21.異空間に幽閉されてる宰相を余裕で助け出す
宰相クロマックは魔族だった。
自らの命と引き替えに、王都を壊滅状態にするガスを発生。
しかし俺は聖剣の真の使い手……勇者となり、毒ガスを浄化したのだった。
ほどなくして。
「ヒラク! 無事か!」
どたばた、と帝国皇女のヴィルヘルミナが、ミュゼ、フレイを連れて謁見の間へとやってきた。
「こ、これは一体!?」
毒ガスを吸って倒れ伏す、国王カイラーイと騎士たちを見て、ヴィルヘルミナが驚く。
俺は彼女らに起きたことを端的に話した。
「わぁ……! すごいですー! 父上さま、勇者様になるなんてー! かっこいー!」
フレイが尻尾をぶんぶかふりながら、俺を褒めてくれる。
俺は娘の頭をなでてやってると、ミュゼが聞いてくる。
「ヒラク様。これからどうしますか?」
「本物の宰相を探す」
「本物の……宰相?」
「ああ、イーマンってやつらしい」
クロマックが来る前、この国に元々いた宰相だ。
「あの、父上さま? どうしてそのイーマンってかた、生きてると思うのですか? 邪神復活の邪魔となるなら、殺してしまった方が都合がいいのではないかと、愚考いたします」
ふむ、フレイの意見はもっともだ。
「しかしそうなると、この国は回っていかなくなるからな」
カイラーイは無能王だった。
こんなのに国が回せるわけがない。
カイラーイにかわり国を回していた重要人物、それがイーマンだ。
「そいつがいなくなると王国は滅びてしまう。でもそれは、邪神復活を秘密裏に行おうとしてる邪神教団たちにとっては都合が悪い」
国運営に精通してるイーマンを生かしておいてると考えるのが妥当だ。
「恐らくどこか地下に幽閉し、そして死なない程度の生活を送らせてるのだろう」
「すごい洞察力……! やっぱりヒラクはすごいわ! 頭良すぎよ!」
ヴィルヘルミナが感心したようにうなずく。
ミュゼが神妙な顔つきで言う。
「ヒラク様は、どうしてイーマンを探すのですか? 自分には直接関係ない人ですよね?」
「決まってる。俺に直接関係なかろうと、目の前に困ってるやつがいたら助ける。それが、持つ者の義務だからだ」
たとえ回り道になろうと、幽閉されてるだろうイーマンを放っておいて、次には進めない。
合理的でなかろうが、力あるものの義務として、人を助けるのだ。
「やはりヒラク様はお優しいお方です。しかし、イーマン様を探すとして、どこに居るのか見当はついてるのですか?」
「アテはついている。ステータス展開」
俺は新しく獲得したスキルに、注目する。
■天網恢々(UN)
→周辺のマップを表示。一定範囲内に存在するものを表示可能。
熟練度に応じて新たな機能が解除される。
※表示時間に応じてSP消費
「スキル天網恢々、発動」
その瞬間、俺の目の前に、半透明の窓……ステータスが表示される。
そこには、城を上から見た図が表示されていた。
「す、すごいです! この地図……城の中の構造が、こんなに詳細に描かれてるなんて! このような精密な地図は見たことがありません!」
確かにここまで詳細は図面の地図は見たことないな。
こんなものが出回ったら、犯罪行為に使い放題だからな。作れないというか、作らないだろう。
当然、俺はこの地図を使って悪さなどしない。
これはあくまで天から与えられし恩恵。ノブレス・オブリージュの精神にのっとり、俺は人助けのためだけに使おう。
俺は窓に触れる。
どうやら表示できる場所は動かせるようだ。
拡大縮小も可能。
さらに階層ごとにマップの切り替えもできる。
……ふむ?
