26.巨大虫を使った魔族の企みも余裕で潰す
魔蟲の発生を止めるため、奴らの巣がある、妖精郷という巨大樹の森へとやってきていた。
俺とミュゼ、帝国おかかえ魔道具師マリクの三人は、邪神の遺体がある場所へと向かう。
スキル天網恢々。
周辺のマップおよび、そこにあるものをすべて表示するスキル。
これを使うことで、俺は邪神ギンヌンガガプの遺体がある場所へと、迷わず到着できた。
「この木の根元にある、穴の中に遺体があるんですか?」
俺たちがいるのは、妖精郷の中腹あたり。
そこにあったすさまじく巨大な木の根元。
俺たちの10倍ほどの大きさの穴が、目の前にはあった。
「そうだ。そしてここが、魔蟲どもの巣だと思われる」
「こ、これが巣の入り口だと!? じゃあ……」
「ああ。おそらく女王は、俺たちの想像する魔蟲よりも、何倍も大きいのだろう」
「まじかよ……女王……そんなでけえのか」
するとミュゼが首をかしげながら尋ねてくる。
「女王というのは?」
「魔蟲どもを産んでいる親玉だ」
「! そんなものがいると、どうしてわかるのですか?」
「やつらの見た目、巣穴の形、そして繁殖力の高さ等を考慮した結果、蟻に近い性質を持つのだろうと推測したからだ」
女王アリが一匹いて、そのために働く兵隊アリたち。
多分魔蟲どもはそれに近いコミュニティを築いてるだろう。
「すごい、瞬時に敵の正体に気づいてしまうなんて、さすがヒラク様!」
「ふむ。急ぐぞ」
巣の中は土むき出しの通路になっていた。
通路は複数に分岐し続け、まるで広大なダンジョンのようであった。
だが、俺には天網恢々がある。
詳細な地下のマップがある俺にとって、ゴール地点に到達することなど、容易いことだった。
道中、【気になる物】をいくつか見かけた。
だが、俺は焦ることなく、目的地……邪神の遺体がある場所へと到着した。
「な、なんですか……あの大きな、気持ち悪い……虫?」
俺たちが到着したのは、ダンジョンのボス部屋のような、馬鹿みたいに広いホール。
その最奥部に、グロテスクな見た目の超巨大虫が鎮座していた。
腹が異常に膨れ上がった、蟻のような見た目。
「なるほど、あれが、遺体を取り込んだ女王アリか」
そのときだ。
「ふふふ、その通りでございますよ!」
「だ、誰だ!?」
マリクが周囲を見渡すなか、俺は天井を見あげた。
「おまえが、今回の黒幕か」
「いかにも!」
そいつは天井から、ゆっくりと降りてきた。
一件、優雅に宙に浮いてるように見えるが、実は違う。
よく見ると、天上から1本の糸が垂れていることがわかる。
糸を伝って、そいつは降りてきた。
「はじめまして、下等生物たち。私は魔族が一人、【ザコグモー】」
「ザコグモー……魔族!? やはり魔族が裏で手ぇひいてやがったんだな!」
「そのとおり。すべては邪神様復活のため、必要なこと」
ザコグモーは、2足歩行する人間大のクモの見た目をしてる。
赤い毒々しい外皮に、ドレッドヘア。
クモのくせに腕は2本しかないようだ。
「ヒラク様、ここは先手必勝、魔法で攻撃をします!」
「やめておけ」
「! どうしてですか?」
「おそらく、攻撃すれば手ひどい反撃を受ける」
ふふふふ、とザコグモーが口元を手で押さえて笑う。
「敵ながら、見事な観察眼です。そのとおり! ここで魔法でも使って、後ろの母体を攻撃したら、大爆発を起こし、ここにいる全員木っ端みじんです!」
「大爆発!? どういうことですか?」
「冥途の土産に教えてあげましょう。現在、この女王アリは、邪神様の左足を取り込み、腹の中で培養してるのです」
女王アリの腹はうっすら光り輝いている。
張ってる腹の皮の向こうに、小さな黒い影があった。
「邪神様の左足を取り込んだ女王アリは、腹を培養器として、現在邪神様を産む準備に入ってる。そして! 腹の中には、外部から取り込んだエネルギーが満たされている。つまり! 少しでもあの女王アリを攻撃すれば、ため込まれたエネルギーが一気に外へ排出!」
「結果、大爆発、ということか」
「そのとおり! あなたは話が早くて助かる」
「ふむ。手を出せば爆発してあたり一面が焼け野原。手を出さなければ邪神が復活して世界が滅びると」
「素晴らしい理解力。敵ながらあっぱれです」
ふむ。
状況は理解できた。
「んだよそりゃ! 手詰まりじゃあねえか!」
「ええ、そうです。すでに勝負は決してるのです。『勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む。』私の好きな言葉です」
ザコグモーが勝ち誇ったように、金言らしきことを言う。
「ど、どういう意味なのでしょう?」
「後でじっくり調べるといいですよ。ああ、もうあとでなんてありませんけどね。ふふふ」
「ど、どういうことです!?」
「まもなく、女王が生み出した魔蟲どもが、帝都カーターに大群をなして襲い掛かるからです! そこで手に入れたエネルギーで、邪神様は復活なさることでしょう!」
「ま、魔蟲の大軍が帝都に!?」
「ええ、その数は……5000」
「5000……! そんな……」
ふむ。
なるほど、やはりペラペラしゃべっていたのは、時間稼ぎのようだ。
俺たちが戻って、帝都を助けにいけないようにするための。
「さぁまもなくです。帝都を襲い、人間どもを食らったエネルギーが、女王を通して邪神様に一気に流れ込む! そうすれば終わりです! ははははは!」
だが、そのときである。
「な、なんだ!? どうなってるのだ!?」
突然ザコグモーが焦りだした。
困惑するミュゼとマリクをよそに、俺は言う。
「どうした? 今頃帝都を魔蟲の群れが襲っているのだろう?」
「そ、そのはず。眷属が見せてる映像に、不具合が?」
ふむ、どうやらザコグモーは眷属と視覚を共有してるようだ。
ここにいながら、帝都の様子を見れるのだろう。
「いや……その、はず……だが、どうして……?」
「ふむ、どうして魔蟲が全滅したのか、か?」
ミュゼたちが驚いてる。
「何も不思議なことはない。マリク、おまえが用意したんだろう?」
「そ、そうか! 帝国軍が、おれの作った装備で、魔蟲を撃退したのか!?」
ふむ、自分で作った武器が使われたというのに、何を驚いてるのだろうか。
「ば、馬鹿な! ありえません! やつらは退けるだけで手いっぱいだった! 今回は5000の大軍! しかも、遺伝子操作して嗅覚を欠いた個体だ! 匂いで退けることはできないはず!」
「は! 見たかごらぁ! これがヒラクの力だぁ!」
ふむ?
