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23.皇妃も余裕で助ける


 国選勇者となった俺は、邪神復活を阻止する旅へと出発した。

 馬車に乗って、俺たちは移動してる。


「父上さま~? これからどこへむかわれるのですか?」


 俺の膝上に座るフレイが、問うてくる。

 フレイはまだ赤子だからか、俺に甘えてくるのだ。子を託された身としては、そういうスキンシップも行っていこうと思ってる。


「マデューカス帝国へと向かう」

「までゅ……? どこです~?」

「王国の隣にある、大帝国だ。そして……」


 正面に座るヴィルヘルミナが、胸を張って言う。


「あたしの故郷でもあるのよ!」

「あ、そっか! 母上さまは、皇帝の娘でしたね!」

「そ、そうよ……ふふ、は、母上ってあれね、て、照れるわね♡」


「だめですか?」

「いいわ! おいでフレイちゃん!」

「わー!」


 フレイがヴィルヘルミナの膝の上に乗る。

 ふむ、婚約者(次期妻)と娘が仲良くすることはいいことだな。


「でも父上さま、どうして母上さまのお国に向かわれるのです?」

「帝国の助力も得ようと思ってな」


 邪神の復活は、なんとしても阻止する必要がある。

 だがそのためには、マンパワーが足りない。


 邪神の遺体がどのくらいの数に分割されているのか、また、どこに封印されているのか、わからない状態だからな。


「王国には、遺体の記述の書いてある書物ってなかったの?」

「ああ。どうやらクロマックが、イーマンを閉じ込めた後、邪神に関する書物はすべて処分したようだ」


 イーマンもまた、国内に邪神の遺体やそれに関する記述がないか探してくれるとのことだった。

 しかし彼女だけに任せるわけにはいかない。


「遺体は速やかに処分する必要がある。だがそのためには情報収集が必要不可欠だ」

「だから、母上さまのお国に行って力を借りるのですね!」


「そういうことだ。フレイはかしこいな」

「ありがとうございます! でもふれいがかしこいのはとーぜんです! なぜなら、世界一頭のいい父上さまの、娘ですからー!」


 正確には俺との血縁関係はない……などと野暮なことは言わない。

 幼子にとって、親からそのような突き放すセリフを言われたら、トラウマになり、成長を阻害することになるからな。


 俺は黙って、娘の頭を撫でてやった。

 フレイはうれしそうに、しっぽをぱたぱたと降る。


 と、そのときだった。


「ヒラク様。敵の気配がいたします」


 奴隷のミュゼのスキル、超聴覚が発動したようだ。

 敵の存在を事前に察知することができるスキルである。


 俺はスキル、天網恢々(てんもうかいかい)を使用する。

 周辺の詳細なマップとともに、周囲に【ある】ものをすべて感知できる。


 なるほど、進んでいった先に人間と、そして周りに魔物が数体いるな。


「迎撃する」

 

 ここから少し距離がある。向かっている間に人が死ぬかもしれん。

 ならば魔法で、遠隔で倒すのがベスト。


 俺は窓から身を乗り出し、右手をかざす。


氷槍連撃フリーズ・ランサー


 魔法陣が展開、そこから無数の氷の槍が射出される。


「こんなとおくから魔法ってあたるの?」

「鷹の目スキルを使った。天網恢々のマップで敵をロックオンすれば、どれだけ離れてようと魔法は確実に当たる」

「す、すごいわ! 天網恢々とのコンボがあれば、もう遠隔で敵に攻撃当て放題! 無敵ね!」


 ふむ。

 どうだろうか。


 俺はマップで敵の位置を確認。

 だが、少し待っても敵が消えない。


「つまりどういうことでしょう?」

「上級魔法が効かない相手ってことだ。ミュゼ、ヴィルヘルミナはここにいろ。フレイ、フェンリルになって俺を乗せてくれ。直接敵をたたく」


「「「はい!」」」


 直接出向くより遠隔で倒すほうが早い。

 が、魔法で倒せないのなら、聖剣を使って直に倒すしかない。


 フレイは窓の外へジャンプすると、巨大なフェンリルへと姿を変える。

 彼女の背中に乗り、敵のいる場所へと向かう。


 フレイは草原を疾風のごとく駆け抜けていく。

 やがて、敵の姿が見えてきた。


『馬車と……あれは虫、でしょうか? でっかくって固そうです!』


 華美な装飾の馬車が、黒い巨大虫に囲まれている。

 周りには護衛らしきやつらがいるが、どうにも疲弊してる様子だ。


 虫たちは氷の槍を受けたのか、体を凍結させられている。

 しかしまだ生きてるのか、手足を動かしていた。


 ふむ、上級魔法ですら倒せない相手となると、かなり厄介だ。だが問題ない。


「鑑定」


魔蟲まちゅう(SS)