「あのあの、父上さま。地図上のこの点はなんでしょうか?」
地図の上では光点がいくつも表示されていた。
それの一つに触れると……名前が表示されているのがわかる。
光点はふらふら……とゆっくり移動していた。
ふむ……もしかしたら。
続いて、俺は謁見の間のマップを表示。 するとそこには、俺たちの名前が。
「このマップには、建物の図面のほかに、この建物のなかにいる人間の正確な位置すら、表示できるようだ」
「な、なんてすごい地図なの! そんな地図聞いたことないわよ!」
ヴィルヘルミナが驚いて言う。
技術大国である帝国をもってしても、ここまでの地図は作れないようだ。
「ああ、だからこその、ユニークスキルなのだろうな」
天網恢々。
正確なマップと、そしてそこに【ある】ものの正確な位置を示す力、か。
なんと使える力だろうか。
天はやはり俺に、これを使って人を救えと言ってるのだろう。
その無言の圧力に、あらがうつもりもないし、煩わしいとも思わない。
責務を全うすることは、俺のやりたいことであって、それを可能にする力をくれる天には感謝の念しかないのだから。
与えられしこの有用な武器を、有効活用させてもらおう。
「ステータス展開」
~~~~~
ゲータ・ニィガ王城
【人物・一覧】
・イーマン・ロス
・
・
・
~~~~~~
「やはり城の中にイーマンはいるようだ」
「ヒラク! そんなことまでわかるの!?」
「ああ。もともと場所のステータスを開けば、その周辺ある魔物の位置はわかったんだが、天網恢々を得たからか、人物の一覧も見れるようになった」
「すごいわ! ヒラクってばどんどん進化していくじゃあない! ますます魅力に磨きがかかってて……はぁ♡ 素敵♡」
ステータスに表示されてる、人物一覧。
そこのイーマン・ロス元宰相の名前に触れる。
マップ上から一瞬すべての光点が消えて、マップ片隅に、1つの光点が出現する。
ふむ、ここにイーマンがいるようだ。
「いくぞ」
「「「はい!」」」
倒れてる連中は一旦放置しておく。
城のなかは安全だからな。
それより、イーマンの安否が気になる。
裏で手を引いていた魔族が死んだことで、イーマンに何か悪影響を与える可能性のほうが高いからな。
俺はマップを頼りに地下へと進んでいった。
ややあって、目的地【近く】まですぐに到着したのだが……。
「ヒラク様。これより先は壁になっており、進むことができないようです」
地下の通路は、石の壁で完全に封鎖されていた。
ミュゼが壁を調べて、その結果を告げる。
「転移の魔法術式が組み込まれてる感じでもありません。幻術の魔法で作られた壁でもないみたいです」
魔法でどこか別の場所へ転移させる感じでも、魔法で入口をふさぎ入れなくしてる感じでもないようだ。
「ふむ。マップではこの壁の向こうに、イーマンがいることになってるのだがな」
「父上さま、どうしましょう? 手詰まりですね……」
「いや、まだだ。ステータス、展開」
俺は、目の前の壁のステータスを開く。
~~~~~~
異界転移門
【状態】
停止中(所有者権限者【クロマック】死亡により)
~~~~~
「ふむ。これは、異界転移門というらしい」
■異界転移門
→超高度な魔道具。この扉の中は異界化されており、物理的、魔法的な手段での破壊および脱出は絶対に不可能。
「どうやらこの壁自体が、異界への門となっており、この中にイーマンが閉じ込められてるようだ」
「!? じゃ、じゃあ早く門を開けないとじゃあないの!」
「ああ。だが、これを用意したクロマック以外に開けることは不可能なようだ」
「そんな……じゃあ、もう中のイーマンを助けられないじゃあない……」
「いや、まだだ。開錠」
【開】が持つ力の一つ、開錠。
これを使って状態を書き換える。
・停止中を、解除(SP30000)
「さ、三万SP!? ヒラク、今どれくらいあるの?」
「ちょうど三万あるな。氷剣の勇者に進化したボーナスだろうか」
俺は躊躇なくポイント全部使って、門を起動状態へと変えた。
「そ、即決……3万もあったポイントを? 全部使うなんて」
「当然だ。何のためのポイントだと思ってる? 人を助けるためだろうが」
「やっぱり……すごい決断力と高潔な精神……かっこいいわ……♡」
俺が開錠を使用し、状態を書き換える。
すると、石の壁がゴゴゴゴと動いて人が通れるようになった。
「! ヒラク様、人が倒れてます! 女性……でしょうか?」
俺はすぐさま中に入る。
真っ黒で、何もない空間だった。
倒れているのは眼鏡をかけた、藍色髪の美女。
~~~~~
イーマン・ロス(21)
【状態】
衰弱
~~~~~~
よかった。生きてるようだ。
ミュゼに治癒魔法を施させると、イーマンは目を開ける。
「……ここは?」
「大丈夫だ。もう心配ない。クロマックは倒した」
じわ、とイーマンは目に涙をためると、何度も小さく、かすれた声で言う。
「……あり、がとう。ありがとう、死ぬかと思いました。ありがとう……」
「気にするな、当然なことをしたまでだ」
・SP0→SP5000