51.裏の犯罪組織のアジトを余裕で特定する
獣人国ネログーマにて、【閉】がゲータ・ニィガ王国にある情報をつかんだ。
俺は転移門を使って、一度ゲータ・ニィガ王国の王都、ニィガへと戻ってきた。
「……ヒラク様。お待ちしておりました」
「ふむ、イーマン。息災か」
「……はい、おかげさまで」
城で俺を出迎えたのは、できる宰相のイーマン。
眼鏡をかけた美女だ。
イーマンには事前に、【閉】の情報を共有している。
場所は、宰相の執務室。
俺、ミュゼ、そして娘のフレイ(+ちーちゃん)は、イーマンに改めて、【閉】の情報を伝える。
娘にも教えるのは少し気が引けたが、ミュゼのときと同様、娘も俺の側を離れないうえ、フェンリルの力があるため、情報を開示することにした。
また、役に立ってもらう必要があるからな。
「……なるほど、しかし、【閉】という名前については、聞き覚えがありません。城で保管してる文献にも、無かったと」
イーマンはかなりできる女だ。
現国王が無能なので、そいつの代わりに国を回せていけるほどの頭脳がある。
また、書庫に記された情報も、全て頭に入ってるとのこと。
その彼女が、【閉】については知らないと言ったのだ。
「よっぽど知られたくない情報ってことですかね、父上さまーー?」
「だろうな。敵は情報が漏れないよう、二重の罠を張っていたくらいだしな」
ちゃき、とイーマンが眼鏡の位置を直す。
「……そのアクダクとやらは、【閉】のアジトを知らなかったのですか?」
「ああ。末端の構成員らしくてな、重要情報までは教えてもらえてなかったそうだ」
「……手詰まりですね。力になれなくて、申し訳ありません」
しゅん……と肩をすぼめるイーマン。
ふむ……。
「イーマンよ。最近、国内で、何か問題がおきていないか? なんでもいい、教えてくれ」
どの土地でも、トラブルの影には【閉】が関わっていた。
なら、この国で起きてるトラブルにも、【閉】が関係してるかもしれない。
「……それでしたら、最近は闇ギルドによる、人身売買が頻繁に行われており、国としては困っております」
「ふむ……闇ギルドに、人身売買……か」
するとフレイが手を上げて尋ねてくる。
「闇ギルドってなんですか、父上?」
「非合法なことを請け負うギルドだ。麻薬製造、密輸、そして……人身売買などな」
「闇ギルドは、犯罪組織ってことですね!」
概ねその認識であっている。
「……しかし、闇ギルドもまた、国が拠点を把握し切れておりません」
ふむ、なるほど。
ミュゼが俺に尋ねてくる。
「ヒラク様、これからどうしましょうか?」
「闇ギルドのもとへいき、【閉】の情報を引き出す」
「ですが、闇ギルドのアジトについては、国も把握してないようですが?」
「それについては、問題ない。スキル、天網恢々、発動」
俺の目の前に、周辺のマップが表示される。
このマップには、この場に【ある】もの全てが表示される。
また、表示するものを、条件を変えることで、絞ることも可能だ。
俺は特定の条件をマップに打ち込み……ビンゴ。
「闇ギルドの拠点が判明した。今すぐ行くぞ」
「……! もう、ですか?」
「ああ」
「……すごいです。さすがヒラク様です。国ですら発見困難な、犯罪組織のアジトを一発で見つけてしまうなんて」
イーマンが頬を赤く染めながら言う。
フレイが小首をかしげ、尋ねてきた。
「しかし……父上さま。どうやって、アジトを見つけたのですか?」
「移動しながら話そう」
俺、ミュゼ、フレイ、そしてイーマンの四人は城を出て、城下へと向かう。
「闇ギルドは人身売買を行っている。ということは、拠点にはたくさんの人間が集められてる」
俺は王都のマップを、皆に店ながら説明する。
「マップ上には、この王都にいる【人】が表示されるように条件を変更した。すると……」
「……! 一カ所だけ……不自然に人が集まってる場所が、あります!」
「そう、しかも、若い女と子供が、不自然に……だ」
ここは王都だ。
人が多く集まる場所。一点に人がたくさん集まっていても、別に不思議ではない。
が、こうも集まってるやつに偏りがあると、不自然だ。
「行って確認し、問題なければそれでよし。だが俺はこの商業ギルドが怪しいと思ってる」
俺たちがやってきたのは、王都の端にある商業ギルドの会館の前だ。
「ギルド【真黒商会】」
「……真黒商会といえば、世界トップ3に入る巨大商業ギルドの一つですね。ここが……」
「ああ。闇ギルドの可能性は十二分にある」
「……王家にも品物を卸すほどの、巨大な商業ギルドが、闇ギルドとは。盲点でした」
ミュゼが俺にキラキラした目を向ける。
「さすがヒラク様! 目の付け所が違います!」
「ふむ、まだ確定したわけではないがな。行くぞ」
俺は真黒商会の中に入る。
中は至って普通の商業ギルドホールのようになっていた。
受付嬢が俺たちを出迎える。
「いらっしゃいませ。当ギルドに、どのようなご用でしょうか?」
「単刀直入に言おう。ここが闇ギルドだな?」
受付嬢が、きょとんとした顔になる。
「あの……何のことでしょうか?」
「とぼけるのか、【ハラグロリーナ】?」
「!?」
受付嬢が目を剥く。
フレイが首をかしげる?
「え、でもこの人……胸のプレートには、【ハラーシロ】さんって……」
「偽名だ。なあ、ハラグロリーナ? どうした? 額に汗が垂れているぞ?」
俺の持つ、【開】は、敵の心のなかを除くことができる。
《ハラグロリーナ:くそ! なんだこいつ!? なぜここが闇ギルドだと気づいたのだ!?》
「馬鹿め! 愚か者ども! このお方をどなたと心得ます! 世界を救う勇者、ヒラク・マトー様であられます!」
ミュゼがびしっ、とハラグロリーナに指を突きつける。
「悪党なんぞの嘘くらい、天才にして素晴らしい頭脳と技能をお持ちになっているヒラク様には、まるっとおみとおしなのです!」
「ち、ちくしょぉおお! おいおまえたち! やっちまいな!」
真黒商会のなかにいた、従業員、そして客に至るまで、全員が武器を手に持って、俺たちを囲っていた。
ふむ……数は100といったところか。
「【威嚇】」
ドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサ!
「……す、すごいです。100人はいた闇ギルドの構成員たちが、一瞬で気絶してます」
「ヒラク様のスキル威嚇の効果です! 雑魚は今ので気を失います!」
「……闇の組織の人間たちですら、雑魚使いだなんて……さすがです」
ふむ、これで闇ギルド=真黒商会であることは確定した。
高い確率で、ここに【閉】にかんする情報……あるいは、ここが【閉】のアジトである可能性が高い。
さて、探索を始めるとしよう。