03.エルフ奴隷ゲット
俺が助けた少女は、ぺこりと頭を下げてきた。
「私はミュゼと申します。危ないところを助けてくださり、ありがとうございます!」
ミュゼと名乗った少女を、改めて見る。
身長は俺よりやや低いくらい、160だろうか。でも女にしては背が高い気がする。
それに胸も尻もかなり大きい。
また、顔の作りも整っている。翡翠の瞳は宝石のようにきれいだし、流れるような金髪はまるで絹のよう。
正直かなりの美少女だ。
なぜこんな貧相な身なりで一人歩いてるのかさっぱりわからない。
「っ! 君は、奴隷なのか?」
「そのとおりです。ええと……名前をうかがっても?」
「俺か? 俺はヒラク・マトー」
「ヒラク……マトー!? あの剣聖のマトー家のおかたがどうして!?」
「鑑定の儀ではずれを引いてしまい、家を追われてしまってね」
「そう、なんですか……」
脳裏に、屋敷での出来事がよぎっていく。
俺にやさしくしてくれてた人たちは、みな、俺がはずれだと知ると冷たい態度をとってきた……。
「ぐす……」
「え?」
「ひどい……こんなにもお優しいかたを、たかがスキルがはずれだからといって、追放するなんて……」
ミュゼは俺のために涙を流してくれていた。
そんな姿を見て、俺はうれしかった。
現実は厳しい。
だが、そう決めつけるのは早計だったかもしれない。
「ありがとう、ミュゼ。それで君は? どうしてここに一人で?」
「私は王都で売られていた奴隷です。王都から別の街への移送中に、さっきの魔物に襲われたのです」
灰狼たちによって、ミュゼを乗せた馬車が横転。
御者、そして同乗していた奴隷たちもみんな死んだ。
残ったのは彼女一人、ということらしい。
「しかし解せないな。こんなにも美しいのに、奴隷に落ちるだなんて」
「あ、あう……ありがとうございます……」
「? どうしたのだ、ミュゼ?」
「きれいだなんて、初めて言われたものでして……」
おかしな話だ。
こんなにきれいなのに、初めてだって?
と、そこで俺は気づいた。
彼女の側頭部から、とがった耳がのぞいていることに。
エルフ、いや、これは……。
「君はハーフエルフなんだね」
「そのとおりです。さすが、マトー家の長男。ご慧眼であられます」
この世界ではハーフエルフは差別の対象になってる。
なるほど、ミュゼがいかにきれいだろうと、ハーフエルフならば、その見た目の美しさを正当に評価してもらえなくなるものだしな。
「馬鹿げた話だ。ミュゼはこんなにも美しいのに」
「あ、あの……どうして私にやさしくするのですか? 私はハーフエルフですよ?」
「俺は常々思っていたのだ。ハーフエルフを差別するのは、馬鹿らしいって」
俺は本が好きだ。
ハーフエルフが嫌われているのは、かつてハーフエルフの魔女が世界を滅ぼそうとしたから、という歴史があるから。
だが、くだらない。
悪いのは世界を滅ぼそうとしたそいつであって、ミュゼやほかのハーフエルフは悪くないではないか。
と思っていたので、俺はミュゼを差別しないことにしたのだ。
「なんて……お優しいお方……うう……こんなにやさしくしてくれたのは、あなた様が初めてです……」
「ところで君はこれからどうする?」
こんなところに婦女子を一人置いて、街へ行くわけにはいかない。
「たしか、奴隷の現在の持ち主が死んだら、拾ったものの所有物になる、だったな、法律では」
「そのとおりです。そして、お願いです、ヒラク様! どうか私を、あなた様の奴隷にさせてください!」
ミュゼが深々と頭を下げる。
奴隷は、元の主が死んでも、解放されるわけではない。(自分の死んだ後に解放すると事前に決めておくことはできる)。
前の主人が死んだ以上、次に彼女を拾った人間が所有者となる権利を得る。
「本当に俺でいいのか? 俺は家を追われた人間だぞ?」
「マトー家は関係ありません。慈悲深い、あなた様に仕えたいのでございます」
……ここで拒めば、次どんなやつに彼女が拾われるかわからない。
ハーフエルフだが、ミュゼはスタイルのいい美人だ。彼女の体目当てでひろって、ひどいことをする輩がでてくるやもしれない。
ならば、俺が先に拾ってあげたほうがいいか。
それにちょうど、俺も一人で旅をするのに少し不安だったところもある。
しかも都合がいいことに、奴隷なら主人の命令を絶対順守してくれる。ならば、俺の持つこの謎の【開】のことについても、他言しないだろう。
「わかった。よろしく頼む、ミュゼ」
「はい! 末永く、よろしくお願いいたします、ヒラク様!」
こうして俺は途中で拾った奴隷のハーフエルフとともに旅立つことになった。
父に追放を言い渡されたときは不安だった。
しかしはずれスキルとされていた【開】が、どうやらとんでもなく凄いものであるようなので、先行きは思ったより悪くないのだろうと、俺は思うのだった。