32.バジリスクをワンパン、子供の竜を助ける
俺たちはマゴイ村を出て、徒歩で、とある場所へ向かっていた。
「ぜえ……はあ……あつい……」
人間姿のフレイが、辛そうな顔をしながら歩いてる。
子供にこの酷暑のなか、しかも砂漠を歩かせるのは、文字通り酷だったろうか。
「マゴイ村で待っててもよかったのだぞ?」
「いえ! ついていきます! 白根山へ!」
さて。俺たちは今、白根山という場所へと向かっていた。
なぜ向かうのか、話は少し前まで遡る。
『村長。この異常気象の原因について、何か心当たりはないだろうか?』
マゴイ村村長のソンチョに聞いてみたところ……。
『白根山という、ここより北へ進んだ場所にある火山に、異変が見られると聞きましたのじゃ。恐らくそこかなと』
『ふむ、情報感謝する。そこへむかってみるとしよう』
『おお、ありがたい! あ、ですが、今砂漠化の影響で、歩きづらくなっております、ご注意をば』
ということで、恐らく邪神の遺体があるであろう、白根山へと向かうことにしたのだ。
しかしソンチョが言うとおり、今この獣人国は全体が砂漠化している。
砂の地面を馬が軽快に歩けるわけもなく、結果、徒歩での移動を強いられていた。
「ヒラク様……氷の結界で暑さは軽減されておりますが、やはり徒歩での移動は子供には厳しいかと愚考します」
「ふむ……そうだな。せめて、地竜がいればな」
「地竜……たしか、走破力に特化した、地上を走る竜でしたね」
「ああ。地竜がいれば砂漠地帯もなんなく走れるだろうが、気性が荒く手懐けるのは困難だと聞く。それに希少種ゆえ、あまり市場に出回っていないからな」
当然、マゴイ村では地竜は飼っていなかった。
獣人国の王都、エヴァシマでは売ってるやもしれないが。
ふむ、まあ無い物ねだりをしてもしかたないな。
と、砂漠を進んでいたそのときである。
「ヒラク様! 魔物の気配がいたします! 凄いスピードで、こちらに移動してきております!」
ミュゼの超聴覚は本当に優秀だな。
不意打ちを完全に防ぐことができる。
俺は天網恢々を発動。
ふむ……?
「どうなさったのですか?」
「魔物が二匹重なって移動しているのだ」
「二匹? どういうことでしょう?」
「わからないが、ミュゼ、フレイ、君たちは下がっていなさい。レヴァ、いくぞ」
俺は聖剣レーヴァテインをぬいて、彼女らの前に立つ。
か弱き乙女を守るのは、俺の責務だ。
ノブレス・オブリージュ。
俺はどんなときだって、力を持つものとして、弱きものを平等に助ける。
「ステータス展開」
マップ上にモンスターの情報が表示される。
~~~~~~
マゴイ村郊外
【モンスター・一覧】
・バジリスク
・地竜(幼体)
・
・
~~~~~~
■バジリスク(S+)
→巨大なヘビ型モンスター。地中を恐ろしいスピードで走る。保護色で敵に見付からないよう移動、強力な神経毒で敵を弱らせ、敵を丸呑みし、消化吸収する。
「ふむ。どうやらバジリスクが近づいてるようだ」
しかし、となると解せんな。
バジリスクと一緒に魔物が移動してる……。
……読み取った情報から、俺は一つの仮説を思いついた。
『わはは! バジリスクだろうがなんだろうが、我が主とわしにかかれば、どんな敵もワンパンKOじゃ!』
ふむ。
確かに、俺は天網恢々がある。
相手はいくら保護色+地中を走ってても、見破ることはできる。
ミュゼのおかげで不意打ちもきかないので、一撃の下、葬りさることはできる。
だが……。
「ミュゼ、フレイ。必ず無事で戻るから、心配しないでくれ」
「「どういうことですか……?」」
バジリスクが……来る。
ぐわば……!
