54.卑劣な手を使われようが余裕で敵を倒す
闇ギルド、真黒商会に【閉】への手がかりがあることが判明。
また、真黒商会は6つの部門に分かれており、そのどれかひとつが、【閉】の情報を持ってることがわかった。
俺は己の持つ力を使い、真黒商会の各部門を、次々と潰していった。
・金融部門
・暗殺部門
・護衛部門
以上3つは瞬殺で終わったので割愛する。
ハラグロリーナから、各部門のアジトの情報は抜き出していたからな。
そこへ出向き、敵をやっつけただけ。 ギルドの連中は転移門を使い、王城の牢屋にぶち込んでおいた。
さて。
「ヒラク様。残りはここ、麻薬部門だけですね……!」
真黒商会、麻薬部門は、ミョーコゥという田舎町にあった。
『父上さま! ……なんだか、妙な気配がします』
「ふむ、おまえもそう思うか、フレイよ」
『はい! 街に、人の気配がしません……!』
そうである。
俺たちがこのミョーコゥの街へ到着したときから、人っ子ひとり、町で人を見掛けていないのだ。
スキル天網恢々によると、この真黒商会、麻薬部門のギルドホールのなかに、街の人たちがいると判明した。
『とても……嫌なにおいがします』
「わかった。フレイ、おまえはここで待機。ミュゼ、行くぞ」
嫌な予感は多分にしている。
だが、俺は行く。そこにどんな困難が待ち受けていようと。
ノブレス・オブリージュ。
持つ者の義務として、あらゆる困難を突破し、世界に平和をもたらさねばならないからな。
「さすがヒラク様。その迷いなき歩みと決意、素晴らしいです!」
俺は堂々と、正面から麻薬部門のギルド会館へと入る……。
中は薄暗く、そして……妙なにおいがした。
甘ったるい匂いだ。
「げひひひひ! ようやくきたかぁ【開】ぉ……?」
そこに居たのは、眼帯をみにつけた、妙な男。
「貴様がここの責任者か?」
「そのとおり! 六落花がひとり! 麻薬の【ゲスガー】様たぁおれのことよ!」
ゲスガーは余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、俺を出迎えた。
恐らく、俺が真黒商会を潰して回っていること、そして、力を持ってることは、情報共有されているだろう。
だというのに、この余裕。
ふむ、こいつには余裕を保だけの根拠があるってことだ。
「俺がここに来た理由はわかってるな?」
「ああ……! げひひひ! わかってるさ。おれに殺されにきたってなぁ……!」
やはりどこか余裕めいたものを感じるな。
ふむ……。
「ミュゼ、一旦外に出ていろ」
「…………」
「ミュゼ?」
ひゅっ……!
ドガアアアアアアアアアン!
「ミュゼ……」
そこには、うつろな目をしたミュゼが立っていた。
右手を伸ばし、そこから魔法陣がてんかいされてる。
いま魔法陣から照射された火球を、俺は紙一重で避けて見せたのだ。
「どうした、ミュゼ?」
「…………」
ドガァアアアアアアアン!
再び魔法を撃ってきた。
ふむ……。
「貴様が何かやったのだな?」
「げひひひぃ! そぉだよぉお! おい野郎ども、こいつを捕まえてやんなぁ!」
ばんっ! と部屋の扉が開くと、そこからぞろぞろと、街の人たちが出てきた。
みな、ミュゼと同様にうつろな目をしてこちらに歩いてくる。
「ステータス展開」
~~~~~~
ミュゼ
【状態】
精神支配(薬物)
~~~~~~
「ふむ……なるほど。薬によって、精神を支配してるのだな?」
「げははは! そのっとおーりぃ!」
街の人たちとミュゼが襲いかかってくる。
俺は軽やかに飛び、彼らの頭を蹴って、移動する。
彼らは俺が移動しても着いてくる。
まるで、亡者のような足取りで、延々と俺を追い回してくる。
「おれの開発した禁薬はよぉ! においをかぐだけで、相手を強い依存状態にして、操ることができるんだよぉ!」
ふむ、なるほど。
麻薬には中毒性と依存性がある。それゆえ、麻薬をほしさに異常行動に出るという。
それと同じで、この薬のにおいをかいでしまったものは、薬ほしさに、ゲスガーの言うことを聞いて行動するようになるということか。
「ぎゃはっはあ! どうするうぅ? お優しい勇者様、一般人を傷つけることはできないよなぁ!」
「ゲスめ……」
違法な薬を作り出し、罪なき街の人たちを操るだと……?
ふざけてやがる。
「さぁどうするぅ? この薬を摂取した物は最後! 二度とこの薬無しじゃあ生きていけない体になっちまうだぜえ! そしておれの言うことを死ぬまできく! つまり! あんたはこいつらに永遠に命を狙われ続けるが、反撃することがで決してできないってことだ!」
……なるほどな。
俺が人助けをして回ってることから、罪のない人に攻撃できないという情報をつかんでいたのだろう。
そこから、町の人を使った作戦を立案し、実行したというわけだ。
……良い作戦だな。
ただ一点、人の尊厳を踏みにじる、最低最悪な点を覗いてはな。
ふむ。
「さぁどうする? こいつらを殺すか?」
「…………」
「できないよなぁ! ぎゃっははあ! さあ、直接薬をぶち込んでやりな、おまえらあ!」
薬漬けにされたひとたちが一斉に襲いかかってくる。
その手には注射器が握られていた。
俺は……。
両手を広げ、待ち構える。
彼らが注射針を、俺の体に刺した。
「ぎゃははははぁ! やった! 第二章、【完】!」
「なにが、【完】、だ?」
「なにぃいいいいいいいいいい!?」
驚くゲスガー。
「ば、馬鹿な!? なぜ!? おまえは禁薬を投与されたはず!?」
「ああ。投与される前に、薬剤耐性スキルを購入しておいた」
「スキルの購入……だと!? ばか、そんなことができるなんて!?」
久しく使っていなかったが、俺にはSチケットといって、消費すれば好きなスキルを、自由に獲得できる力がそなわっている。
「凄い依存性のある薬だろうと所詮は薬。薬剤耐性があれば防げる」
「ぐ、ぎ……だ、だが! おまえだけ防いだからどうした!? ここの人たちはみな薬によって精神支配を……」
そのときだ。
「あれ?」「なんだ……?」「おれたち、なにしてたんだ……?」
「ば、っば、ば、馬鹿な!? 全員正気を取り戻してるだとぉおおおおおおお!?」
正気に戻った街の人たちの間を縫って、ゲスガーの元へと向かう。
「彼らのステータスの状態を、開錠を使って書き換えさせてもらった」
「ステータスの書き換え……まさか! 精神支配状態を、書き換えて、薬による支配を無効化したというのか!?」
俺はゲスガーの顎を蹴り上げる。
「ほげぇあああああああああああああああああああああああ!」
ゲスガーはぶっ飛んでいくと、壁に激突して、意識を失う。
殺すわけにはいかない。
【閉】の情報を、もらわねばならないからな。
「さすがです、ヒラク様!」
「ミュゼ、正気に戻ったか」
「はい!」
ふむ、よかった。
「それにしても、鮮やかな手腕でした! あっという間に王国に根付いた闇ギルドを、壊滅させてしまうなんて! 王家が手を焼いていた犯罪者組織ですら、ヒラク様の手にかかれば、楽勝なんですね! すごいです!」
だが、まだこれで終わりではない。
最後に、【閉】との戦いが待ち受けている。




