41.水不足も余裕で解決する
王都での事件を解決した俺は、新たなる力を得て、旅を再開した。
目的地は、獣人国東の果てにある、聖域という場所。
聖域に邪神の遺体がある可能性が高いため、進路を東へ取り、進んでいた。
「父上さま」
地岩竜のちーちゃんが引く馬車(というか竜車)のなか、娘のフレイが俺に尋ねてきた。
(ちーちゃんは拡大縮小自在、今進んでいる道は、俺の力で砂漠から普通の道へと変わっている)
「新しい力、転移門とはどのような力なのですか?」
王家が所有していた伝説のアイテム、合成獣の翼。
その封印を解除した瞬間、俺は新たなる力を身に着けた。それが、転移門。
「窓を二つ作り、一度行ったことのある場所と、今この場所とつなげ、行き来を可能とするスキルのようだ」
転移魔法というものがこの世には存在する。
一度行った場所へと一瞬でワープするというものだ。
転移門はそれを同じ理屈で動いてる。
「一度行ったことのある場所なら、どこでも行けるのですか?」
「ああ、どこでもだ」
「一度開いた門は、開きっぱなしなのですか?」
「いや構築に魔力を必要とし、その際の魔力が時間の経過によって消費され、ゼロになると消滅する仕組みのようだ」
なるほど、とフレイがまじめな顔でふんふんとうなずく。
ふむ、我が娘は勉強熱心で大変いいことだ。
「ヒラク様、すごいでわね。獲得したばかりの転移門の効果を、そこまで正確に把握してるなんて」
俺と同行してる、スコティッシュ姫が褒めてきた。
聖域は獣人国の王家しか立入れないため、彼女が一緒についてきてくれたのである。
「仕様を把握できてるのは、鑑定スキルのおかげです。きちんと把握しておかないと、いざというときに使えませんから」
「事前準備を怠らないというその姿勢、とても立派ですわ!」
と、そんな風に竜車が道を走っていた、そのときである。
「ヒラク様」
「どうした、ミュゼ? 敵か?」
御者台に座ってる、ハーフエルフのミュゼが報告する。
彼女は超聴覚という、接敵や周囲の声を、広範囲で感知できるスキルを持つ。
「いえ、敵ではありません。ただ、人のうめき声が聞こえるのですが」
「ふむ、そうか。では竜車をそこへ向かわせろ」
「よろしいのですか? モンスターの気配はないのに」
「だとしても、困ってる人は放ってはおけまい」
ノブレス・オブリージュ。
力を持つものとして、か弱き人を放ってはおけない。
たとえ先を急ぐ旅であろうと、そのためにほかの困ってる人を放置するなんて、ありえないことだ。
「さすがヒラク様。慈悲深さにかけては、右に出るものがおりませんね! わかりました、声のするほうへ進路を変えます!」
ほどなくして、俺たちは小さな村へとやってきた。
竜車から降りると、すぐにわかった。
人々のうめく声があちこちから聞こえる。
俺は手分けして、村の中を探索。
倒れている人たちの治療を行った。
「ありがとうございまする、姫様、そして、勇者様」
村の長老が俺に深々と頭を下げる。
スコティッシュ姫の知名度は高く、彼女のおかげですんなりと、村に入ることができたし、治療も行えたのだ。
「感謝は不要だ。当然のことをしたまでだからな。それより、話を聞かせてくれ。みなどうして、衰弱していたのだ?」
俺たちが村にきたとき、みな脱水症状を起こしていたのだ。
国の東側は、西側と違って、邪神の炎による被害が(比較的)軽微だったはず(熱波で外が出歩けないなんてことはなかった)。
「それは、井戸の水が枯渇してしまってるからでございます……」
「ふむ? 井戸の水が、枯渇?」
俺は村長に案内してもらい、村のはずれの、井戸の場所へとやってきた。
桶を、村長が井戸の中に放り投げる。
かこぉおお……ん。
「水の音がしないのです、父上さま」
「井戸が枯れてしまってるのだな。原因に心当たりはあるか?」
すると、村長はこんなことを言ってきた。
「聖域が、関係してるのではないかと思います」
スコティッシュ姫が説明を引き継ぐ。
「ここら一帯の村々の地下水は、みな聖域からにじみ出ているものなのです」
「ふむ。なるほど、聖域に問題が生じており、その結果、周辺の村々に、水不足をまねている、ということだな」
ふむ、なるほど。
いずれにしろ、聖域へ行かねば、問題を根本的には解決できないわけか。
「ヒラク様……村の水問題、いかかがいたしますか?」
「一時的な対症療法でしかないが、水不足は俺の持つ手札で、解決できるぞ」
村長も、そして姫も驚いてるようだ。
ふむ、そんなに驚かずとも、解決法はそこまで意外なものではない。
まあ、俺にしかできないことではあるんだがな。
だからこそ、俺がやる。力を持ってる俺にしか、できないことなのだから。
俺は枯れた井戸の前に立ち、手を頭上にかかげる。
「転移門、展開」
井戸の上空に転移門が開く。
「ヒラク様、そんなところに転移門を開けて、いったい何を……?」
そのときである。
ドドドドドドドドド……!!!!!!
