20.勇者へと進化、教団の陰謀を阻止する
第三皇女ヴィルヘルミナの助力もあり、俺は国王とアポなし謁見することができた。
ミュゼたちは別室で待機、俺だけが部屋に通される。
王城、謁見の間には、もさもさした髭の男が、玉座に座っている。
「カイラーイ=フォン=ゲータ・ニィガ国王陛下。この度は私の無理なお願いを聞いてくださり、誠にありがとうございます」
国王カイラーイの前に俺は跪いて、頭を下げる。
「ウム。シテ? 何ヨウダ?」
『ヒラクよ』
俺の脳内に、女の声が響き渡る。
氷の聖剣レーヴァテインだ。
聖剣は現在、マトー家にある。
一応マトー家の所有物だからな(スキルで呼び出せるが)。
今会話してる暇はないと、この子も馬鹿ではない、わかってるだろう。
そのうえで声をかけてきたということは、何か急を要することが発生してるということだ。
『どうした?』
『我が主よ。そこの国王から、邪悪なるものの気配を感じるのじゃ』
……ふむ。
確かに、椅子に座ってるカイラーイ国王は、どこかうつろな目をしてる……ように見える。
だがそれは、言われてみれば程度の変化でしかない。
「ドウシタ?」
「カイラーイ陛下。少し、近づいてもよろしいでしょうか」
すると……。
「無礼者! 実家を追放されたはずれスキルのごみが、偉大なる国王陛下に近づくとは何事だぁ!?」
「……失礼。あなた様はどなたでしょう?」
国王の隣に、背の高い眼鏡をかけた男が立っている。
「ワターシはクロマック! 宰相の名前を知らぬとは、失礼であるぞはずれ者!」
「……ふむ。クロマック殿。それは失礼しました。しかし宰相はイーマン殿ではございませんでしたか?」
宰相はたしかイーマンって名前の老人だったはずだ。
『なぜ知っておるのじゃ?』
『王城で働くやつの名簿は、全部頭に暗記してある』
『なんという記憶力! さすがは我が主!』
しかし、ふむ。
つまりクロマックはイーマンとチェンジして、宰相になったということか。
宰相なんて要職についてる人間が、そう簡単に交代するとは考えにくい。
『レーヴァテイン』
『むぅ。わしにも何か愛称が欲しいの』
『そんなものはあとだ。邪悪なるものの気配がするのは、国王だけか? クロマックはどうだ?』
『気配は国王だけじゃ。クロマックとやらからせんが、しかしわしが感知できるのは邪神の気配のみじゃ』
なるほど、理解した。
ふむ。国王には邪神の気配がして、隣には怪しい男が立っている。9割がた黒だが、念のため。
「失礼、カイラーイ陛下、そして、クロマック殿。ステータス、展開」
~~~~~~
カイラーイ(50)
【状態】
邪神の呪い
~~~~~~
~~~~~~
クロマック
【職業】
魔貴族(子爵級)
~~~~~~
黒確定だ。
「おい貴様ぁ! さっきから何をこそこそとやっておるぅう! 用事がないならされ! でなければ捕まえるぞ!」
「スキル、聖剣召喚」
「な!?」
俺の手の中に、青い刃の美しい剣が出現する。
聖剣レーヴァテインを、俺は地面に突き刺す。
氷の魔法を発動。
がきぃいいいいいいん!
「な、なにをする貴様ぁ! ワターシと国王陛下に魔法で攻撃してくるなんて! 騎士どもよ! そこの罪人をひっとらえるのだー!」
謁見の間にいた騎士たちが、クロマック宰相に命令されて、俺を捕縛しようとする。
騎士を怪我させるわけにはいかない、かといって手加減して対処するのも面倒だな。
『条件を達成しました』
『スキル【威圧】を獲得可能となりました』
■威圧(S)
→敵を威圧し動けなくする。(※威圧の成否は熟練度、ステータスに依存する)
【開】を持つ俺は、このように自分にとって都合のいいスキルを、自らの意思で選択できる。
このようなすごい力を与えられてるのだ。俺は、人にできないことをせよと、天から命令を受けてるのだろう。
ならば、俺はその意志に従うまで。
ノブレス・オブリージュ。マトー家を追われようが、俺に力があるのは事実なのだから、俺は俺の責務を全うするのにいささかの躊躇もない。
「SPを消費してスキル【威圧】を獲得」
・SP16000→15500
「スキル威圧発動」
その瞬間、騎士の連中がその場にへたり込む。
「な、なにをしてるのだ貴様らぁ! 誰かあやつめをひっとらえろー!」
「なんだクロマック。貴様にも威圧が効いてるのか。魔族のくせに」
威圧スキルは雑魚を動けなくするものなので、このクロマックも雑魚ということだろう。
もとより臆してなどいなかったが、これで今早急に解決すべき問題が、一つに絞れたのは都合がよかった。
「な、なななぁ、なぁにを言ってるのですかぁ!? ワターシは魔族などでは……」
氷の魔法で動けなくなってるクロマックは放っておいて、俺はカイラーイ国王のほうをなんとかする。
~~~~~~
カイラーイ(50)
【状態】
邪神の呪い
~~~~~~
■邪神の呪い
→この呪いにかかると、自由意思を奪われ、邪神ギンヌンガガプの都合のいいように行動することになる。魔法、アイテムを使って解除しようとすると絶対死ぬうえ、解除を試みた人間に呪いがかかる。
かなり厄介な呪いのようだな。
だが、【開】ものを持つ俺には、関係ない。魔法もアイテムも使わずに、解除できるのだから。
・邪神の呪い、の解除(SP10000)
『SPを消費して、邪神の呪いを解除しますか?』
「イエスだ。スキル、開錠発動」
ぱきぃん!