砂の中から大きな口を開けて、俺を丸呑みにしようとする。
俺はレヴァを使って、バジリスクの毒が含まれている牙を全て砕く。
『よぉうし! このまま敵を一撃でぶっ飛ばせば終わりじゃ!』
「ふむ、それはまだだ」
バクンッ……!
「なっ!? ひ、ヒラク様が……!」
「バジリスクに丸呑みにされましたー! 父上さまぁ……!!!!!!」
俺はバジリスクの腹の中へと落ちていく。
やつめは、口を開けて、地面から顔を出し、丸呑みにした。
俺は暗闇へと落ちていく……。
『何をしてるのじゃ我が主よ! おぬしなら攻撃を避けることなど容易かろうに!』
「ああ、だが、それをすると……助けられなかった」
『なに!? 助けるじゃと……!?』
やがて俺は、バジリスクの腹のなかで、【それ】を見つける。
暗闇のなか、通常なら見つけ出すことは不可能だったろう。
だが、俺には天網恢々がある。
俺は【それ】を回収すると……。
「いくぞ、レヴァ。力を解放だ」
俺は聖剣レーヴァテインを片手にもち、思い切り、バジリスクの腹壁に突き刺す。
ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
『そうか! 氷の力で、内側から敵を凍らせる意図だったのじゃな! バジリスクの表皮はかなり硬そうじゃった。剣が突き刺さらぬかもしれなかったからな! さすが我が主、相変わらず機転が利く!』
「ふむ、まあそれもあるのだがな」
『も? というか、【それ】はなんなのじゃ……?』
「あとで説明する」
俺は剣を抜いて、凍りついたバジリスクの腹に向かって、かかかっ! と剣を振る。
バカッ……!
腹壁が正方形に切り取られて、俺は外へと脱出できた。
「ヒラク様……!」「父上さま~! 心配しましたぁ……!」
二人がぎゃんぎゃんと大泣きしながら、俺の元へと駆け寄ってきた。
ふむ……心配するなと言ったが、やはりそれは無理な話だったか。
「すまない、二人とも。君たちを不安がらせてしまって」
「いえ! 大丈夫です! 父上さまなら、絶対に帰ってくるって、信じてましたからっ!」
「……そうか」
涙をこらえながら、フレイがそういう。 優しい子だ。本当に。
俺は不安がらせてしまったわびのつもりで、カノジョの頭をなでる。
一方、ミュゼはキラキラした目を俺に向ける。
「こんな巨大なバジリスクすら一撃で倒してしまうなんて! すごいです!」
「ふむ、それよりミュゼ。治療を頼みたい」
「はい! 喜んで! それで、ヒラク様、どこを怪我したのですか?」
「いや、俺ではない。この子だ」
「この……子?」
俺は脇に抱えていた、【その子】をミュゼに見せる。
「きゅう……きゅう……」
「わー! 可愛いです! 父上さまっ、この子は……子供の竜ですかっ?」
「そうだ。地竜の幼体だな」
マップ上には地竜が映っており、バジリスクとともに移動していた。
そこから考えられるのは……。
「バジリスクがこの子供竜を丸呑みにしていた、ということですね! すごい、父上様、いつも本当にすごい推理力です! ふれいも、父上様みたいにかしこくなりたいです!」
ミュゼは子供竜の治療を試みるが……。
「外傷は治せますが、この子、神経毒を食らっておりますね」
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地竜(幼体)
【状態】
・麻痺(バジリスク毒)
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■バジリスク毒
→超強力な神経毒。くらうと運動神経がやききれ、二度と歩くことができない。
「ふむ、ならば、スキル開錠発動」
俺はSPを消費し、神経毒を解除。
・SP2,755,000→2,750,000
ミュゼの治療が終わると……。
「きゅ、きゅうう……」
「わあ! 目を覚ましましたよ!」
「あいかわらずすごいです、ヒラク様のステータス操作の力! どんな毒でさえたちどころに治してしまう、まるで治癒の神です!」
こうして、俺は子供の地竜を救出したのだった。
相手が魔物だろうと、か弱き子供を、俺は放ってはおけない。
ノブレス・オブリージュ。
それは、別に人間だけに適用されるわけではないのだ。