作ったのはマリクだったような気がするのだが。
まあ力を覚醒したのが俺なので、そういう意味で俺の力っていいたいのかもしれん。
とはいえ作った本人のほうがすごいとは、俺は思うのだがな。
「まいりました……まさか、魔蟲を撃退する兵器を、こんな短時間で開発するとは! あなたの力ですか、ヒラク・マトー!」
作ったのはマリクだが、しかし対策はそれだけではない。
ここを出る前に、俺は【開】を使って、兵士たちの潜在能力を開放しておいたのだ。
だがまあ、そこまで言ってやる義理はない。
しかし……ふむ。
俺の名前を知ってる、か。
「し、しかしまだです! 帝都だけじゃない、秘密裏に周辺国家から人間どもをさらってきて、ストックしてある食料がある! やつらを使って邪神様の復活を!」
「できないぞ。なあ、フレイ?」
どがん! という音ととともに、ホールの天井が崩れる。
そこから赤毛のフェンリルが下りてくる。
『父上さま! つかまっていた人たち、全員解放してきました!』
「なんですとぉおおおおおおお!?」
フレイが俺の隣に着地し、体をこすりつけてくる。
ふむ、よくやったぞ。そういう気持ちを込めて首の下をなでてやった。
「ヴィルヘルミナが帝都に誘導してるんだな?」
『はい! なので、食料の人たちは、全員が帝都に避難しました!』
ザコグモーはその場にがくん、と手をつく。
「ふ、ふふふ……まさか、こんな下等生物に、足元をすくわれるとは」
「ふむ、ザコグモーよ。正確に言うなら、足をすくわれる、だぞ」
膝をついてるザコグモーを、見下ろす。
「お前の敗因は、俺たち人間をなめくさっていたことだ。じわりじわりと恐怖を感じさせながらではなく、さっさと人間をさらって、とっとと養分を送り込み、邪神を復活させておけば結果は違っただろう」
腹から見えるシルエットから察するに、かなり邪神の培養は進行していた。
間一髪、だったな。
「ふ、ふははは! こうなったら自棄です! 女王アリよぉお!」
ザコグモーは糸を手から出して、飛び上がる。
そして女王アリの口に飛び込む。
「私を食らい、最大出力で、この辺り一面を消し飛ばすのです!!!!!!!」
ばくん、と女王アリがザコグモーを食べる。
どんどんと、腹の光が強くなっていく……。
「やべえ! 自爆する気だぞ! どうするヒラク!?」
「問題ない。行くぞ、レヴァ」
俺は聖剣レーヴァテインを抜いて、地面に突き刺す。
ガキィイイイイイイイイイイイイイン!
「女王アリが、一瞬で凍結しました!?」
「敵の熱エネルギーをすべて奪わせてもらった」
奴の体にはすさまじいまでの熱量が渦巻いていた。
だがそのエネルギーを反転させることで、あの巨大なアリを凍結させることに成功したのだ。
氷の聖剣レーヴァテインは、敵の熱を奪い、凍らせることができる。
そして奪ったエネルギーはというと……。
「ヒラク様の聖剣が、強く光り輝いてます!」
「奪った熱をすべて、破壊のエネルギーに変える」
巨大アリに内包されていたエネルギーはすべて、奪った。
攻撃しても爆発することはない。
あとは、開錠で邪神の遺体の破壊不可能オブジェクトを書き換えて……準備完了。
「これで、仕舞だ」
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
今までと比べものにならないくらい、すさまじい斬撃が、巨大アリに襲い掛かる。
アリは邪神ごと、木っ端みじんに吹っ飛んだ。
「すごいです! ヒラク様! あのような巨大な虫を、一撃で倒してしまわれるなんて!」
『父上さますごーい! かっこいー!』
ふむ、これで女王を失った蟲どもは、統率を失って、もう帝国を襲うことはないだろう。
これで、片が付いたわけだ。
マリクは泣きながら、何度も俺に頭を下げてきた。
「ありがとう、ヒラク! あんたのおかげで、帝国は救われた! 本当にありがとう!」
「ふむ、なに気にするな。当然のことをしたまでだ」
・SP50000→45000(開錠による書き換え)→145000