→古竜と同等の強さを持つ巨大な虫。外殻は神威鉄オリハルコンに匹敵する硬度を持つ。


「フレイ。どうやらあの蟲は、魔蟲まちゅうといって、あれ1匹が古竜と同格らしい」

『そんな! 化け物みたいな虫がどうしてここに?』

「それについて考えるのは後だ。フレイ、俺が敵をやるから、おまえは待機」


 娘を敵のど真ん中につっこませ、危険に身をさらすわけにはいかない。

 血がつながってなくとも、俺はフレイの父だからな。


『なんとお優しいのでしょう! わかりました、ふれいは父上さまのいうことをききます! ごぶうんをー!』


 俺はフレイの背中をけり、ジャンプする。

 腰に据えた聖剣レーヴァテインを抜く。


「レヴァ、行けるな」

『わはは! 無論じゃ!』


 俺は上空から、氷の聖剣を振る。

 ズバァアアアアン!


 俺の放った一撃は、魔蟲の外殻を濡れた紙のごとく容易く引き裂いた。

 ふむ、いけるな。


「な、なんだ?」「何が起きてるんだ?」


 困惑する護衛たちをよそに、俺は着地と同時に駆け抜ける。


 スパパパパパパン!


 外殻めがけて剣を振るだけで、魔蟲は面白いくらい簡単に切断されて、そして消滅する。


『おお、なんと流麗な剣技じゃ! すごいな!』

「ふむ、すごいのはこの剣だろう。神威鉄オリハルコン並みの硬度がある外殻を切っても刃こぼれ一つしない」


『確かにわしもすごいが、使い手がへぼではここまでキレイに切断できぬ。魔蟲を倒せたのはわしだけでなく、我が主の洗練されたすさまじい剣術があってこそじゃ! すごいのはおぬしよ!』


『アイテムを選択してください』

・魔蟲の外皮×100(S)

・魔蟲の外殻×10(SS)

・魔蟲の無傷死骸×1(SS+)


 魔物を倒すのは思えばひさしぶりだった。

ヒラクモノ】を持つ俺は、こうしてドロップ品を、自分で選んで回収できるのだ。


 だが、選ぶのは後回しだ。


「けがはないか、君たち?」


 俺は護衛たちを見渡す。

 彼らには目立って大きな傷はなさそうだ。ふむ、良かった。


「ありがとうございます! 我らは大丈夫ですので……」


 今の戦闘で、護衛たちはだいぶ疲弊しているようだ。


「治癒魔法を使えるものがすぐにここへ来る。君たちはケガを治せ」

「「「ありがとうございます!」」」


 俺は馬車の中にいる人の安否を確認するべく、ドアをノックする。


「中の方、けがはないか?」

「はい、無事ですわ」

「……ふむ? この声は……」


 そこへ、フレイと馬車がやってきた。


「ヒラク様~!」

「ミュゼ、彼らの治療を頼む」

「はい!」


 ミュゼへ治療するよう言ってる間に……。

 がちゃり、とドアが開く。


「ああ、やはりその声、あなたでしたので、ヒラク・マトー」

「……やはりでしたか、お久しぶりです」


 中から出てきた彼女に、俺は膝をついて頭を下げる。


「そんな、頭を上げてくださいまし。あなた様はわたくしの命の恩人で……娘の婚約者なのですから」


 そこへ、ヴィルヘルミナとフレイが近づいてきて、ぎょっと目をむく。


「お、お母さま!?」

「母上さまの、お母さま……って、ことは!」


 そう、目の前にいるのは、どこかヴィルヘルミナの面影を落とした、美女。


「フレイ。この方は、マデューカス帝国皇帝の皇妃、【カルメル=ディ=マデューカス】様だ。失礼のないようにな」

「カルメル……皇妃さま! あわわわ! しつれーしました!」


 ぺこりとフレイが頭を下げると、カルメル皇妃は微笑みながら言う。


「かしこまらなくていいのよ。ヒラクの関係者ならなおのこと」

「は、はひぃい」


 皇妃の前ということでフレイは緊張してるようだ。

 一方で、カルメル皇妃は俺に言う。


「それにしても、ヒラク。随分と強くなりましたね。あの魔蟲をまさか一撃で倒せるほどの実力を身に着けているとは。すごいですわ」

「お褒めの言葉、ありがとうございます」


 こうして、俺は移動中の皇妃とその護衛のものたちを、助けたのだった。


・SP45000


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