34.獣人姫を助ける
《獣人姫スコティッシュSide》
ヒラク・マトーが旅を続ける一方そのころ。
彼らが目的としている、白根山では、武装した獣人たちが【化け物】と戦っていた。
『BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!』
白根山の火口にて、マグマだまりから、一匹の化け物が姿を現す。
それは例えるなら、溶岩でできた、巨大ミノタウロス。
ミノタウロスはマグマから上半身のみを出している状態だが、あまりに、巨大だ。
獣人たちの10倍は高い。
下半身も合わさると、20倍もの巨大なミノがいることになるだろう。
「くそ! 弓矢をくらえ!」
武装した獣人たちが矢を構えて、ミノに向かって放つ。
だがそれらがミノに届く前に、ぼっ! と音を立てて一瞬で灰になる。
「なんていう熱量……!」「こっちの攻撃がまるで当たらない!」「ば、化け物だぁ!」
『BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!』
巨大ミノが炎の腕を振り上げて、そして、獣人たちめがけて振り下ろす……。
ガキィイイイイイイイイイイイイン!
『BUO……』
ミノが忌々しそうに、目の前に展開されてるそれを見る。
巨大な、水のドームだ。
「スコティッシュさま!」「大丈夫ですか、姫様!」
武装した獣人たちは、この獣人国ネログーマの騎士たち。
その一団に交じって彼女……スコティッシュ=ド=ネログーマはいた。
ネログーマの王女であり、年齢は18。
折れたかわいらしい猫耳と、小柄な身長のわりに大きな胸が特徴的だ。
「はあ……はあ……みなさん、今のうちに……退散してください」
スコティッシュの手には、1本の長槍が握られていた。
長く美しい槍なのだが、全体的にさびついており、ぱっとみると骨董品以外のなにものにもみえない。
スコティッシュの持つ長槍は青く輝いていた。
そこから、この水のドームが発生してるようだ。
「し、しかしスコティッシュ様を残して逃げることなどできません!」
「そうです! 我らも戦います、あの……化け物と!」
だが、騎士たちの体が震えてるとこに、スコティッシュは気づいていた。
彼らは、あの恐ろしい化け物を前におびえてしまってるのだ。
それはスコティッシュも同じだ。
あの炎のミノは、突如としてこの国に現れた化け物の【一体】。
そのせいで緑豊かなこの国は、一夜にして砂漠広がる不毛な土地にかわってしまった。
自分は国を守る【聖槍】の使い手としての使命を果たすべく、武器を手に前線へとやってきた。
だが、結果は御覧のとおり。
『BUOOOOOOOOOOOO! BUMOOOOOOOOOOOOOOO!』
炎のミノが何度も何度も、こぶしで水のドームを殴りつける。
スコティッシュの体にかなりの負担がかかる。
この聖なる武器は、使用するたび、使い手からかなりの体力を吸い取っていく。
母よりこの聖槍を受け継いだばかりの、未熟な自分では、長くこの槍を使うことができない。
いざ敵の前までやってきたはいいが、防戦一方だ。
このままでスコティッシュの体力は果て、水のドームは消えて、この場にいる騎士たち全員が死んでしまうだろう。
「にげ、なさい……わたくしは、大丈夫ですから」
にこり、とスコティッシュは笑って見せる。
額に脂汗をかきながら、必死になって、みんなを守りながら……。
ミノの恐怖に震えながら、それでも、笑っていた。
それは騎士たちを安心させるためだ。
争いをこのまない彼女が、こんな最前線にでてきたのは、民のため。
国に暮らす獣たちを守るため、彼女は怖いのを我慢して、今ここに立ってる。
「早くいきなさい! でないと……!」
だが全員が、戦意喪失していた。
動けるものは、いない。あの炎のデカイ化け物を前に、みな恐怖していた。
一部の勇気ある者たちは、とっくにミノの攻撃を受けて、黒焦げになってしまっている。
だれも、この場から動けなかった。
やがて……。
「もう、げん……かい……ああっ!」
「「「姫様!?」」」
バキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
「み、水のドームが壊れた!」「もうおしまいだぁ……!」
炎のミノが、にやぁと笑う。
そしてその巨腕をふりあげ、ぎゅっとこぶしを握り締める。
ごおぉおお! と腕の炎の温度が上昇していく。
熱波が、それを見た獣人たちの恐怖とともに広がっていく。
炎のミノはにぃいと笑っていた。
わざと怖がらせてるように、スコティッシュには見えた。
獣人たちが自分を恐れる姿から、栄養でも摂取してるかのようだった。
騎士たちを見て、スコティッシュは決意する。
「もう……こうなったら最後の手段。もうこれで、終わってもいい……だから! わたくしの、ありったけの体力を捧げるわ!」
ずずぅ……とスコティッシュの体から一気に体力が吸い取られる。
槍の先に巨大な水の玉が出現する。
水の玉は変化し、それは1匹の巨大な竜へとなる。
「はぁああああ! くらいなさぃ! 水神雷轟砲!」
水の竜の口からは、高圧縮された水流が発射される。
いかずちの混じる、水のブレス。
だが……。
じゅぉおお!
「そん……な……片手で、防がれた……」
全ての力を込めた、最後の一撃だった。
だが炎のミノは、片手でやすやすと受け止めてみせたのだ。
「もう……おしまい……ですわ……」
「BUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
恐怖を十分堪能したミノが、掲げていたこぶしを振り上げる。
ためた力を一気に解放した、強烈な一撃……。
「神様……助けて……」
そのときだ。
「神はいない」
ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
……一瞬の出来事だった。
自分の前に誰かが現れ、そして美しい剣を一振りした。
剣からはすさまじい冷気が放出され、ミノを、マグマごと凍り付かせたのである。
「な、なんだ……?」「ミノが、一瞬で凍り付いたぞ?」「なにが、どうなってる?」
スコティッシュ自身、何が起きてるのか理解できていない。
いきなり現れた男の人が、一撃でミノを倒しただなんて。
彼は、神はいないといった。
「だから、俺が来た」
「あ、あなたは……いったい……?」
ふらりと倒れそうになるスコティッシュを、彼は優しく抱きかかえる。
「俺は、ヒラク・マトー。氷剣の勇者だ」




