57.【閉】と【門】と四苦門《デッド・ゲート》
《【閉】Side》
そこは、現世から隔絶された空間……異次元。
1つの古びた城がある。
洋風の古城の最奥部には、玉座があり、そこには一人の初老の男が座っていた。 彼の名前は、トザース・マトー。
主人公、ヒラク・マトーの父にして、全ての悪事の元凶である、【閉】。
「【門】よ」
「……御身の前に」
【門】と呼ばれた人物は、女だった。
氷のように冷たい表情をした、妙齢の女性である。
「四苦門たちを、ここに」
「ハッ……!」
【門】はうなずくと、ぱちんっ、と指を鳴らす。
すると彼の前に、4つの転移門が出現した。
【門】は、転移門を自在に作り出すことができるようだ。
そこから、それぞれ異様なオーラを漂わせる、四人が現れる。
「四苦門たち、【閉】様の御前である。平伏せよ」
「「「「ハッ……!」」」」
四苦門と呼ばれしものたちは、一斉に平伏した。
「よくぞ参った。邪神の遺体を数多く取り込み、魔族を超越した魔族……超魔族となったものたちよ」
四苦門はいわば、トザースにとっての虎の子的な人物たち。
みな邪神の遺体を複数体、体に取り込んだことで、おのおの尋常ならざる力を身に付けている。
1つで国が覆る、邪神の遺体。
それを複数取り込み、正気を保っている魔族たちだ。
能力は、桁外れである。
「生門、病門、老門、死門……貴様ら四人に、情報を共有しておこう。【門】よ」
【門】はうなずくと、パチンと指を鳴らす。
彼らの頭上に、黒い空間の穴が開いた。
そこには、黒髪の少年が映し出されている。
「こやつは、ヒラク・マトー。勇者を名乗り、邪神復活の邪魔立てをする男だ」
ヒラクは各地をめぐり、邪神ギンヌンガガプの遺体を破壊して回っている。
邪神復活を標榜に掲げる彼らにとって、最も邪魔な存在だ。
「たかが人間と侮るなかれ。こやつは……【閉】と対となる力、【開】を持つ」
ざわ……。
ざわ……。
四苦門に、動揺が走る。
四苦門たちにとって、【閉】は絶対的な支配者だ。
そんな彼らがあがめる男と、対をなす力を持つ男がいる。
彼らが緊張するのも無理はなかった。
「四苦門たちよ。今はおのおのが与えられし使命を果たせ。いずれこの【開】が貴様らの元へ自ずとやってくるだろう」
四苦門たちには、遺体が取り込まれている。
遺体を破壊して回っているヒラクとは、必ずぶつかることになるのだ。
「やつとぶつかる時がきたら、貴様らに与えた力を用いて、ヒラク・マトーを確実に、抹殺せよ。わかったな、四苦門たちよ?」
「「「「ハッ……!」」」」
全員が当然だとばかりにうなずく。
彼らにとって、【閉】とは絶対的な支配者なのだ。
命令に背くものは、いない。
「下がれ。【門】よ、転移門を開いてやれ」
「御意」
【門】は指を鳴らすと、転移門が出現する。
四苦門たちはトザースにあいさつをすると、転移門をくぐってきえた。
二人きりになったところで、【門】が言う。
「さすがでございますね、【閉】様」
「二人きりの時は、トザースでよい」
「ハッ……」
【門】は少し頬を赤らめるも、一瞬で気を取り直していう。
「【閉】の力は凄まじい……相手の能力だけでなく、【記憶】さえも意図的に奪い(※閉ざし)、支配してしまうのですから」
【閉】。
ヒラクと対をなす力。
ヒラクはステータスを開き、スキルや能力といった、人々に道を切り開く力を与える。
翻って、トザースは、ステータスを開き、人々から【全て】を奪い、その人の未来を閉ざす……。
【閉】が奪える全てとは……文字通り全てだ。
能力、スキル、職業などだけでなく……。
記憶を一時的、かつ意図的に奪うこと(閉ざす)ことで、【閉】に従うよう、人格を都合良く作り替えることができる。
「この力で、あの馬鹿息子の弟のほうを操っていただなんて……。当の本人に気づかせることなく、他者を支配し、操って見せるだなんて……すごいです……」
潤んだ目、そして紅潮した頬。
【門】は明らかに、トザースに対して好意を抱いている。
「【門】よ。下がれ」
「し、しかし……」
「四苦門たちの指揮はおまえに任せる。今は下がれ」
【門】は、愛する【閉】と話せないことを残念がるが……。
しかし重要な任務を与えられ、喜んで、うなずく。
「失礼いたします」
【門】はぱちんと指を鳴らすと、転移門を作り、出て行く。
一人になった部屋の中、トザースが言う。
「まあ……貴様もその他と同様なのだがな」
【閉】による支配を受けているのは、何もジメルや四苦門だけではないということだ。
「私の……【閉】の支配を受けないのは、【開】を持つ、おまえだけだ。ヒラク……」
その表情から、トザースの内心を推し量ることはできない。
無機質な瞳は、遥か遠くにいて、邪神ギンヌンガガプの復活の邪魔をしようと躍起になる、【孝行息子】に向いてる……。
「さぁ、ヒラク。次は四苦門が相手だ。どうする?」