「う、ぐうぅう……な、なんじゃ? 何が起きてるのだ?」
「目が覚めましたか、カイラーイ国王陛下」
「う、うむ……どうなっておるのじゃ?」
「説明は後で致します」
これで問題は解決だな。
そう思ってると、クロマックが「ふ、ふふ、馬鹿がぁ!」と脂汗を額にかきながら言う。
「呪いを解除したなぁ! ひひひ! ヒラクぅ! おまえは今からワターシの! 【邪神教団】の新たなる傀儡となったのだぁ!」
「ふむ、邪神教団。それが貴様ら団体の名前か」
「そうだぁ! ひひ! さぁヒラクぅ! 貴様も邪神様復活のため、まずは目撃者を殺せぇ! 一人残らずなぁ!」
しーん……。
「な、なにをやってる貴様ぁ! はやく馬鹿な国王と、そして馬鹿な騎士どもを殺せ! 殺せよおぉ!」
「断る」
「なんだとぉおおおおおおおおお!?」
驚愕するクロマックに、俺は言う。
「残念だが、国王にかけてあった邪神の呪いは、俺に効かない」
「ば、ば、ばかなぁ!? なぜええ!?」
「答えてやる義理はないな」
すると俺の手に持たれてる、聖剣レーヴァテインが言う。
『そうか! あの呪いは魔法、アイテムを使って呪いを解除すれば、感染する。じゃが、ぬしはスキルを使って解除した! ゆえに、呪われないということじゃな!』
『そういうことだ』
『くぅ~! なんとスマートな解決方法! さすがじゃあ!』
ふむ、さて。
「今のを聞いたな諸君。邪神が復活すると」
馬鹿のおかげで説明の手間が省けた。
クロマックのやつは、大声で、邪神が復活すると、国王や騎士たちに言ってくれた。
「邪神……?」「そんな!」「邪神っておとぎ話のなかの存在じゃあ?」「うそだろ……」
騎士たちが青ざめた顔になる。
ふむ、さすがに騎士程度じゃこのことは知らないか。国王はもちろん、絶対に、邪神については知ってるだろう。
さすがにマトー家にお役目を課したのは王家なのだし、知ってて当たり前……。
「じゃ、邪神!? なんじゃあそれは!? そんなものが存在するというのかぁ!?」
……ふむ。
どうやら、この国王も、なかなかの阿呆のようだ。困ったものだ。
国王を詰めるのは、あとでいい。
クロマックに俺は近づく。
「く、く、くそぉお! こうなったら……邪神様ぁ!」
ばっ! とクロマックが右手を上げる。
その手には邪悪な指輪が握られていた。
「わが命を代償に! 邪神様のお力を貸してくださいぃいいい!」
かっ! と指輪が輝くと……。
ぶしゅぅうううううううううううううううう!
突如として、クロマックの体から、紫色のガスが噴き出した。
追い詰められた状態から繰り出したガスだ。絶対にやばいものである。
だからこそ、俺は冷静になれた。
俺がやらねばアウトだからだ。
「鑑定」
■邪神の死毒ガス
→術者の命を代償に、半径10キロ内に毒ガスを噴霧する。ガスを吸ったものは1分で即死する。解毒不可。
ふむ。
この場には風魔法を使えるミュゼがいない。
「なんだ……このガス!?」「く、くるしい……」「たすけ、て……」
さて、どう対処するのか。
『逃げぬのだな』
突如として、レーヴァテインが俺に問いかけてきた。
「当然だ。俺には人を守る義務がある」
そのときだ。
『く、くく、くははははあ! 決めた! わしは、おぬしの剣になる!』
『条件を達成しました』
『氷の聖剣レーヴァテインの所有者権限が、【ケンシン】より【ヒラク・マトー】へと書き変りました』
『条件を達成しました』
『職業、神狼騎士と、職業、氷の剣聖が統合進化します』
『第二の職業、【氷剣の勇者】を獲得しました』
氷剣の勇者……?
統合進化、だと?
『今よりおぬしは、聖剣の真の使い手となった! 勇者に選ばれしものは歴史上何人もいたが、勇者へと【進化】ものは、おぬしが史上初! すごい、すごいぞ勇者よ!』
ふむ、勇者か。
これでよりいっそう、俺は頑張らねばならなくなったな。
だが問題ない。
俺はこれまでも、これからも、やることは変わらないのだから。
「レヴァ。このガスをどうにかできるな?」
『レヴァ! それが、わしの愛称か!』
「ああ。やれるな?」
『当然ッ!』
俺はレーヴァテインを手に持って、そして……強く振る。
ずばん!
放たれた斬撃は疾風となり、広がりつつあった毒ガスを、一気に消し飛ばした。
「浄化……?」
そのときだ。
ぱぁああ! とレーヴァテインが輝くと……。
「そのとおりじゃー!」
青髪の幼女が、突如として出現した。
全裸のそいつは、俺の体に抱き着いて、ほおずりする。
「誰だ、貴様」
「わしじゃ! レヴァじゃ!」
「ふむ? レヴァ……なぜ人間の姿となる?」
「おぬしが真の聖剣使いとなったからじゃ。わしの力が100%引き出せるようになったからな!」
ふむ。
なるほど、毒ガスの浄化も、そして聖剣の人化も、俺が勇者となったことで可能になったのか。
「我が主よ! おぬしは本当にすごいのじゃ! 邪神教団のたくらみをふせぎ、多くの人を助け、そして勇者となった! どれもすごい偉業なのじゃー!」
こうして、俺は邪神復活をまたしても阻止したのだった。
『条件を達成しました』
『ユニークスキル、【天網恢恢】を獲得しました』