
「そんな……おれの有り金全部をだす……」
「譲ろう」
「…………!?」
ぽかんとする、商人。
ふむ? 聞こえなかったのだろうか。
「ただで譲ると言ったのだ」
「た、ただ!? い、いやいや! 何を言ってるんだ兄さん!? これ……入手困難な超レアアイテムなんだぞ!?」
「ああ。だが、やる。必要なのだろう?」
「いやそんな……そりゃ……たすかる、けど……さすがにただではもらえないっていうか……」
ふむ?
そうか。
「おまえはこれを真に欲してるのだろう。薬の材料になるアイテム……ふむ、誰かが病気なのかな」
「そ、そのとおりです……娘が病気で、治す薬を作るには、竜の骨髄がいるんです……」
やはり事情があったではないか。
「なら、なおのこと、これをもらっておけ」
「い、いやしかし……どうして?」
「力あるものは、か弱きもののためにその力を振るう。ノブレス・オブリージュ。それが俺のポリシーなのさ」
「兄さん……いや、ヒラク様……」
感極まったのか、涙を流す商人。
「もらうのが忍びないのなら……そうだな。ウォズの街までの馬車の代金ということでどうだ? 行きつけの宿を教えてもらえるとなお助かるが」
すると商人は俺の前で、土下座しながら言う。
「ありがとうございます! あなた様はおれの、そして娘の命の恩人です! 本当にありがとうございます!」
「うむ、良い。早く街へ行き、娘の治療をしてやれ」
「ははぁ……!」
何度も頭を下げたあと、商人は御者台に戻り、馬車を発進させる。
その側で、ミュゼがキラキラした目を俺に向けていた。
「本当に素晴らしい人格者ですね、ヒラク様は!」
「このくらい当然のことだ」
「いえ! 普通はみんな、自分のことで手一杯で、人助けなんて二の次です。特に、あんなたかく売れるアイテムを、ただで譲れるなんて、誰にもできることじゃあない……やっぱり、ヒラク様は特別なお方なのですね!」
まあ、確かに俺は特別な血筋の人間だがな。
しかし俺に取っては当然のことをしたまで。
ノブレス・オブリージュ。
それが俺の生き方なのだ。
「見返りを求めず人助けするなんて……本当にすごい!」
と、そのときだった。
『条件を達成しました』
『スキル【報恩謝徳】を獲得しました』
……なに?
「どうしたのですか?」
「いや、スキルが手に入った」
「またですか! すごいです……!」
■報恩謝徳(UN)
→人から感謝されること、人を喜ばせることで、SPを増やすことができる。
……ふむ?
ランクが、バグってるぞ。
通常、AやSといったランク表記がされる。
UNなんて見たことがない……。
「【鑑定】」
■(UN)
→ユニークスキルの略称。全世界および、歴史上で、その人個人にしか送られないスキル。固有スキルとも呼ばれる。
……ふむ。
俺固有のスキルということか。
「新しいスキルはどんなものなのですか?」
「報恩謝徳。どうやら、人に感謝されると、SPが回復するらしい。ユニークスキルというらしい」
「ゆ……!?」
ばっ、とミュゼが口元を手で隠す。
ふむ?
「ゆ、ユニークスキル……聞いたことがあります。歴史上、英雄、大英雄とよばれる人物に、天よりその人個人にさずけられるという、超超超レアなスキルだと!」
「……ふむ。そうか」
この力は、天が俺に授けた恩恵ということか。
ならば、使い道は一つだ。
「このスキルで、より多くの人を幸せにせよ。それが……天の意思なのだな」
「!?」
ミュゼがぶわ……と涙を流す。
「素晴らしいです……こんな素晴らしい力があるのに、自分のためでなく、他人のために使うなんて……。なんという慈悲の塊。あなた様は、神さまの化身なのでしょうか」
「ふむ……ミュゼ。おまえも冗談を言うのだな」
「冗談ではありません! ヒラク様は世界最高の、素晴らしい人格者様でございます!」
本当に大げさなやつだ。
しかし神が素晴らしい力を授けてくださったことも、事実。
ユニークスキル……か。
これがあれば、魔物を倒すだけでなく、人を救うにも遠慮無くSPが使えるようになるな。
だが、ユニークを手に入れたところで俺のやることは変わらない。
ノブレス・オブリージュ。
力は自分ではなく、か弱きもののために。
これからも、世のため人のために、力を使おう……。
「ミュゼ。これからの方針が決まった。聞いてくれ」
「はい! 聞きます!」
「街へ行き、冒険者になる」
「冒険者……ですか。しかし……」
わかってる。
この力があれば、商人など、色々選択肢があるだろう。
「俺は、この力でより多くの人を助けたい。そのためには現場仕事のほうがいい。俺のような流れ者がそういうのをするとなると……冒険者が一番都合が良い」
「なるほど……わかりました! それでは、私も!」
「おまえもか?」
「はい! 一緒に冒険者やらせてもらいます!」
こうして、方針が決定したのだった。
まずはウォズの街へ行き、ギルドで冒険者登録だな。