「転移門から大量の水が吐き出されてますわ!!!!」
ずあああああ……と大量の清らかなる水が、井戸を満たしていく。
水は時間をかけて井戸の中に満杯に張る(あふれ出ないように水の量を調整)
「おお! しかし勇者さま、こんなに大量の水、いったいどこから?」
「白根山だ」
「西の果ての山ですか?」
「ああ。旅の途中で白根山に立ち寄った。帰りに水分補給で、山を流れる清流のそばをとおった。そこに、転移門を設置したのだ」
一度行った場所に転移門は設置できる。
門を通して、水を吐き出させているのだ。
「すごいです、父上様! まさか転移門を、移動手段ではなく、このように水の補給に使うなんて! 天才の発想です! すごいです!」
ふむ、だがまだ問題は解決していない。
「ヒラク様、たしか転移門の維持には魔力が必要でしたよね? 魔力が切れたら門は閉じ、水の供給は途絶えるのではありませんか?」
ミュゼの言う通り、この門はまだ未完成。
だから、こうする。
「ステータス、展開」
~~~~~~
転移門:白根山→セサキ村
魔力 99/100
【状態】
・起動状態(魔力1/1分)
~~~~~~
現在、このゲートは魔力100が込められている。
1分ごとに、魔力を1消費する。
100分後、つまり約二時間後にはゲートが閉じて、水の供給が途絶える。
「そこで、スキル開錠、発動」
SP消費して、ステータスの書き換えを行うスキル、開錠。
『起動状態(魔力1/1分)→起動状態(半永久・音声コマンドによるON・OFF)、への書き換え(10万SP)』
・SP 150万→140万
10万を消費し、ステータスを書き換える。
「村長、OFFと唱えてみてくれ」
「は、はい。OFF!」
すると水の供給がストップ。
「続いてONと」
村長の音声に応じて、ゲートが開いたり閉じたりして、水が出たり止まったりする。
「起動状態を半永久、かつON・OFFが出来るようにした。これで魔力消費を気にせず、転移門を使って水の供給ができる」
「「「おおおお! す、すごい!!!!!!!」」」
村人たちが涙を流しながら、俺に頭を下げてくる。
「ありがとうございます! とても助かりました! しかし、我ら貧しい村の民ですゆえ、この大きな恩に釣り合うだけの、見返りを用意できませぬ……」
「見返りなど不要だ」
「な、なんと!!!!!! 不要!?」
「ああ。俺は勇者として、当然のことをしたまで。見返りなど求めてない」
うっ、うっとさらに涙を流す村長。
「勇者様は、神様ですじゃあ……」
「勇者ではあるが神ではない」
「いえ! 我らにとっては、あなた様こそ慈愛の神! これより末代まで、あなた様の偉業を残して参ろうと思います!!!!」
ふむ、大げさな。
俺は当然のことをしただけなのだがな。
・140万→200万